「あれ、こんなところでおじさんが働いてる……」

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 近年、非正規労働の現場でしばしば「おじさん」を見かける。しかも、いわゆるホワイトカラーの会社員が、派遣やアルバイトをしているケースが目につくのだ。45歳定年制、ジョブ型雇用、そしてコロナ──。中高年男性を取り巻く雇用状況が厳しさを増す中、副業を始めるおじさんたちの、逞しくもどこか悲壮感の漂う姿をリポートする。

(若月 澪子:フリーライター)

 おじさんにインタビューをしていると、「どんな仕事をしているか、どんなことを考えているかは外見に出るよな」と思う。公務員は「公務員顔」をしているし、IT系企業に勤める人は「IT顔」をしている。やはり職業や環境が服装や顔に映し出されると感じる。

 特に、「おじさん度」を図る格好のモノサシが「服装」である。10年以上前に始まった「クール・ビズ」。当初はダサダサだったが、日本が亜熱帯化したこの10年で、ビジネスシーンにもだいぶ浸透してきた。

 これにどれだけ柔軟に対応できているかで、ある程度のおじさん度、もとい仕事の変化に対する適応度が見えるのではないだろうか。それはとりもなおさず、おじさんの副業が成功するかどうかのポイントでもある。

 以下、私の独断と偏見だが、これまでにお話を聞いた「おじさん度」である。

【おじさん度5】:真夏日でも頑なにスーツを着ている(ただし接客系のスーツ着用必須は除く)

 服装、顔つき、発言に至るまで、すべてが「ザ・おじさん」。何かと上から目線が多く、柔軟性にも乏しく、老人街道を突っ走っている。

【おじさん度4】:ジャケットを脱いだだけのワイシャツ姿、または妻の選んだシャツを「着せられている」

 自らを「おじさん」と呼び、自虐が多く、哀愁が漂いまくる。人柄はいいが、将来を悲観的に見ており、それが本人を急速に老化させている。夢や理想を語っても、すべてが漠然としている。

【おじさん度3】:ポロシャツおしゃれシャツを粋に着こなす

 服装には普段から気を遣い、おじさん色を払しょくしようと必死になっている。成功欲が異常に強く、新しいことにもイヤミなくらいに食らいつく。アンテナを張り過ぎて、空回りすることも多い。

【おじさん度2】:一年中、ラフな服装

 もともと服装にはうるさくない業界にいる。発言や考え方は独特のユルさがあり、新しいことにも無防備にチャレンジする。詰めの甘さも見られるが、うらやましいくらいの鈍感さで対処している。

【おじさん度1】:服装が自由過ぎて意味不明

 職業・年齢不詳の変わり者。社会の変化に柔軟に対応というより、周囲をドン引きさせる破壊力あり。時代にどう適応するのかは予測不能。

 これまでインタビューした中高年男性を振り返ってみても、おじさん度が低い人ほど、副業などにも柔軟に対応している印象だ。あくまで印象に過ぎないが。

 おじさん度4と3が中高年サラリーマンのボリュームゾーン。おじさん度1と5はめったにいない。

 今回、話を聞いたのはおじさん度2、TシャツGパン姿、ユルさが売りのMさん(55)だ。彼は今、第二の人生に向けて起業しようとしている。それもドローンの会社なのだという。

堀ちえみに憧れたバブル組の今

 Mさんは、コンサートなどのイベントで電飾の機材を設営・搬入する会社に勤めている。コロナで多くのイベントが中止になり、Mさんは会社から給料の減額を言い渡された。年収は、700万円から600万円にまで落ち込んだという。

「小さい会社だから、社長を除くと私は上から2番目に給料が高い。住宅ローンは65歳まであるのに、60歳を過ぎたら嘱託扱いになるから、もっと給料が下がっちゃう。定年までに何とかしなきゃいけないなと思って、今動いているんだよね」

 もともとアイドルの堀ちえみや石川秀美の大ファンで、「芸能人に会えるかも」と今の会社にアルバイトで入った。そして、働きながら技術を習得し、いつの間にか社員に昇格。現在は現場の総指揮や若手の育成を担うゼネラルマネージャーという立場だ。

 それにしても、なぜドローンなのか。

 実は、これまでにイベント会場でドローンが飛んでいる様子は何度か見てきたが、それを仕事にしようと思ったことはなかった。そのMさんがドローンで起業しようと思いついたのは、半年ほど前、自宅近くにドローンスクールがオープンしたことがきっかけだ。

「ドローンの看板を見た時に、なんとなくドローンについて調べてみたの。そうしたら撮影以外に農薬の散布や測量など、いろんな用途があることが分かって。ドローンが使えたら、いろんな仕事を引き受けるビジネスができるんじゃないかと思ったんだよね」

 最近まで、ドローンを飛ばすには主に場所の規制があるだけで、ドローンの所有や操作に対する規制はなかった。

 それが、今年6月から100g以上のドローンは国土交通省に機体登録が義務づけられるようになった。さらに、2022年度中に「レベル4」と呼ばれる高度なドローン操作は、国が操縦ライセンスを創設することになっている。

 Mさんは「国家資格が普及する前に、ドローンが操縦できるようになれば有利なんじゃないか」と思ったそうだ。

 意気揚々と話すMさんに、これまでドローンを扱った経験があるのかと聞いてみると、「初めてドローンを触ったのはつい先月」とのこと。30万円を払ってドローンスクールに通い始めたMさんは、さらに10万円ほどかけて小型ドローンを2台購入した。

 そして、Mさんは起業資金を稼ぐため、夜のレンタカー店で副業を始めた。

Mさんが始めた「セラピストの送迎」って何?

「ドローンで仕事をやろうとしたら、設備投資に最低でも100万円くらいかかる。東京都に助成金の申請もしていているけど、申請が通るかどうかも分からないし、まずは初期費用として150万円は貯めたいと思っている」

 レンタカー店の副業は時給1100円で、19時頃から4時間ほど働く。ここでは縦列駐車が得意な、運転慣れしている人が求められる。Mさんは普段、車で通勤しているため即採用になった。

 仕事内容は戻って来た車の掃除と点検、車庫への移動だ。担当するのは男性のアルバイト。若い人もいるが、半分は40~50代の中高年男性だ。ただ、きつい仕事のため、入れ替わりが激しく、同じ人に会うことはほとんどない。

「戻って来た車を、一人10台以上掃除する。車内の床を拭いたり、掃除機をかけたり、かがんでやる作業が多いから、腰に負担がきて大変。車体を拭く作業まですると、汗だくになるよ」

 レンタカー整備が肉体的に厳しいと感じたMさんは、「クラブホステスの送迎」と「セラピストの送迎」の副業も始めた。

 ホステスの送迎はクラブ閉店後、自家用車で2~3人のホステスを自宅まで送り届ける仕事で1回4000円。セラピストの送迎は、マッサージを行う女性をお客さんの自宅まで送る仕事で、1時間1000円で1日5時間ほど稼働する。

「ホステスの送迎はライバル同士が同乗しているから、車内の雰囲気がもうバチバチ。セラピストは一人しか乗せないし、感じのいい人が多いから気楽だよ。セラピストって何かって?採用時の説明では頑なに『風俗ではない!』って言っていたけど、乗せているのは全員女性だからね(笑)」

 夢見るMさんは、今夜も夜の副業に精を出す。

ニブさとユルさで100年時代を生き抜け

 起業に関するある調査では、50歳以上の中高年のおよそ28%が「起業に興味がある」と述べた。さらに、そのうちの3割近くが「3年以内に起業したい」と話している。

 しかし、素人のMさんが、本当にドローンの会社など作れるのだろうか。ネットを見ると個人でドローンの仕事を引き受けている人は、掃いて捨てるほど出てくる。

 すでにドローンを使って撮影の副業をしているという30代の男性に話を聞いたところ、こんな回答だった。

「私の場合、ドローンで得られる年間収入はせいぜい30万円程度。会社を作っても、そこまで収益が得られると思えません。そもそも最近のドローンは性能が非常に良く、10時間くらい動かせば、誰でも車の運転レベルに達します。もし農薬散布や測量の分野で仕事をするとしても、現場の人が訓練すればいいだけの話なので、わざわざ外注するでしょうか」

 この30代男性の知人にも、ドローンの会社を立ち上げた中高年がいたが、仕事が少なくて数年後には倒産したという。

 そもそもMさんは一生懸命ドローンの練習をしているが、なかなか上達しないようだ。

「まだドローンが怖いんだよね。車と違って宙に浮いているから感覚がつかみにくい。回転すると、いきなり操作が逆になるから」

 せっかくお金をかけてドローンスクールに通い、ドローンを購入しても、徒労に終わるかもしれない。しかし、「何かしたいけれど行動に移せない」という中高年も多い中、たとえ思いつきでも動き出したMさんのバイタリティは素晴らしいとも思う。

 ベストセラーになった『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 100年時代の人生戦略』には、これからの人生には「実験」が必要だとある。

「実験を通じて、何が自分にとってうまくいくのか、(中略)何が自分という人間と共鳴するのかを知る必要がある」(『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』)

 実験には失敗がつきものだ。そこでいちいち心が折れていては、100年も生きていられない。Mさんなら、たとえドローンがうまくいかなくても、クラブホステスやセラピストの送迎を、楽しんで続けるのではないか。100年時代のおじさんは、それくらいのニブさとユルさも必要だ。

 Mさんのドローン計画が無事に大空へ飛んでいくのか、今後の報告を待ちたい。

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