費用や工期、開業後の採算の面から、フル規格の新幹線は難しいとされた地域の救世主となったのがミニ新幹線です。国内では山形・秋田新幹線が該当しますが、25年経った今でも、それら以外には採用されていません。なぜでしょうか。

新幹線の有無で広がった地域格差

本2022年は「ミニ新幹線」のアニバーサリイヤーです。秋田新幹線3月22日に開業25周年を、山形新幹線7月1日に開業30周年を迎えました。ところがその後の四半世紀、ミニ新幹線が(山形新幹線の新庄延伸を除けば)ひとつも開業していないのはなぜなのでしょうか。

高速鉄道在来線乗り入れは世界的に見れば決して珍しいものではありません。というのも、日本は在来線では実現不可能な高速化、輸送力増強を目的として、規格を抜本的に改めた新幹線を建設しましたが、欧州では在来線高速鉄道も軌間や車両のサイズは変わらないので、高速走行を行う区間は新設の専用線を走り、都市部や地方では在来縁に乗り入れるという柔軟な運用が可能だからです。

そのような中、日本では東海道に続いて山陽、東北、上越新幹線が開業し、沿線主要都市は東京、大阪と3時間以内で結ばれるようになりましたが、新幹線のない地域は在来線への乗り換えが必要で、格差が広がっていました。

しかし輸送需要が限られた地域にフル規格の新幹線を新設しても採算は取れず、建設するとしても整備新幹線との兼ね合いで着工は当分先になります。そこで新幹線在来線を直通運転することで、安価かつスピーディーに解決しようと考えたのです。

検討は国鉄時代の1983(昭和58)年10月に始まり、1986(昭和61)年には運輸省に「新幹線在来線との直通運転構想検討会」が設置。同時に国鉄のプロジェクトチームは在来線の標準軌化や、在来線の速達性向上の具体的な検討に入ります。国鉄民営化によりJR東日本が継承し、1987(昭和62)年に奥羽本線の福島~山形間をモデル線区に選定。1988(昭和63)年8月に着工しました。

山形・秋田は成功 さぁミニ新幹線を全国へ…

ミニ新幹線の最大の利点は、事業費の安さと工期の短さです。山形新幹線(福島~山形)の地上設備費は87.1kmに対して約357億円(1kmあたり4億円)にすぎず、フル規格新幹線の1kmあたり70~150億円にもなる建設費とは比較になりません。また工期も整備新幹線では10~15年を要するところ、山形新幹線では山形開業が4年、新庄延伸は2年半、秋田新幹線でも5年で済んでいます。

在来線を走行する以上、時間短縮効果は限定的ですが、それでも改軌にあわせて設備も改良し、山形新幹線区間は最高速度を95km/hから130km/h、秋田新幹線区間は110km/hから同じく130km/hにアップ。乗り換え解消とあわせて東京~山形間は最大42分、東京~秋田間は最大48分の短縮となりました。

こうした中、運輸大臣の諮問機関である運輸政策審議会は、答申第11号「二十一世紀に向けて九十年代の交通政策の基本的課題の対応について」(1991〈平成3〉年6月に発表済み)の中で、都市間高速ネットワークの再構築の方策として、ミニ新幹線の推進を提言。また運輸省ミニ新幹線に対する補助制度を創設するなど、お膳立てはそろったはずでした。

ところがミニ新幹線はこれ以上広がりませんでした。導入を目指す動きは各地であったようですが、諸設備の改良に費用がかかりすぎてミニ新幹線のメリットを活かせなかったり、ミニ新幹線でも収支が成り立たないほど輸送需要が小さすぎたりと、山形・秋田のようにジャストフィットする都市が無かったのです。

「スーパー特急」と抱き合わせ 暫定整備案とは

ただ、ミニ新幹線は別の形でも注目を集めていました。国鉄の経営悪化により1973(昭和48)年以来凍結されてきた整備新幹線5路線が、分割民営化を直前に控えた1987(昭和62)年1月に凍結解除されると、運輸省は翌1988(昭和63)年、「ミニ新幹線」と「スーパー特急」を組み合わせた「暫定整備案」を示し、工費の圧縮を図ります。前述した運輸省の「新幹線在来線との直通運転構想検討会」は、山形・秋田新幹線とは別の形のミニ新幹線へと行きついたのです。

スーパー特急とは、新幹線と同等の規格の新線を建設し、その区間に在来線と同じ狭軌のレールを敷いて160~200km/h程度で走行するという構想です。建設費は新幹線と同等で速度は劣るという、なんとも中途半端な方式ですが、改軌さえすればすぐに新幹線に変身するので、実質的なフル規格による整備ともいえます。

一方、これと組み合わされるミニ新幹線は、在来線の改築のみで新線は建設されないので、その後の展望が開けません。暫定整備案では北陸新幹線長野新幹線)の軽井沢~長野間、東北新幹線の盛岡~沼宮内間、八戸~青森間がミニ新幹線とされますが(いずれも計画当時の駅名。沼宮内~八戸間はフル規格)、沿線は「うなぎを頼んだと思ったらどじょうが来た」と大反発。山形・秋田新幹線が開業する前に、ミニ新幹線は格落ちのまがい物というレッテルを貼られてしまったのです。

しかし暫定整備案には「今後の経済社会情勢の変化等を考慮して、5年後に見直す」という政府・与党の申し合わせがされていました。これに基づき、1991(平成2)年に軽井沢~長野間(長野オリンピック招致に関連して前倒しで見直し)、1995(平成7)年に盛岡~沼宮内間、八戸~青森間のフル規格への格上げが決定し、整備新幹線からミニ新幹線区間はなくなります。そもそも暫定整備案自体に「どじょう」であっても着工したという実績を作り、その後なし崩し的に「うなぎ」へと変えていく思惑があったともいわれています。

フリーゲージトレインとミニ新幹線

北陸新幹線糸魚川~魚津間、九州新幹線の八代~西鹿児島間など、スーパー特急として着工しながら途中でフル規格に変更された例はありますが、1995(平成7)年以降に新規着工した区間を見るとミニ新幹線はひとつも採用されていません。その理由としては、在来線を改軌することなく乗り入れ可能なフリーゲージトレイン(FGT)の登場が影響していると考えられます。

FGTは西九州新幹線の新鳥栖~武雄温泉間や北陸新幹線の敦賀~大阪間への導入を前提に技術開発が進められ、構想中の四国新幹線でも選択肢のひとつと考えられてきましたが、残念ながら速度、コスト、耐久性などの課題をクリアできず、実用化は断念されました。

ではミニ新幹線が再び採用されるかというと、どうせなら「どじょう」ではなく「うなぎ」が食べたいというのが沿線の本音でしょう。ミニ新幹線が成功した山形・秋田でも、福島~秋田間にフル規格の奥羽新幹線を建設しようという運動があります。

一方で、国と長崎県から西九州新幹線 新鳥栖~武雄温泉間のフル規格化を求められている佐賀県や、北陸新幹線新大阪開業によって湖西線並行在来線になってしまう滋賀県のように、「そもそも『うなぎ』は注文していない」という声もあります。

ミニ新幹線が本当に格落ちの「どじょう」なのかは別にして、フル規格もミニ新幹線も(あるいはFGTも)それぞれ特性が異なり、序列があるものではありません。ミニ新幹線にもまだ可能性は残されているのではないでしょうか。

山形新幹線はミニ新幹線。「つばさ」に使用されるE3系電車(画像:JR東日本)。