食虫植物のウツボカズラは、葉が変化してできた壺のような袋状の捕虫袋で罠(’落とし穴)を作り、中に入って来た虫を消化液で溶かし栄養にする。
一般的には地上で罠をはっているのだが、なんと地面の中に罠をしかけていたウツボカズラのニュータイプが発見された。
インドネシア、ボルネオ島、北カリマンタン州の熱帯雨林の土の中で発見され、その捕虫袋の中にはたっぷりと獲物が詰まっていたという。
この新種は「ネペンテス・プディカ(Nepenthes pudica)」と命名された。160種の食虫植物が分類されるウツボカズラ属の仲間だ。
このウツボカズラは特殊な地下茎を形成し、小さくて白色の葉緑素のない葉を付ける。捕虫袋はこの葉よりはるかに大きく最大11cmで、赤みがかった色をしている。
捕虫袋は地面の下に伸びていて、地中で暮らすアリ・ダニ・甲虫といった獲物を捕らえるのだ。
このように地中に特化したウツボカズラが確認されたのは、今回が初めてであるそうだ。
新たに発見されたネペンテス・プディカ(Nepenthes pudica) / image credit:Dančak et al ., doi: 10.3897/phytokeys.201.82872.
乾燥した高地ゆえの適応進化か?
地中の獲物を狙う新種のウツボカズラだが、生息するのは標高1100~1300メートルの比較的乾燥した山の尾根だ。
研究グループは、この生息環境ゆえに地下のトラップが進化したのではと推測する。
研究グループの1人、英ブリストル大学のミカエル・ゴロス博士は、「地下空洞は湿度などの環境が安定しており、乾季にはエサが多いのだろう」と仮説を立てている。
ネペンテス・プディカの主な獲物は、ほかのウツボカズラ属の仲間と同じくアリだが、面白い発見もあったようだ。
捕虫袋の中には、蚊の幼虫や線虫のほか、新種と見られるミミズの類など、多くの生き物が見つかっているのだ。
地下に特化した新種のウツボカズラ / image credit:Martin Dancak
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ネペンテス・プディカはボルネオ島の固有種で、北カリマンタン州メンタラン・フル地区西部にある地域でしか知られていない。
狭い範囲にしか分布しておらず、個体数が少ない上に、生息域が失われている可能性もあることから、IUCNレッドリストの「絶滅寸前種」として、予備的に保全されるための条件を満たしている。
研究グループのウェウィン・トジャスマント(Wewin Tjiasmanto)氏は、この発見は「インドネシアのボルネオ島が世界の生物多様性のホットスポットとして重要」であることを示しており、島の自然保護にとっても大切なことであると語る。
「この個性的な食虫植物の発見が、ボルネオ島の熱帯雨林の保全につながることを願う。原生林はヤシ油のプランテーションに変わっているが、これを防ぐか、少なくとも遅れさせることになれば」とのことだ。
この発見は『PhytoKeys』(2022年6月23日付)で報告された。
References:Meet Nepenthes pudica, Carnivorous Plant that Produces Underground Traps | Sci-News.com / written by hiroching / edited by / parumo
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