7月10日に投票が行われた第26回参議院選挙。日本近現代史の専門家である憲政史家・倉山満氏は「55年体制の打破。そして、全国政党へ脱皮をしたいならば、まず、党首の名称を『代表』から『総裁』に変更しては如何か」と語る。一体、その意図とは――(以下、倉山満氏による寄稿)。

◆今回の参院選、ミニ政党ならば立派な数字

 今回の参議院選挙で、日本維新の会は大方の予想通り躍進したと報じられる。確かに、比例代表では、立憲民主党を抜いて野党第一党。目論見通りだ。

 しかし、躍進と喜ぶには、数字が寂しい。

 3年前の16議席から、21議席へ。自民119、公明27の与党に、野党第一党の立憲は39。自慢の比例でも8議席で、立憲の7を上回っただけ。ミニ政党ならば立派な数字だが、将来の政権を担うには、反省が必要だろう。

◆維新は“ようやく出てきた”マトモな野党

 政策に関して、維新は「ようやくマトモな野党が出てきたか」と期待できる。特に、皇室に関してだけは、手放しで喜んでよい。

 菅義偉内閣が、悠仁殿下への皇位継承を確実にし、皇位の継承を少しでも安定させるために、立派な報告書を提出した。この報告書を全政党が持ち帰り、検討した上で意見書を提出することとなっている。維新は早くから熱心に検討し、今年4月15日には意見書を提出している。現時点で意見書の提出は維新だけなので、この一事で称揚(しょうよう)して良いが、中身も素晴らしい

「先例」に基づいた議論を行うべしとの意見だった。これまでは、歴史や伝統を無視して皇室を好き勝手に作り変えようとする議論が幅を利かせていただけに、野党第二党がこのような真っ当な議論を行うことで、憲政の発達が期待できる。守るべきところを守り与野党が一致しているからこそ、批判すべきを批判できる。特に藤田文武幹事長は、尊皇の心が篤く、政策にも詳しい。岸田内閣に対しても言うべきことを言っている。他にも、立派な国会議員を何人も知っている。

◆党勢拡大の方針と組織改善が課題

 ただし、期待できるが故に、さらなる飛躍を望んで厳しいことを書く。

 まず、国家重要政策である。自民党は金融緩和継続と防衛費増額を打ち出した。これに維新は賛成している。立憲共産党のように反対に回るのは論外だが、今の政府与党の景気回復策と防衛力強化策に諸手を挙げて賛成できるのか。「もっと減税のような財政出動を行うべきだし、5年以内などと言わず来年から防衛費倍増ではないのか」のような批判をする、健全な野党であるべきではないのか。

 日本維新の会は、地域政党から全国政党への脱皮を図っているように見える。政策に関しては、政権担当能力を身に着けているところか。大阪府と市で成功した行政改革以外の、国家主要政策に関し、向かっている方向は間違っていないと思われるので、ここは見守りたい。

 むしろ党勢拡大の方針と組織改善が課題だ。

◆大阪以外の国民に「大阪での改革」はドーでもいい

 維新の方針は、「大阪で成功した改革を全国へ」のようだが、果たして大阪以外で受け入れられているだろうか。今回の参議院選挙では京都で強烈な拒否反応を示されたし、東京に大阪市会議員を候補者として送り込み、いずれも議席獲得とならなかった。

 あえて言う。大阪以外の国民にとって「大阪での改革」は、ドーでもいいのだ。これは維新の実績を否定するのではない。維新が大阪の政治にかかわる前、「大阪の水道など飲めない」と言われたものだ。大阪出身者が上京して「東京の水は飲める」と喜んでいた。他にも、昔の大阪府大阪市の問題は山とあった。それを維新は改革した。昔の大阪を知る者なら、既得権益者以外、誰でも維新を好きになるだろう。しかし、他の都道府県の住民には関係ない。

◆「自民党以外の選択肢がほしい」国民の切実な声の受け皿

 ここで問い直すべきだ。本当に他の都道府県に住む国民が、大阪のような改革を期待しているのかを。私は違うと思う。

 自民党にも不満がある。だからと言って、まさか立憲共産党に票を入れたくもない。そうした国民の受け皿になっているのではないのか。

 維新の二大主張は「大阪で成功した改革を全国へ」と「55年体制の打破」だ。55年体制とは、まさに今の二大政党(と呼ぶのもおこがましい1.5大政党制)の打破だ。維新への期待値が高まっているのは、「マトモな野党が欲しい」「いざとなれば自民党に代われるもう一つの選択肢が欲しい」という国民の切実な声の受け皿となっているからではないか。

◆維新のいびつな党構造

 だが、地域政党から出発し、多くの紆余曲折を経て、今の党構造は他の党とは極端に異なる、はっきり言えば歪になっている。

 政党としての維新は、「日本維新の会」がホールディングスのような形として存在し、大阪維新の会や他の地方の維新の会が横並び、国会議員団も日本維新の会の下部組織、他の「〇〇維新の会」と対等の組織である。

 たとえば、政調会長は、日本維新の会国会議員団の双方に存在して、それぞれ別の人物といったような二重構造である。なにより特徴的なのが、党大会では国会議員も地方議員も対等の一票。大阪の府議と市議の数が圧倒的に多いので、彼らの意向で党のすべてが決まる。今まで、代表選挙が行われたことが一度も無かった。

もしもの時、大阪市長補佐をする総理大臣が誕生してしまう

 こうした複雑怪奇な組織構造なので、極めて属人的に運用されてきた。言ってしまえば、ここまでは松井一郎代表の力量でまとめ上げてきたのである。

 松井代表は、大阪市長。仮に何かの突発事態で維新が衆議院の多数派になった時、「松井首相」は憲法上ありえない。そういう時のために、国会議員団長や共同代表がいる。これまでは片山虎之助で、今は幹事長などを歴任してきた馬場信幸。仮に村山富市社会党内閣のように突如として自民党が「他の党に総理大臣を渡す!」と言い出した時、「片山首相」が誕生した訳だ。本人も含めて、誰もリアリティーを感じない話だろう。

 もし今そのような状況になれば、「馬場首相」だ。しかし、馬場共同代表は「代表の補佐」が仕事だ。総理大臣大阪市長の補佐を行うこととなる。もしもの時を想像しただけで、いびつな構造がわかる。

◆維新の代表だけが一度も国会議員経験者ではなかった

 この点に関し、維新の歴史は複雑で、他党と合併しては党を乗っ取られかけたという経緯がある。過去の経緯には同情する。しかし、現実に野党第一党の地位が見え、自民党に対抗して政権担当可能な大政党に脱皮するには、今の時期にこそ改革が必要だろう。普通に考えて、3年間は国政選挙が無いのだから。

 これを松井現代表も心得ていたのか、参議院選挙の開票日に代表辞任の意向を漏らし、初の代表選挙が行われることとなった。公開討論でも、他の党の党首は国会議員国会議員経験者。一度も国会議員を経験したことが無いのは、維新の松井代表だけ。首長が国政に関し他党と丁々発止の議論をしても、どうしても説得力を欠くのは否めない。

 後継は今のところ、馬場共同代表と目されている。属人的な部分、党の内部改革に関しては、あえて言わない。ただし、一つだけ提言する。

 党首の名称を「代表」から「総裁」に変更しては如何か。

◆政権を担う気のある政党の党首は「総裁」を名乗る

 ここまで述べてきたような事情で、維新は他の党と違って、規約を読み替えるだけの名称変更は不可能だ。日本維新の会の代表の名称を総裁にするのか、国会議員団の団長を総裁とするのか、あるいは抜本的な組織改革を行うのか、そのすべてで複雑な手続きが必要だ。それも、今度の代表選挙で議論したらいい。

 ここで述べたいのは、「党首の名称を総裁とする」との合意ができるか否かだ。

 1900年の立憲政友会以来、やる気がある政党の党首はすべて「総裁」だった。立憲同志会など、衆議院で第一党となった途端に、党首の名称を「総裁」に変更した。

 敗戦直後も、政権を担う気のある保守政党の党首は「総裁」を名乗っていた。

◆「総裁」と「委員長」と「代表」と「党首」

 一方、社会党のようなやる気が無い政党、共産党のような革命政党は「委員長」を名乗っていた。

 日本の二大政党、政友会~自由党と同志会(民政党)~民主党の系譜の保守政党は離合集散を繰り返しながらも、党首は「総裁」であった。それが自由党と日本民主党の合同により自由民主党が結成されてきてからは、自民党だけが総裁を名乗り続けた。

 やる気の無い社会党はもちろん、他の野党も「総裁」は名乗らなかった。「委員長」「代表」「党首」である。ここに「自民党だけが特別な政党である」との意識が芽生えた。

自民党“総裁”が55年体制そのもの

 つまり、自民党の党首だけが「総裁」を名乗り続けることが、55年体制そのものなのである。維新が本気で55年体制を打破したいなら、この代表選挙を機に党首の名称を総裁に変えてみては如何か。

 アメリカフランスのような共和国の政党は、行政に対する圧力団体である。それに対し、日本やイギリスのような議院内閣制における政党とは、党首を総理大臣に選んでもらうべく国民を説得する団体である。

 維新が本気で55年体制を打破、政権を担う意思があるなら、その能力を身に着ける第一歩の改革として、この代表選挙は極めて重要と考える。

◆3年後、「馬場総裁」で政権奪取。如何か?

 現時点で唯一名前が挙がっている方でもあるし、自分もよく知っている立派な方なので、イメージしやすいようにあえて言う。

 今後の維新は、「馬場総裁」を押し立てて、政権奪取を宣言する。馬場総裁を筆頭に議員が全国を行脚し、街頭演説と公開集会を行う。そうやって党員を集め、全国に支部を作る。党員以外の国民とも議論しながら、政策を集約していく。その様子をSNSに挙げる。それを可能にする事務局を総裁直属で整備する。

 そして3年後の参議院選挙を衆参同日選挙に追い込み、政権奪取。

 如何か?

【倉山 満】
’73年、香川県生まれ。中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員を務め、’15年まで日本国憲法を教える。ネット放送局「チャンネルくらら」などを主宰し、「倉山塾」では塾長として、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交についてなど幅広く学びの場を提供している。著書にベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』のほか、『嘘だらけの池田勇人』を発売

―[倉山満の政局速報]―


(左から)松井一郎代表と吉村洋文副代表 画像/日本維新の会 参議院選挙2022特設サイトより