老友新聞2022年7月号に掲載された都々逸入選作品をご紹介いたします。(編集部)

天の位

乗れるものなら 二人で乗って
流れてゆきたい 花筏

王田 佗介

花筏(はないかだ)は散った桜の花びらが水面に浮き、連なって流れていく様子のこと。ロマンチックな詠み方をうれしく思います。

地の位

薫風吸い込む 親子の会話
久し振りだね 鯉のぼり

倉澤 登美子

おだやかな初夏の南風=薫風(くんぷう)を纏っての親子の姿が幸福感に満ちています。

人の位

春のかすみが 山裾かくし
チョットだけよと 風のふく

岸 慶子

ドリフターズ加藤茶さんの「8時だよ全員集合」の一場面を想い出しました。

五 客

父に連れられ 神田の本屋
買ってもらった 辞書残る

山田 浩司

百四十年間も続いている東京神田の三省堂書店本店がしばらくお休みとのニュース。駿河台下、つまり神保町小川町近辺は本好きのメッカですね。

アッツ桜が どんどんふえて
赤いじゅうたん 花盛り

藤本 洋子

アッツ桜にも白やピンクなどいろいろな色があるようですが、この作の対象の品種はドナルドマン(濃いピンク)の様子ですね。

咲いた桜に あの春風が
くどき散らして にくらしい

惣野代 英子

「あの」が桜を人の世に引きずり込んで口説かれたり憎らしがられたり、させていますね。

馬の背中に ようやく上り
初鳴き聞きつつ 巡る山

菊地 幸子

女性にとって乗ることが先ず大変な馬。その背中で聞く鶯の声。さぞ……。

年中いただく 新茶に感謝
朝の出掛けに 飲む我が家

手銭 美也子

祖母が慌てん坊の私に「朝、お茶を飲むと転ばないんだよ」と言って呉れていたことを思い出しました

「乗れるものなら 二人で乗って 流れてゆきたい 花筏」2022年7月入選作品|老友都々逸