在宅勤務リモートワークが当たり前になり、これまでなら気軽に「手伝って!」「ここってどうしたらいい?」と言えたのに、きっかけがつかめず1人で仕事を抱え込んでしまうようになった、という人もいるのではないでしょうか。産業医の井上智介氏が著書『職場のめんどくさい人から自分を守る心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)で解説します。

会社はあくまでもチームプレーが基本

■60点で自分に「合格! 」をあげよう

コロナ禍になって以来、在宅勤務リモートワークが当たり前になったことで、めんどくさい上司と顔を合わせずに済むので、人間関係の悩みがなくなった、という人も多いでしょう。

一方で、これまでなら気軽に「手伝って!」「ここってどうしたらいい?」と言えたのに、きっかけがつかめず1人で仕事を抱え込んでしまうようになった、という人もいるのではないでしょうか。

ここまで、さまざまなめんどくさい人への対処法をお話ししてきましたが、職場の人間関係で悩んでいる人の中には、助け合いや協力しあうことを「相手に迷惑をかけている」と考えて、なかなか人に助けを求められない人も少なくありません。

遠慮するあまり、キャパシティ以上の仕事を引き受けてしまったり、一人で悩みを抱え込んでしまう人も……。

「お互い様」という考えがなく、人に助けてもらうという選択肢が最初からない、という人たちは、職場の人間関係で悩みやすい傾向があります。

「人に迷惑をかけることが嫌」というのは、責任感が強く、よい面もありますが、限界まで我慢して、ある日突然爆発してしまうと、会社に大きな迷惑をかけてしまうことにもなりかねません。迷惑をかけたくないと思うあまり、かえって自分も周囲も大変な状況になってしまうのは残念ですよね。

そうならないためには、自分のキャパシティーをきちんと把握しておきましょう。それを越え始めたら、意識的にヘルプを求めるようにしてください。

それが大きなトラブルを防ぐカギになります。

今まで「頼る=迷惑をかける」と考えていたあなたにとって、急にヘルプを求めるのは難しいことでしょう。

しかし、会社はあくまでもチームプレー、助け合いが基本です。

いざという時にお願いができるようになるためには、普段から小さなSOSを出すトレーニングをしておくことが重要です。

すべて完璧にこなせるように見える人でも、こちらが知らないだけで、案外苦手なことはあるものです。何もかも100点満点がとれる人なんていませんし、そもそも日常業務において100点満点が求められることはほとんどありません。

あなたの中では60点だったとしても、他人から見たら十分及第点。まずは60点で自分に「合格」をあげていいという考えを持って、肩の力を抜いていきましょう。

在宅勤務リモートワークで仕事ができるようになった今は特に、トレーニングする絶好のチャンスです。

普段の職場では、相手の態度や反応を気にして頼みごとがしにくかった方も、メールやチャットでなら気軽にお願いしやすいのではないでしょうか。

自分で自分に課しているハードルを下げ、上手に周囲の力を借りるコツを身につけることで、職場の人たちとラクに付き合っていけるようになりましょう。

SOSを出すことで助け合いの関係を築ける

■「小さな質問」でSOS を出す練習をしよう

これまでずっと1人で解決しようと頑張ってきた方にとって、急に「周囲を頼りましょう」と言われても「そんなの無理!」と思うかもしれませんが、SOSと言っても深刻な悩みを打ち明ける必要はありません。

ステップを踏んで、少しずつSOSを出す練習をしてみましょう。

まずは、「SOSを出して助けてもらえた」という小さな成功体験を積むことが大事なのです。

最初のステップは、SOSの合図を受け取ってくれそうな人を探すことから始めましょう。

100%の自信を持って、この人なら悩みを聞いてくれる! と確信できる人を探すのは難しいでしょうから、仲のいい同僚や後輩、家族や友達でもいいので、話しやすい人に小さなSOSを出してみましょう。

SOSの内容は、「ワード文書をPDFに変換するのって、どうするんだったっけ?」など、相手にも負担がなくさらっと解決しそうなことがいいですね。小さなSOSであれば、さほど相手の負担になることはありません。

むしろ、誰かの役に立てるのは、多くの人にとってうれしいことです。

ファーストステップでは、頼って、教えてもらえて、「頼んでいいんだ」「質問していいんだ」という感覚を持つことが大事です。

普段から「この人はこの分野に詳しい」と、周囲の人の得意分野を把握しておけば、適任者に聞けるので解決しやすいでしょう。

思いつきで頼んでしまうと、小さなことでも相手が分からない場合があります。

パッと解決すると思ったのに、予想以上に相手の時間を奪ってしまうと、迷惑をかけてしまった……と感じて自己肯定感がさらに下がってしまうので、相談相手選びは重要です。

他人の様子に気を配り、気持ちを汲み取ることができるあなたなら、このような人間観察もきっとできるはず。

もしかすると、すでにやっている人もいるかもしれません。

一度できたら、次のステップはとにかく成功体験を増やすこと。

少しずついろんな人にSOSを出していくことで、自然と助け合いの関係を築いていくことができます。

井上 智介 産業医 精神科医 健診医

(※画像はイメージです/PIXTA)