カリスマ的人気を誇る漫画家・山本直樹が“カルト”の世界に切り込み、人間の欲望をあぶり出した問題作ビリーバーズ」が実写映画化され7月8日(金)に公開される。本作の主人公・オペレーター役を務めるのは映画初主演となる磯村勇斗。序列の低いポジションに置かれ、純粋な信仰心と抑えきれない欲望の間で揺れ動く難役を見事に演じきった彼が、本作の撮影秘話を語ってくれた。

【写真】無精ヒゲの磯村隼斗「ビリーバーズ」より

■映画初主演、宗教的な団体に属する青年の極限状態を怪演

――原作は過激な内容ゆえに実写化不可能と言われていたそうですが、初主演映画となる本作のオファーを受ける際に迷いはなかったですか?

磯村:正直、少し躊躇する部分はありました。なぜなら、この作品の独特な世界観は、原作と脚本を一度読んだだけではなかなか理解できなかったからです。だけど読み込んでいくうちに、“過激な内容”と言われているような表面的なことではなく、もっと深いところまで解釈を深めて臨めば、僕にとって良い挑戦になるのではないかと、そんな風に思えたんですね。それで徐々に作品への好奇心が高まって、「是非やらせてください」とお返事しました。

――「ニコニコ人生センター」という宗教的な団体に所属している主人公・オペレーターの魅力をどんなところに感じましたか。

磯村:純粋な信仰心と抑えきれない欲望の間で揺れ動くという、繊細でありながらも狂気的な部分を持つ青年なのですが、だからこそすごく魅力的なキャラクターだなと感じました。なかなかこういう特殊な役には出会えないので、オペレーターを演じることができて良かったなと思います。

――撮影前はどのようなご準備をされたのでしょうか。

磯村:オペレーターは、孤島で北村優衣さん演じる副議長と宇野祥平さん演じる議長との共同生活を送っているのですが、だんだん食料が少なくなり、飢える寸前の極限状態に追い込まれていくんです。その状況に説得力を持たせるために、食事制限で減量をして、ビジュアルを作ってからクランクインを迎えられるように準備しました。

――どんなことを意識して演じられましたか。

磯村:“何かを盲目的に信じている人ってこういう感じだよね”というイメージに囚われすぎるとオペレーターが薄っぺらく見えてしまうので、“過酷な状況にいながらも普通であること”を意識して演じました。とあるシーンでオペレーターが狂気的な一面を見せるのですが、いつもは普通にしているからこそ豹変したときのギャップをお客さんにおもしろく感じてもらえるんじゃないかと、そんな風に思いながら演じていましたね。

■自然に囲まれた撮影現場では…「裸で過ごすのも悪くないなと(笑)」

――城定秀夫監督の演出はいかがでしたか。

磯村:城定監督はビジョンがしっかりとある方で、とにかく撮るのが早かったです。濡れ場のシーンが多い本作ですが、そういったシーンの撮影の前には流れをしっかりと説明してくださって、ほぼワンカットで撮りきるのでノンストレスで安心して臨めたのはありがたかったですね。ビジョンは決まっていても、それを“こうじゃなきゃいけない”と俳優に押し付けることはせず、僕が考えてきたプランも監督はしっかりと取り入れてくださったので、すごく良い環境でお芝居できました。

――撮影で印象に残っていることがあれば教えていただけますか。

磯村:裸でいるシーンの撮影が多かったのですが、演じているうちに不思議と開放的になっていったことが印象に残っています。自然に囲まれた中で撮影していたのが影響しているのかもしれませんが、裸で過ごすのも悪くないなとそのとき思いました(笑)。

――(笑)。宇野さん、北村さんとはどのようにコミュニケーションを取っていましたか?

磯村:撮影期間中は3人とも食事制限をしていたので、結構ストレスがたまっていたんです。それで僕からナッツの差し入れをして、みんなでナッツを食べながら空腹に耐えていました(笑)。雨が降って撮影が止まるなどちょっとしたハプニングもありましたが、お互いに協力し合いながら、和気あいあいと過ごせたので楽しかったです。もしかしたらナッツで3人の絆が深まったのかも(笑)。

――現場ではどのような話をされていましたか。

磯村:宇野さんとは男同士ならではのくだらない話ばかりしていました。そんな僕らの話を近くで聞いていた北村さんからたまにツッコミが入って3人で爆笑するみたいな(笑)。そんな和やかなやり取りが多かったです。

――宇野さんとは本作の撮影を通してかなり仲が深まったと伺いました。

磯村:宇野さんは僕より年上ですが、いつでも気さくに話しかけてくださるので、その優しさに癒やされていました。宇野さんはとってもチャーミングで、現場で「日焼け止め、首の後ろに塗って〜」と頼んできたりするんです。だから「わかりました〜」って塗ってあげてました(笑)。議長はヤバい人ですが、宇野さんは優しくて素敵な方です。

■役者の醍醐味は「震えるほどおもしろい作品に出会える瞬間」

――磯村さんにとって、この作品はどんな挑戦になりましたか。

磯村:やはりここまでハードな濡れ場は今回が初めてだったので、そこは俳優として大きな挑戦になったと思います。

――今後、ハードなシーンが求められる作品のオファーがきても躊躇なく受けられるのでは?

磯村:それはありますね!「いつでも脱げますよ」とアピールしておこうかな(笑)。というのは冗談ですが、確かに今回かなり精神的に強くなったような気がしますし、ひとつひとつ新しいことをクリアしていくことで俳優として成長できているのかもしれないという実感があったので、本作に参加できて本当に良かったなと思います。

――ちなみに作品選びに関して何かこだわりはありますか。

磯村:こだわりは特にないのですが、僕は脚本が全てだと思っているので、読んでみて“どれだけ自分に刺さるか”“どのぐらい刺激をもらえるか”“自分の感覚と似た要素が入っているか”といったことを考えてから決めることが多いです。もちろん最終的なジャッジは事務所の方とお話ししてからになりますが、入り口としては監督や役の大小というよりは、純粋に脚本を読んだときの印象を大事に判断するようにしています。

――来年には30歳を迎える磯村さんですが、作品を重ねるたびに大人の色気が増しているように感じます。“爽やかな色気”“落ち着いた色気”“危うい色気”など役によってご自身で色気について意識して演じている部分はありますか。

磯村:自分では“この役はこういう色気を出してやろう”みたいなことは全く意識していないです(笑)。そういう風に感じてくださっているのは、たぶん役に助けられているからなんじゃないかと。役柄によって自然と色気のようなものが引き出されているのかもしれませんね。

――磯村さんが思う“色気のある男性”と言えばどなたでしょうか。

磯村:ブラッド・ピットを見ると“あの色気はなんなんだ!”と圧倒されます(笑)。昔から変わらずカッコいいですよね。

――むしろ昔よりも今のほうが渋くて素敵になっていますよね。

磯村:熟成したワインのような、年齢を重ねないと出せない色気がありますよね。どんどん素敵になっていく姿を見ると憧れます。

――では最後の質問になりますが、俳優を続ける一番のモチベーションになっているものはなんですか。

磯村:本作のような“震えるほどおもしろい作品に出会える瞬間”を楽しみに俳優を続けているようなところはあります。脚本を読んで思わず“うわ〜!やべぇ!”と叫んでしまうような作品に出会えたときはモチベーションが上がるので、今後もそういう瞬間がたくさん訪れるように頑張りたいと思います。

取材・文=奥村百恵

磯村勇斗/撮影=友野雄