世界中で空前のブームを巻き起こした「フィフティ・シェイズ」シリーズや、第94回アカデミー賞で7部門にノミネートされた『ベルファスト(21)ジェイミー・ドーナンが主演を務めたドラマシリーズ「ザ・ツーリスト 俺は誰だ?」が、現在「スターチャンネルEX」にて日本独占配信中(8月8日より「BS10 スターチャンネル」にて放送)だ。脚本&製作総指揮を務めた“兄弟クリエイター”のハリージャックウィリアムズのインタビューに触れながら、本作の見どころを紹介していこう。

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本作は、オーストラリアの広大な砂漠地帯“アウトバック”を舞台に、記憶を失った男が自分を探して疾走する姿を描くクライムサスペンス。オーストラリア奥地の広大な砂漠を抜ける道路を運転していた“男”は、1台の大型トラックに執拗に煽られ衝突される。その後、病室で目覚めるとすべての記憶を失っていた。事故現場には身元を証明するものはなにもなく、自分の名前すらわからない。“男”は記憶をたどるべく病院を抜けだすのだが…。

“兄弟クリエイター”といえば、アカデミー賞受賞経験のあるジョエル&イーサンのコーエン兄弟をはじめ、「アベンジャーズ」シリーズを手掛けたアンソニージョーのルッソ兄弟、監督と脚本家として共作を行なってきたクリストファージョナサンのノーラン兄弟など、映画界で強い存在感を示している。それはテレビドラマ界でも同様で、社会現象級のヒットを巻き起こした「ストレンジャー・シングス 未知の世界」を生みだしたマット&ロス・ダファーも代表的な“兄弟クリエイター”。イギリス出身のハリージャックウィリアムズは、いまやダファー兄弟に並ぶほどの注目を集めている。

ウィリアムズ兄弟がイギリスから新風を巻き起こす

コメディドラマの脚本でそのキャリアをスタートさせ、自ら“Two Brothers Pictures”という名の制作会社を設立したウィリアムズ兄弟。手掛けた「ザ・ミッシング」はエミー賞やゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、続く「Fleabag フリーバッグ」もエミー賞4冠をはじめ数多くのドラマ賞を受賞。スリラー作品のヒット作を次々と輩出しながら、若手脚本家の抜擢にも力を入れており、「Fleabag フリーバッグ」で一躍注目を集めたフィービー・ウォーラー=ブリッジはその後『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(21)の脚本家に抜擢されるなど大きな飛躍を遂げた。

イギリスドラマ界のみならず世界中の映像界に新風を巻き起こしている気鋭クリエイターのハリージャック。2人はこの最新作「ザ・ツーリスト 俺は誰だ?」をどのように生みだしていったのか。その発端には「いままでとは違うことをやってみるという目標があった」とジャックは明かす。「この作品を書くに当たり、自分たちへ挑戦し、色調や構造など映画的なことをやってみたいと考えていました。そこからすべてが発展していったのです」。

一方でハリーも「アイデアのほとんどは様々な会話から生まれました。個性的なキャラクター、そして“自分が何者であるか”という“アイデンティティ”を中心テーマにしたいと考え、熟考を重ねていきました」と語る。「これまで私たちは、ダークで重苦しいスリラーを多く手掛けてきましたが、本作ではスリリングでダークな展開からユーモアを含んだ奇妙で不条理な展開になっていきます。両方の要素を混ぜ合わせて同じ作品のなかに共存させることは、とても挑戦的でスリリングなものでした」と振り返った。

■「ジェイミー・ドーナンの魅力が存分に発揮されている」

本作の見どころとして特に強調すべきは、これまでワイルドな役柄を得意としてきたドーナンの新境地ともいえる演技に、壮大なロケーションだ。

まずは記憶を無くした男の苦悶する姿、謎の女性とのロマンスや警官との軽妙なやりとり、そしてアクションシーンに至るまで様々な表情を見せるドーナンについて、ハリージャックは口をそろえて熱烈な賛辞を送る。「ジェイミーはすばらしい俳優で、この作品での彼はとても謎めいています。自分が何者で、なぜこのようなことが起きたかを探る旅をしながら、精神的な旅もしていく。初めてジェイミーに会った時、私はとても魅力的な人だと思ったのですが、その魅力がこの役柄にも存分に発揮されています」とハリーは語る。

またハリーが「広大な赤い大地で迷子になるのはとてもドラマチック」だと語るように、物語の大半は南オーストラリアで撮影が行われ、壮大で美しいアウトバックの景色が主人公の喪失感を駆り立てていく。「舞台をどこにするか話し合った時、人里離れた場所でなければならないと思い、かつてアウトバックをドライブした時のことを思い出しました」とジャックは明かす。「埃の雲と、あの熱のゆらめき。なにもないし誰もいない。なにかあっても誰も助けてくれない。そんな状況に主人公を置きたかったのです」。

■シーズン2も決定!「なにかを変えようなんて思っていない。視聴者の皆さんが楽しんでくれれば」

自分が何者なのかを探ろうとする男を描く本作のテーマについて「実存的なスリラー」であると表現するハリーは、「これは記憶を失っていない多くの人がいまでも自問自答している問題であると思います」と、誰しも共感し得るものであると説く。「視聴者の皆さんの心に残り、あれこれ話をしてくれていたらいいなと思っています」。

それにはジャックも「“男”はなぜ自分が砂漠に行き着いたのか、なぜ衝突されたのかなどを突き詰めていくなかで自分自身について深く考えていく。これは劇中のすべての登場人物にも共通しています」と同調。「思わぬ展開がたくさんあり、奇妙でおもしろく、驚きがある。ハリーが言うように、皆さんがTwitterで互いに意見をぶつけ合い、議論してくれるとうれしいです。でも私たちはなにかを変えようなんて思っていません。視聴者の皆さんが楽しんでくれればいい。それに尽きます」と語った。

イギリスで初回放送時には約1,200万人が視聴する大反響を巻き起こし、アメリカの批評集積サイト「Rotten Tomatoes」では批評家の97%から好意的評価を獲得。世界4大映像祭のひとつモンテカルロテレビジョン・フィルムフェスティバルではテレビドラマ部門の最優秀賞や観客賞など3冠に輝き、すでにシーズン2の制作も決定。今後ますます注目を集めそうなウィリアムズ兄弟の才気を、本作を通して存分に感じてみてはいかがだろうか。

文/久保田 和馬

「ザ・ツーリスト 俺は誰だ?」のクリエイター、ハリー&ジャック・ウィリアムズが作品の裏側を語る/[c] Two Brothers Pictures & All3Media International