岩倉高の運転シミュレーターは本物の鉄道車両と同じ機器類を装備。加速用のマスコンマスターコントローラー)とブレーキレバーが分かれた2ハンドルタイプです

クラブツーリズム(クラツー)、東京メトロ、岩倉高校の3者共同企画で、2022年7月27日に実施された「親子で社会科見学!千住検車区~鉄道学校鉄道三昧ツアー」同行取材・後編です。午前中、メトロ日比谷線の千住検車区を見学した親子20組40人は、地下鉄で上野に移動。JR上野駅のすぐ横にある岩倉高校を訪問しました。

「鉄道学校」のツアータイトル通り、鉄道界に多くの人材を送り出す岩倉高。同校には運輸科があり、鉄道実習や車両基地見学などで鉄道人を養成します。校内に、車両モックアップ(実物大模型)の運転シミュレーターがあるのも鉄道学校ならでは。子どもたちも大満足でした。

校名は岩倉具視から

前身は1897年開校の「私立鉄道学校」。1901年には、創立時の神田錦町から現在の上野に移転。1903年には明治維新の立役者の一人・岩倉具視を表敬して、校名を「岩倉鉄道学校」としました。

岩倉具視と鉄道の関係についても触れておきます。岩倉は1871年、「岩倉使節団」として欧米を訪問。鉄道の重要性を認識し、帰国後には東北線の前身にあたる私鉄の日本鉄道の設立に尽力しました。

岩倉鉄道学校は戦後間もない1948年、新学制にあわせて「岩倉高校」に。現在は普通科と運輸科の2科制ですが、鉄道学校のルーツは今も生きています。

昼食の駅弁にはオリジナル掛け紙

ツアー参加者には学校で駅弁が用意されました。紹介したいのは、おかずでなく掛け紙。駅弁の掛け紙は包み紙というより、のし紙で、コレクターも数多くいます。

ツアー限定の掛け紙は画像の通りですが、岩倉高の生徒がパンダというのは、上野の学校だから。運輸科の生徒がデザインしたそうです。

岩倉高運輸科の生徒がデザインした駅弁の掛け紙。メトロ日比谷線の13000系電車や岩倉高の校舎が描かれます(画像はスキャナーで取り込んだものです)

鉄道体験に先立つオリエンテーションでは、森田勉校長が「夏休みの自由研究にぴったりのプログラムを用意したので、思う存分楽しんでほしい。分からないことは、高校生のお兄さん・お姉さんにどんどん質問してください」とあいさつしました。

ホームで発車ベルを鳴らして、車掌室に戻ってドアを閉める

こちらは最新鋭のシミュレーター。車内信号のATC(自動列車制御装置)線区を想定。信号は運転席に表示され、施設側には信号がありません

岩倉高には1993年、「電車シミュレーション室」が開設されました。同校のシミュレーターは、運転操作にCG(コンピューターグラフィクス)の動画が連動する本格派です。

運転士のハンドル操作は皆さんご存じでしょうから、今回はガイド役の岩倉高生に車掌の正式なドア扱いを教えてもらいましょう。

まずは出発時。いったんホームに降りて発車ベルを鳴らし、車掌室に戻ります。そして、車掌室の窓から顔を出して乗降が終わったかを確認してドアを閉めます。

次に駅への到着時。ドアを開ける前にホームの停止位置目標で、列車がきちんと決められた位置に停車したかを確認します。岩倉高のシミュレーターは、〝ホームからの列車はみ出し〟も設定されているので、確認を怠るとブザーが鳴って大慌てになります。

車掌体験の一コマ。車掌室の窓から顔を出して停止位置目標で列車の停車位置を確認します

「乗ってみたい列車『East i』」

前編に続き、参加者に感想を聞きましょう。横浜市から参加した親子連れ。小学6年生の男の子は「めっちゃ良かった」と大興奮。乗ってみたい列車は「East iイーストアイ)」と答えてくれました。

East iは、ご存じJR東日本新幹線電気軌道総合試験車。事業用車なので簡単には乗れません。「将来は鉄道会社で働きたい」と話していたので、ぜひJRに入社して、East iを走らせてくださいね。

運輸科の女生徒は少数

岩倉高に話を戻して、運輸科で学ぶ生徒たちについて紹介します。同校は長らく男子校で、2014年度から男女共学になったのですが、運輸科の女生徒は約120人の定員のうち3~4人程度。首都圏の鉄道では、女性の車掌さんが珍しくありませんが、高校入学時から鉄道業界志望する女性はまだ少数のようです。

それでも普通科に入学後、運輸科に編入する道もあるそうなので、本コラムで興味を持った皆さん、よかったら9月からの学校説明会をチェックしてみてください。

鉄道模型部はコンテストに向け作品づくり

部活(クラブ活動)に、鉄道研究部と鉄道模型部の鉄道2部があるのも岩倉高だから。コロナ渦では授業はリモート、部活も制限されましたが、両部の部員はオンラインで情報交換しながら鉄道の研究や模型製作に取り組んだそうです。

ここでイベントのご案内。岩倉高鉄道模型部も参加する「鉄道模型コンテスト」が2022年8月19日から3日間、東京・新宿の新宿住友ビル三角広場で開かれます。鉄道模型、それから本物の鉄道でも、興味をお持ちの方は開催情報をチェックしてみてください。

ツアーを締めくくる鉄道模型の運転体験。JRや私鉄のフル編成Nゲージ模型が並びます

東武グループと台東区がタイアップした鉄道ツアーも

「親子で社会見学」のレポートは以上ですが、前編でツアーの企画協力として紹介した台東区観光課から追加情報が寄せられたのでご案内しましょう。

台東区とクラツーは、2021年11月に観光連携協定を締結。鉄道会社とタイアップしたツアーやイベントを企画します。

今回、取り上げたのは東京メトロ版ですが、ほかに東武グループともタイアップ。2022年10月~2023年2月に東武博物館、東京スカイツリー、東武浅草駅の見学をセットした日帰りツアーを実施します。興味をお持ちの方は、台東区のホームページから情報をご確認ください。

記事:上里夏生(写真は全て筆者撮影)