ここ最近、可愛らしい猫が主役のアドベンチャーゲームが業界内で多大な注目を集めているのをご存知だろうか。件の『Stray』は7月19日PS4/PS5版(PC版は7月20日リリース)が発売されるやいなや世界中で瞬く間に大流行、現在進行系で売上を大きく伸ばしている。

【画像】猫×サイバーパンクという絶妙なテーマ設定にアガる『Stray』

 同作はPC版の同時接続者数が発売直後に5万人を上回ったほか、Twitter上には”同作のプレイ映像に興味を示す愛猫”の様子を収めたツイートが日夜溢れかえることに。ついには『Stray』関連の投稿をまとめた有志によるアカウントも誕生した次第だ。

 上記の通り大ヒットを叩き出した『Stray』ではあるが、動物を主役に捉えたゲーム作品がもう一本、奇しくも同じ日に発売されている。その名は『エンドリング – エクスティンクション イズ フォーエバー』(エンドリング)。こちらに主人公は一匹の母狐で、プレイヤーは子狐を世話しながら崩壊の危機に瀕した大地を巡っていく。『Stray』とジャンルや作風こそ違えど、”動物の視点を通して世界と向き合う”という点で両作品は共通しているように思われる。

 そこで今回は、人間以外の動物が主人公を務める作品を「アニマルゲーム」と定義しつつ、『Stray』と『エンドリング』の特徴を踏まえながら同ジャンル特有の魅力について考えてみたい。

〈極端なまでに猫になりきり、猫の視点で世界を見つめる『Stray』〉

 まずは『Stray』の基本情報をおさらいしよう。同作の舞台は、人間の代わりにロボットが生を謳歌しているサイバーシティ。プレイヤーは先の文明が滅んだポストアポカリプスの世界で暮らす猫となり、はぐれてしまった家族と合流するべく、街々を探索して脱出の糸口を見つけることになる。

 サイバーパンク×アドベンチャーと言えば2020年に登場した『サイバーパンク2077』のような作風が想起されがちだが、『Stray』の場合は重厚長大と言うよりも、数時間のプレイで完結する短編アドベンチャーという印象だ。道中を進む上で幾つかのパズルを解く必要こそあれど、それらの難易度もそこまで高いものではなく、コンセプトはあくまでも”猫の視点で文明崩壊後の社会を眺める”ことにあると筆者は考える。

 そして同作のウリとされているのが、徹底的なまでにゲーム内へ落とし込まれた猫のリアルな挙動。四肢の運び方や筋肉のしなやかな伸び縮みにはじまり、毛づくろいに爪とぎといったお馴染みの習性、睡眠時の休み方……等々、随所にいたるまで猫の所作が再現されている。それゆえ、プレイヤーは”猫という生物上の特性”を逸脱したアクションを行うことはできず、終始一貫、猫であることをゲーム側から義務付けられている。

 猫の目線で街を歩き回り、往来するロボットたちの様子を眺め、人間では通れないような細道を猫の身体でスルスルと抜けていく……。主役の猫は超能力などを保有するわけでもない普通の猫。ゆえに”種を超越した立ち居振る舞いは行えない”という点は一種の縛りにも見受けられるが、この縛りがあるからこそ、かえって『Stray』は極端なまでに猫になりきることができる。

 「猫が主人公」という新規性や単純に猫の可愛らしさも同作の魅力に含まれるが、本質的なテーマは「猫になることで世界に対する向き合い方の変化」や、人間とは異なる身体能力や不自由さからくる「猫であることの意味」にあるのではないだろうか。

〈ただひたすらに生き抜く。狐が主役のサバイバルゲームエンドリング』〉

 続く『エンドリング』は冒頭で軽く触れた通り、狐の家族を主体にしている点が特徴的な一作。と言ってもその日常は牧歌的なものとは遠くかけ離れており、「どこかにさらわれてしまった子狐を救出しなければならない」というシリアスな様相を醸し出している。加えて外界は人間や肉食獣などの外敵が目を光らせているため、何の対策も無しだとあっという間にか弱き生命が散ってしまう。それでいて自分たちも餌を確保する必要があったりと、とにかく最序盤から相応のサバイバル能力が問われるゲーム性が注目ポイントだ。

 ある時は匂いを頼りに獲物を探し出し、またある時は子狐の匂いを辿って救出地点へと駆けつけたりと、プレイヤーは厳しい環境下で日々を生き抜くべく、ハンティングと探索を否応なく両立させる能力が問われる。その過程や物語は『Stray』と異なる部分も多いが、アニマルゲームという枠内においては、”動物の所作を忠実に再現している”点で両作品は深く繋がっているように見て取れる。この辺りは2012年に発売され、人類の消えた世界で動物たちが生存競争に挑む作品『TOKYO JUNGLE』(プレイステーション3)にも通じる部分があるかもしれない。

 所作の再現性の一方、『エンドリング』は動物の立場から見た世界についても生々しく描かれている。自然豊かだった大地は環境汚染が進行。各所で研究者らしき人間たちが何かしらの調査に奔走し、心無いハンターの手によって同族の生命が次々に刈り取られているという現状は、狐の目からみても居心地が悪いのは明らかだろう。

 ただし、これが人間が主人公の作品であれば大義名分を掲げて世界の救済に赴く展開も少なくないが、『エンドリング』の主人公は狐であり、彼らの目的は先述の通り「さらわれた子狐の救出」、ひいては全生物に関わる究極の命題「種の存続と生存」にある。プレイヤー視点で見れば狐を通して作中に生じた異変を感じ取ることもできるが、当の狐たちは生き残ることが至上命題。ゆえに同作もまた、最初から最後まで”狐であること”が求められる。ゲームシステム上でしっかりと定められた生き方が、そのまま同作を根本から形成していると言って良いだろう。

 犬や猫を飼育して日々の触れ合いを楽しむ『nintendogs』(ニンテンドーDS)をはじめ、一口に動物が登場するゲーム作品と言っても、遊び方や内包しているテーマがそれぞれ異なることも多い。

 その点、今回取り上げた『Stray』と『エンドリング』は動物が主体のアニマルゲームであり、両作品とも「特定の動物になりきる」「動物の視点で世界を見つめる」という点を魅力に掲げている優れた作品だと言える。興味のある方は、人間ではない動物が主役だからこそ浮かび上がる味わい深さを一度体験してみてはいかがだろうか。(龍田優貴)

『Stray』