大麻や覚せい剤MDMAなど、いわゆる違法な薬物はかつて、門外漢にとっては“簡単に手に入らない”というイメージがあった。ところが現在はSNSで『野菜 手押し』などと入力すれば大麻の密売人のアカウントがいくつもヒットする。これはつまり、SNSを使える年齢になれば違法な薬物を入手することができることを意味している。

薬物犯罪捜査に心血を注いできた元厚労省麻薬取締部部長の瀬戸晴海氏は、新書『スマホで薬物を買う子どもたち』(新潮社)に〈増加の一途を辿っているのが、大学生高校生中学生を含む“子どもたち”の検挙〉として危機感を募らせる。

法で規制されていない市販薬や処方薬でも、大量摂取による“オーバードーズ”が問題視される。昨年12月には滋賀県SNSを介して集まったオーバードーズ仲間の死亡事件が起きた。亡くなった女子高校生に、大量の向精神薬を渡したとして逮捕起訴された男には、今年7月に有罪判決が言い渡された。

令和3年版『犯罪白書』によれば、大麻取締法違反による少年の検挙人員は平成26年から7年連続で増加しており、特に令和2年には前年比43.4パーセントもの増加をみせた。麻薬取締法違反も平成29年から増加の傾向がみられる。未成年を取り込み拡大し続ける薬物市場の実態を瀬戸氏に聞いた。(ライター高橋ユキ

スマホを初めて買うときに親子で約束を

ーー大麻などの規制薬物に関しては、SNSの密売人広告では、隠語が使われています。いまは絵文字が多く(アイス絵文字)は覚せい剤、(自転車や鼻の絵文字)はコカイン、(虹や紙の絵文字)はLSDMDMAは(バツの絵文字)など……。ただこれらも、すでに隠語と呼べないほど浸透していますね。

「隠語は常にトレンドがあり、進化しています。本書に書いてある隠語も絵文字も、すぐに過去のものになります。例えば、ストロベリーコフという大麻のブランド(品種改良大麻)の一つは、今では、いつもの大麻絵文字ブロッコリー)ではなく、いちご絵文字が使われています。

エディングケーキも同じような意味合いで大麻を表します。かといってこの絵文字は海外では通用しない、日本特有の隠語です。覚醒剤を意味するメスとかスピードとか、世界的な隠語はあるんですね。そこから、子どもたちのコミュニティだけで使う言葉があるように、新しい隠語が生まれています」

ーー密売広告を出しているアカウントは秘匿性の高いアプリであるテレグラムなどのIDを掲載しており、実際の取引はそちらで行っています。子どもスマホの使い方について、親はどういった点に注意しておくことが大事でしょうか。

スマホを買い与える時の約束ごとを親子で最初にきちんと決めておいたほうがよいでしょう。時折、どんなアプリを入れてるのか見せてもらうとか、アカウントを教えてもらっておくなど。例えばお子さんのスマホLINEインストールされているのは一般化してますよね。

ですが、LINE以外にテレグラム、wicker、WIRE、加えてシグナルが入ってるとなれば、何に使うんだ、ということになるでしょう。捨てメアドが簡単に作れるアプリもあります。普段の友人とのやりとりには使わないのではないでしょうか。単体ではなく、複数のアプリを見ておくことが大事です」

子どもが薬物に手を出すきっかけは何か

ーー子どもが薬物に手を出すきっかけについて、興味本位で最初にスマホで密売人にコンタクトを取るケースの他には、やはりリアルな人間関係から始まることもありますか?

子どもの薬物の入り口はまず、友人知人、先輩後輩、そして交際相手からが多いですね。そこで彼らに入手先を聞いて、SNSで密売人が広告を発信していることを知り、自分でもチェックするようになります。

あるいは、何か悩みを持つ子どもが、SNSで同じような悩みを発信するアカウントに出会うとする。その相手から『私はこれで悲しみから逃れた』とパブロンゴールドAを教えてもらう、そういうふうに入っていくケースもあります。

またSNSで『パブロンゴールドAを飲むと悲しみが取れる』とか『野菜を買って使ったらリラックスできた』といった発信を見て、1人で薬物を覚えていくケースもあります」

●「名門大学の運動部で一時期大麻が蔓延」

――本書にも、まず知人から勧められて大麻を吸引し、その後SNSを介して自分でも購入、さらに「嫌なことが続いた」としてパブロンゴールドA、いわゆる“金パブ”の大量摂取に及んだ大学生の事例がありました。金パブなどによるオーバードーズが若者を中心に増えているとも書かれていましたが、要因はどこにあるのでしょうか。

「ひとつは不安感、孤独感、生きづらさからの逃避と、もうひとつは好奇心という享楽的なものですが、コロナ禍では前者が増えてきたような気がします。あるいは退屈という理由もあります。

ある名門大学の運動部で一時期大麻が蔓延しましたが、彼らが事情聴取の中で『退屈だったから』と語っています。コロナの社会不安は、歴史的に見ても、薬物の濫用、または規制薬物の密売を煽っています。

オーバードーズに使う市販薬にしろ、大麻にしろ、中枢神経に影響を与える薬物であることに変わりはありません。若者の中には、その薬物が法で規制されているとか、未規制だとかいうことに対するこだわりがさほどないんです。

金パブには、興奮系と抑制系の物質が含まれています。服用すると最初に興奮系のエフェドリンが作用し、のちに抑制系のコデイン系が効き始める。エフェドリンは覚醒剤の原料でもあります」

●市販薬でも「効果があるということは副作用があるということ」

ーーこうした薬物の大量摂取や繰り返しの使用は、法で規制されているか、そうでないかにかかわらず、注意したほうがいいということでしょうか。

「そうです。海外に行くと子どもにはカフェインを摂取させないなど、そこまで意識しているところもあります。中枢神経に影響を与える薬物は、たとえそれが未規制であっても、特に子どもたちには、やめたほうがいいと伝えることが重要です。

前々から思っていたことですが、アルコールタバコ子どもに対して幼少期から『大人になってからやるものだ』『成長を阻害する』などと教えますよね。ところが社会全体は医薬品のことはなにも教えないでしょう。親たちも医薬品というのは効果があって当たり前だと思っています。

しかし、効果があるということは副作用があるということです。副作用でも中枢神経に影響を及ぼすものに関しては依存が生じます。家の中の、誰でも手の届くところに薬を置いたりしている。そういった意識はやはり変えていく必要があるでしょう」

●危機意識を共有しながら、立ち直り支援も両立する必要性

ーーたとえば大麻でも、金パブでも、勧められたら子どもはその場の空気を読んで断れない場合があるかもしれません。この時代、親が注意深く子どもを見ておくだけでは足りず、子どもが自分で断れることが非常に重要だと感じますが、親としてはそれに備えてどうアドバイスしておけばいいのか悩みます。

「中枢神経に作用を及ぼす薬物の使用を続けると、誰もが依存状態に陥る可能性があります。たとえば規制薬物である大麻も幻覚作用や脳の萎縮のリスクが生じます。若ければ若いほど影響は大きいです。さらに量が多ければ多いほど、使用期間が長ければ長いほど、脳への影響はやはり大きいです。

薬物の乱用によって健康被害を及ぼすだけでなく、他の犯罪に関わってしまう場合もあるのだということを、幼少期からやはり教えておくことが必要でしょう。

このように危機意識を社会全体で共有していくこと、そして同時に、立ち直り支援をすることも重要です。日本社会は薬物に対する偏見や差別が強く、一度レールから外れると社会復帰が困難になります。その現状も変えていかなければなりません」

ーー規制薬物に関しては密売の状況も変化してきましたか?

「かつては覚醒剤暴力団が売り捌いていたので、密輸のタイミングも推測することが可能で、関係国で連携して捜査ができました。ところが最近では個人が売るようになってきています。知識がないために好き放題に混ぜ物をして、よりひどい状態になっています。

近年、バンコクで『Kノムポン』という合成麻薬が流行し、死者が続出しました。これはケタミンを主体にした合成麻薬です。新型コロナウイルス感染拡大により、流通経路が封鎖されてMDMAが枯渇したんです。そのタイミングで素人が作ったKノムポンがクラブで取引されていました。こういうものが非常に怖いんですね。

例えばアメリカでも、大麻にフェンタニルを混ぜたものが流通しました。フェンタニルを混ぜることによっていわゆる抑制効果が強くなります。それを商品として流通させる。そうすると過剰摂取と同じようなことになり、バタバタと搬送されたりもする。むしろ素人がやり出したら危ないという感覚もあります」

「退屈だから」名門大学の体育会で大麻蔓延、スマホで薬物を購入する子ども 元麻取部長が抱く危機感