中村獅童初音ミクが共演する『超歌舞伎2022 Powered by NTT』の全国4都市での上演が決定した。2016年の「ニコニコ超会議」で誕生し、古典歌舞伎NTTが開発した最新テクノロジーが融合した、まったく新しい歌舞伎公演として人気を博した「超歌舞伎」。取材に応じた獅童は「本来、歌舞伎こそ最先端」と断言し、「若い世代の皆さんに、歌舞伎を知っていただくことが僕の使命だと思っているし、歌舞伎界をもっともっと変えていきたい」と闘志を燃やす。

そんな思いが結実した“転機”が2019年、歌舞伎発祥の地・京都に立つ南座での初お目見得。「(幕張メッセを飛び出し)いつか歌舞伎の劇場に進出したいと思っていたし、南座が決まったときは『時代が動いたのかな』とも感じました。もちろん、京都には目が肥えていらっしゃる、古くからの歌舞伎ファンが多いですから、受け入れてもらえるのか不安とプレッシャーもありました」と明かす。

(C) 超歌舞伎 Supported by NTT

いざ、幕が上がると「最高でしたよ!あんなに盛り上がってくださるとは。ペンライトを振るのが楽しいという声もいただきましたし、何より『こんなに面白いなら、次は孫を連れてきたい』という言葉がうれしかったですね」と強い手応えを振り返る。

「とにかくそういったきっかけを通して、若い方々に観てもらわないと、“今を生きる演劇”としての歌舞伎が死んでしまう。それが正直な思いですよね。コロナ禍で今日、明日のことも大変ですけど、もっと先の未来を見据え、子どもたちに歌舞伎って面白いねって思ってもらいたいし、そのためにどんなことをしたら喜んでもらえるのか常に考えています。時代に取り残されるのが、一番良くない」

超歌舞伎『永遠花誉功』より、中村獅童 (C) 超歌舞伎 Supported by NTT

歌舞伎の未来を見据えることは、歌舞伎俳優・中村獅童の在り方を模索する姿勢にもつながっている。「僕は父親が歌舞伎役者じゃないということもあり、“獅童ならでは”と言える自分独自の生き方を見つけないと生き残っていけないんですよ。新しいことに挑戦するのも、そんな思いのひとつ。いろんな役者がいていいし、みんな同じじゃつまらない。同時に動きやせりふ回し、衣裳や化粧など、あくまで古典の枠組みの中で、新作を生み出すことにこだわっています。勘三郎兄さん(十八代目中村勘三郎)の影響も大きいですね。多感な時期を一緒に過ごさせていただき、たくさんの財産を吸収させてもらいました」

ここまで育ててくれたのはミクさんファンの皆さん

忘れてはならないのは、幕張メッセでの初演時から「超歌舞伎」を熱く盛り上げ続けるファンの存在だ。

「当時、会場のお客さんのほとんどは歌舞伎を初めて観るという、初音ミクさんのファンだったと思います。言葉で伝統文化とバーチャルの融合って言っても、始まる前は正直『はっ?』って感じで、色眼鏡で見られる部分もあるかもしれないと思っていました。でも、いざ舞台に立つと、すごい盛り上がりでね。みんな、純粋に笑ったり、泣いたりしてくれて、それに僕らも泣かされて。毎回、ファンの皆さんが熱い思いにさせてくれるんですよ。『超歌舞伎』をここまで大きく育ててくださったのは、間違いなくミクさんファンの皆さん。本当に感謝の気持ちでいっぱいですし、ここで芽生えた友情は大切にしたいですね」

超歌舞伎『永遠花誉功』左より、初音ミク中村獅童
(C) 超歌舞伎 Supported by NTT

そう語る獅童には、こんな忘れられないエピソードも。2019年の南座公演で、最前列で号泣しながら観劇する青年と出会ったそうだ。「口上の途中でしたが、僕のほうから『どうしたの? どこから来たの?』ってインタビューしたんですよ。そうしたら『台湾から来た』って。その後、いろんな情報を集めたら、彼は超会議超歌舞伎をネット配信で観て以来、超歌舞伎にハマって、日本語を勉強し来日し、なんと日本の会社に就職したそうなんです。初めて南座で生の超歌舞伎を観てくれて、『いつかは台湾で上演してもらうのが夢』だと言ってくれている。こんなうれしいことはないですよね」

今回決定した『超歌舞伎2022 Powered by NTT』は、8月4日(木)開幕の福岡・博多座を皮切りに、名古屋・御園座、東京・新橋演舞場、京都・南座をめぐる約2カ月に渡る全国ツアー。「超歌舞伎」の楽しみ方とその魅力を案内する『超歌舞伎のみかた』、舞踊『萬代春歌舞伎踊(つきせぬはるかぶきおどり)』に続いて、披露される『永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)』は、大化の改新のきっかけとなった乙巳の変(いっしのへん)における蘇我入鹿討伐を題材とした歌舞伎の作品と、初音ミクの代表曲のひとつ「初音ミクの消失」の世界観をもとに書き下ろされた、「超歌舞伎」の最新作となる。

歌舞伎は常に新しいものを生み出しながら、長い歴史の中で残った演目が古典として今も親しまれている。本来、歌舞伎こそ最先端だと思うんですよ。だから『これは歌舞伎』『これは違う』って決めつけてしまうのは良くないと思っています。それこそ『超歌舞伎』が100年後、古典として残っているかもしれない。そんな未来へ思いを馳せるのも、歌舞伎の楽しいところですからね。(感染対策の)ルールを守りながら、お祭り感覚で楽しんでもらえればうれしいです。僕自身も全身全霊で思いをぶつけたいと思っています」

取材・文:内田涼

<公演情報>
超歌舞伎2022 Powered by NTT

2022年8月4日(木)~8月7日(日)福岡・博多座
2022年8月13日(土)~8月16日(火)名古屋・御園座
2022年8月21日(日)~9月3日(土)東京・新橋演舞場
2022年9月8日(木)~9月25日(日)京都・南座

【本公演】
一、超歌舞伎のみかた

二、萬代春歌舞伎踊(つきせぬはるかぶきおどり)
松岡 亮 作
真柴秀康:中村獅童
出雲のお国:初音ミク
奴國平:澤村國矢
女奴お蝶:中村蝶紫

三、永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)
松岡 亮 脚本
藤間勘十郎 演出・振付
金輪五郎今国:中村獅童
苧環姫:初音ミク
金輪小五郎陽国:小川陽喜
蘇我入鹿:澤村國矢
定高:中村蝶紫

※本公演 午前の部 / 午後の部 同一演目にて上演

【リミテッドバージョン】
一、永遠花誉功(とわのはなほまれのいさおし)
松岡 亮 脚本
藤間勘十郎 演出・振付
金輪五郎今国:澤村國矢
苧環姫:初音ミク
蘇我入鹿:中村獅一
定高:中村蝶紫
口上:中村獅童

※リミテッドバージョンは『永遠花誉功』を上演

チケット情報はこちら:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2210122

中村獅童