リーガルリリー『Light Trap Trip』
2022.7.5 Zepp Divercity

リーガルリリーが4月から全国13ヶ所を巡ってきたコンセプトツアー『Light Trap Trip』のファイナル公演を7月5日のZepp Divercityで開催した。最新アルバム『Cとし生けるもの』をより深く体感するとともに、これまでの作品の中でも、存在している光や自ら輝こうとするものや意志などを感じさせる楽曲で構成された、バンドのいまを伝えるライブだ。

エントランスは映像を投影しているせいか薄暗く、会場内部と地続きな印象だ。SEには川の流れと夏の虫たちの声。高いところに灯るグリーンのライトがまるで蛍のようだ。インディーズ時代からの人気曲で「the Post」のシークレットトラックだった「蛍狩り」が再録、配信リリースされたことで、開演前の演出に没入できた人も多いのではないだろうか。

心なしか広いステージに3人のセットがぎゅっと集まっている。オープナーは「たたかわないらいおん」。いつもより朗らかに始まった印象だ。たかはしほのか(Gt/Vo)が短く自己紹介をして、「風にとどけ」にゆきやま(Dr)のリズムがつながっていく。いつも以上に楽器の素の音が素晴らしい。メロディと言葉とサウンド。シンプルだけど、その一つひとつが磨かれて、3人の異なる人間が集まっていながら、曲という核を鳴らす。いい演奏ってどんなもの?と訊かれたら、いまのリーガルリリーだと即答したい。たかはしのギターサウンドのひんやりした感触から、後半では一転してトグロを巻くカオスに突入する「東京」。自ら音を出し、出し合った音の中で躍る。冒頭からこれはすごいライブになると感じた。「東京」から自然につながる“ここに生まれた”ことを歌う「1997」、音源以上に堂々たるギターロックの名曲感が存分に翼を広げる「きれいなおと」まで、勢いではないしなやかな流れで届けて見せた。まるで冷静にランナーズハイをコントロールしているような運びなのだ。

夏の日差しのようなアルペジオから光に誘われる「ほしのなみだ」、終盤のゆきやまのドラミングがビートでできたオーケストレーションのようでドラマチックだった「ぶらんこ」と、どんどん心の深いところにダイブするような流れになっていく。曲を演奏し終わるとたかはしがスポットに浮かび上がり、朗読を始める。「蛍狩り」のイントロダクションだ。フロア中が彼女の言葉に集中しているのが分かるほどのテンション感だが、それが心地いい。リズムが加わってからもゆったりしたタイム感の中で、〈ぼくは死ぬことが怖くなってしまった。せめて大人になりたかったんだ。〉と、自分の本心に気づくあのくだりに達する頃、同じ場所に同じような思いで自分に深く潜っていることの尊さを感じた。ファンファーレのような狼煙のようなフレーズが消えかかるところで、「ジョニー」が歌われる。〈ばかばっかのせんじょう〉でどんな態度で生きるのか。さらに「うつくしいひと」での海(Ba)のホーリーなコーラスもこの流れの中で大きな意味を持っていた。毎回組み込まれることの多い流れだが、この日は特に白眉だった。

たかはしほのか

たかはしほのか

海

ゆきやま

ゆきやま

まるで今起きている戦争の、それが日常になってしまっている人たちが想起されるような「9mmの花」。後半に向かって透明なグランジとも呼べそうなノイジーなアンサンブルが膨張し、残響が消える手前で「アルケミラ」のイントロへ。サビのハチロクリズムコーラスが教会にいるような体感を喚起して、心のざわつきが明るすぎる光に吸い込まれていくようだった。

再び川の音のSEが流れ、元にいた川べりに戻ってきた心地になったところで、後半は「GOLD TRAIN」が車窓からの光や街の情景、アブストラクトに見える写真などが演奏のスピード感と連動して映し出される。ゆきやまのドラミングがエンジンを駆動させるようにバンドをドライブさせる。タイトルコールをしてスタートした「惑星トラッシュ」で日常の電車移動の感覚を浮かび上がらせるのが、「GOLD TRAIN」からひと連なりになっているのもいい。ゆったりしたテンポで音の隙間とシューゲイズなサウンドへの移行が、感情が膨張していく体感の「教室のしかく」。高校生の頃の心の状態に戻っていくような流れが生み出されている。そういえば、今回たかはしのエフェクターが増えたのだろうか。ギターで生み出されるサウンドの表情が一段と豊かになっていた。音選びからカッティング、アルペジオなど、抜群のタイム感でギタリストとしても閃きに満ちた彼女の資質がさらに開花。それは海もゆきやまも同様で、ミュージシャンとしてリスペクトする場面が非常に増えていたのだ。

たかはしほのか

たかはしほのか


海


ゆきやま

ゆきやま

たかはしが「1番は高校生の頃に書いて、2番は大人になってから書きました」と紹介してスタートした「教室のドアの向こう」。1番はたかはしの弾き語りで、彼女の影が投影され、間奏で二人も加わり影も3つになる。リーガルリリーの時間の経過も感じる演出だ。さらにこの曲から〈中央線〉というワードでつながる「中央線」へ。これまでより“伝える”ことを意識したコンセプトツアーならではの練られたセットリストが実に功を奏している。最後の一音の残響が消えるのを待って起きる拍手にオーディエンスの集中力が伺える。

90分以上を物語のように見せてきた最終盤、たかはしは今回のコンセプトツアーに際して光について書いた曲がたくさんあることに改めて気づいたが、その光はたくさんの暗闇に支えられているとも言い、いろいろな人を支えている暗闇について歌った曲だと、このツアーのテーマでもある「セイントアンガー」を紹介した。各々のブルースを感じさせつつ、真っ直ぐな眼差しが注がれる勇気の湧く曲だと改めて感じる。それぞれの光り方を探している人たちの姿が浮かぶということはオーディエンスもそうなのだ。自分の立っている場所を実感しながら、勢いよく「リッケンバッカー」のイントロが流れると、これまで以上にポジティブな気持ちでこの曲に入り込めていた。音の中で自在に跳ね暴れる3人が眩しい。

最後にたかはしが謝辞を述べて、フォーキーさと歌詞の譜割りに新鮮さのある「Candy」が本編ラストにセットされた。80年代から続くオルタナの系譜もJ-POPのキャッチーなメロディも3人の血肉となってただここにある。毎回感じる「途轍もないバンド」という印象はまた更新された。

アンコールに迎えられてまずゆきやまと海が登場し、充実したツアーだったことを伝える。さらにこの日は海の加入記念日であり、今年で4年を迎えたことにも拍手が贈られた。そして恒例となりつつある対バンライブ『cell,core』を今年は東名阪のツアーで開催すること、8月10日にはデジタルEP『恋と戦争』をリリースすることを発表。コンスタントを超えて、凄まじい表現欲求に溢れていることがわかる。そのEPの中からこの夜0時から配信がスタートした「ノーワー」をライブ初披露。不安定な心情と不穏な世界が重なる久々にヒリヒリとした歌詞を持つ曲だった。EPはタイトルからして、テーマ性を持ったものになるのか、気になる。ラストはエネルギーを全て叩き込むような「せかいのおわり」。10代の不敵な心情も抱えて、ここからリーガルリリーはどこへ向かうのか。

コンセプトツアーのインタビューでたかはしが非現実的に思えるライブの時間もまた現実であり、それが面白いと話していたことを思い出した。逃げる場所や素敵な場所はあくまでもあなた自身の気持ちや体が作っているのだ。たくさんの光も暗闇も見えた2時間のライブも、もちろんそうだった。


文=石角由香 撮影=MASANORI FUJIKAWA

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