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福島第一原発での廃炉作業はまだ続いている(写真:ロイター/共同通信

7月10日投開票の参議院選挙に向けて各党が激しい選挙戦のただなかにある。国民の大きな関心事となっているのは、今夏の電力政策だ。

<安全が確認された原子力の最大限の活用を図ります>(「自由民主党参院選公約2022」より)
<安全性が確認できた原子力発電所については可能な限り速やかに再稼働します>(「日本維新の会・マニュフェスト」より)

そのなかで、自由民主党日本維新の会などは原子力発電所の再稼働を選挙公約に盛り込んでいる。6月28日には岸田文雄首相(64)が「審査の迅速化に取り組み、最大限活用する」と原発の再稼働に言及した。

日本で稼動している原発は現在4基のみ。7月中旬には定期検査中の大飯原発4号機(関西電力)の再稼働が見込まれているが、電力ひっ迫の解消にはまだまだ至りそうにない。

現在、停止している原発がいっせいに再稼働すれば解消するという声も多いが、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長はこう指摘する。

「現在止まっている原発には、テロ対策のずさんさによって、原発の安全性を審査する原子力規制委員会によって稼働を認められなかったり、津波対策が不十分だとして裁判所に稼働を差し止められているものもあります。政府が動かしたいからといって、直ちに動かせるものではないのです」

事故時の住民の避難計画の不備が指摘されている原発もある。福島第一原発事故では、「想定外」を理由に責任から逃げ続けた国や東京電力。“想定”されるあらゆる懸念が解消されるまで、安易な再稼働が許されないのは論を待たない。

原子力への固執で遅れた再生可能エネルギーの普及

原子力政策そのものを見直すべき時期に来ているという。

6月17日最高裁福島第一原発の事故における国の賠償責任を認めないという判断を示しました。つまりは、今後、原発事故が起こった場合、電力会社がすべての損害賠償の責任をとることになる。しかし、そんな責任を電力会社が負うことはできないでしょう。 さらに、ウクライナでは稼働中の原発をロシア軍によって占拠されるという事態も発生。原発が安全保障上においてもリスクであることが明白になりました。これらの問題を無視して再稼働を進めるのは民主主義国家として許されないことです」(飯田所長)

政府が原子力発電に固執した結果、再生可能エネルギーへの転換が遅れたと飯田所長は指摘する。

「技術的な進歩で、太陽光や風力など再生可能エネルギー(以下、再エネ)は圧倒的に低コストとなり飛躍的に普及しました。再エネは、日本では全発電量の2割に過ぎませんが、欧米ではデンマークが8割、ドイツが4割超などと、ずっと広がっている。これらの国で電力不足は起きていません」

一方、日本は世界から一気に取り残されたという。

「日本では2016年に電力の小売り全面自由化、2020年に発送電分離など電力自由化が進められ、再エネを普及させるシステムを目指しましたが、実質的な独占を維持したい大手電力会社によって“骨抜き”にされました。結局、“電力自由化”は中途半端で、かつての安定供給も手放してしまい、いわば『途上国型の電力不足』に直面している状況です。不完全な“改革”と事実上の独占が絡みあった構造上の問題ですから、解消するには時間がかかることでしょう。今年の冬だけでなく、来年や再来年も、電力危機に襲われる可能性は高いのです」(飯田所長)

歴代の政府の失策のせいで、どうにもならないところまで追い込まれている日本のエネルギー事情。岸田首相には、これ以上失策を重ねるのではなく、抜本的な構造改革を行ってほしい。