株式会社マンダム(本社:大阪市 社長執行役員:西村健 以下マンダム)は、これまで自然科学研究機構・生命創生探究センター 富永真琴教授と共同研究を行ってきたTRP(Transient Receptor Potential)チャネルを応用して、皮膚の感覚刺激評価法の開発、及び製品への応用を目的に、横浜国立大学 大学院工学研究院 飯島一智准教授とも共同研究し、感覚刺激に関与するTRPV1が活性化したときにある種のタンパク質が細胞外へ放出されることを発見しました。また、この発見した因子を指標とした新たな評価系(三次元皮膚モデル)が確立できました。
この評価系は、皮膚に近い浸透性を有したものであるため、より生体に近い状態で評価することが可能となり、加えて、これまで評価ができなかった化粧品製剤そのものや培養液に溶けにくい物質など、評価できる対象の幅も広がりました。よって、この評価系を用いることで、より客観的で正確な製品の感覚刺激評価が可能になりました。この研究成果については、2022年6月30日(木)~7月2日(土)に開催された「第49回日本毒性学会学術年会」にて発表しました。
マンダムでは、大阪大学大学院薬学研究科 先端化粧品科学(マンダム)共同研究講座※を拠点にTRPチャネルを応用した評価法の開発と製品への応用研究をさらに加速させ、これからも安全性・機能性・快適性を重視しながら、生活者へのお役立ちをしてまいります。

1.TRPチャネルを用いた皮膚感覚刺激評価法における課題
これまでは、ヒトによる感覚刺激評価を代替する方法として、TRPチャネルを発現させた細胞に直接的に評価物を曝露する「カルシウムイメージング法」などを用いてきました。しかし、生体ではTRPチャネルが発現している末梢神経終末が皮膚などの上皮細胞の下層に存在していることから、この評価系では、本来の皮膚に近い状態でのTRPチャネルの活性を評価できておらず、また、評価物を培養液などに希釈して行う評価系であったため、難水溶性物質や製剤そのものを評価することもできませんでした。これらの課題を解決するためには、TRPチャネルの活性が測定でき、且つバリア機能を有した、よりヒトの皮膚に近い構造の評価系を構築することが必要でした。

2.ヒト皮膚に近い構造を有した評価系(三次元皮膚モデル)の構築
本来の皮膚のようなバリア機能を有した構造の評価系を構築するためには三次元皮膚モデルが有効です。しかし、三次元皮膚モデルとTRPV1を発現した細胞を一緒に培養することは困難でした。そこで、さまざまな培養条件を検討した結果、TRPV1を発現した細胞をコラーゲンで包むことで、三次元皮膚モデルと一緒に培養することが可能となりました(図1)。

図1.TRPチャネル評価法
3.新たな評価系においてもTRPチャネルの活性を測定できる手法を開発
コラーゲンで包まれたTRPV1発現細胞では、従来のTRPチャネル活性評価の指標である膜電位や細胞内カルシウム濃度の検出は困難であり、これに代わるTRPチャネル活性測定手法が必要でした。そこで、TRPチャネルの下流シグナル(TRPチャネルからの情報伝達の流れ)が解決の糸口になると考えました。マイクロアレイを用いた遺伝子解析やタンパク質の測定の結果、TRPV1活性の度合いに合わせてケモカイン類(MCP-1とMCP-2:タンパク質の一種)の放出が増えることが明らかになりました(図2) 。また、神経やTRPV1を有するヒト摘出皮膚でもTRPV1活性に合わせてケモカイン類が放出されていることを確認しました(図3)。これは、ケモカイン類が皮膚感覚刺激メカニズムに関与する因子のひとつであることを示しています。
また、今回TRPチャネルを組み込んだ新たな三次元皮膚評価モデルにおいても、ケモカイン類を指標とした評価ができたことから、本来の皮膚に近い評価系を確立できたと考えます(図4)。この評価系の確立により、これまで評価できなかった化粧品製剤そのものや培養液に溶けにくい物質の評価ができるようになり、ヒトでしか判断できなかった実際の使用時の感覚刺激をより客観的に判断することが可能となりました。
図2.マイクロアレイ及びタンパク質の網羅的な解析から見出したケモカイン類
図3.神経が存在しているヒト摘出皮膚にTRPV1活性化剤を処理したときのケモカイン類の変化
図4.TRPチャネル細胞を組み込んだ三次元皮膚モデルでのケモカイン類の変化

配信元企業:株式会社マンダム

企業プレスリリース詳細へ

PR TIMESトップへ