『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリストモーリー・ロバートソンが、「日本の組織の硬直ぶりが危険水域に突入している」と警鐘を鳴らす。

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池田長発(ながおき)は備中国(びっちゅうのくに)・井原(現在の岡山県)の領主だった幕末の旗本で、26歳で外国奉行(ぶぎょう)に就きました。

当時、日本では攘夷(じょうい)論が吹き荒れ、横浜でフランス軍士官が殺される井土ヶ谷(いどがや)事件が発生。その処理のために34名の遣欧使節団を率いて渡仏し、欧州の先進的な文明を見た長発は、「このままではいけない」と幕府に開国の重要性を進言します。

しかし、聞きたくもない話を聞かされた幕府は怒り、長発に蟄居(ちっきょ)を命じました――。

近いうちに当然来るであろう未来に目を向けようとしない"集団的現実逃避"の事例は古今東西、枚挙にいとまがありません。アメリカでは2045年頃までに白人の割合が非白人を下回ると予測されますが、一部の白人層は人種のミックスが進むという「現実」を受け入れず、内向きに過去の栄光にすがっています。

なぜこんな話を持ち出したのか。職業柄、多くの企業と接点を持つ機会があるのですが、近年、日本の組織の硬直ぶりが危険水域に突入していると感じるからです。

戦後、日本は欧米の消費者が欲しがる高性能な商品を安く、正確に、大量に届けることで経済発展を遂げました。その背景として、当時は中産階級が巨大化し、若い人の可処分所得も大きく、多くの人が同じモノを欲しがるなど社会の価値観もほぼ均一だった。一方で環境問題は意識されず、大資本メディアが需要を喚起する決定権を握っていました。

しかし2022年現在、かつて世界に猛攻をかけた日本のアセットは"賞味期限切れ"です。若い世代ほどモノを欲しがらず、価値観が多様で「主流」がぼやけ、富裕層と庶民層の購買対象はまったく異なる。何が新鮮で何にわくわくするかは、ほぼネット上で決まる。

つまりイノベーションがマニュアル化できない時代です。日本のインフラ、生活基盤の質が今もって世界最高の水準であることは確実ですが、しかしビジネス面では「ミスがなく安定している」「既存の商品やワークフローを改善する」だけでは歯が立たないのです。

それでも、特に大企業であればあるほど、前時代の価値観に親しんだトップマネジメントが権力基盤を開放せず、「失敗もしないが成功もしない低空飛行」を続けている。組織では役職や階層で同列に並ぶ人々への強烈なやっかみが根づき、「平等」が強調され、そしてツケは次世代に回される――。

これはおそらく、企業や国の上層部だけが悪いという単純な話ではありません。ダメだと気づいているのにアクションが起きない社会全体の問題です。バッドニュース(=リスクを冒してでも変化が必要だ)は聞きたくない、持続可能性はなくともできる限り都合よく生きていたい。そんな深層心理すら感じます。

そして、そういう人たちには「○○があればエネルギー問題はすべて解決する」とか、「消費税なんてなくしても誰も困らない」といった詐欺まがいの現実逃避話がよく響きます。ただ、少しだけ立ち止まって考えてみてほしい。

世の中、そんなにうまい話はありません。変化せずとも、自分には"分け前"が与えられ続けるだろうと信じるその根拠はなんですか? 価値観を変えるくらいなら貧しくなってもいいとまで覚悟を決めているのなら、「そうですか」としか言いようがないですが。

モーリー・ロバートソン(Morley ROBERTSON)
国際ジャーナリストミュージシャン1963年生まれ、米ニューヨーク出身。レギュラー出演中の『スッキリ』(日テレ系)、『報道ランナー』(カンテレ)ほかメディア出演多数。昨年はNHK大河ドラマ青天を衝け』、TBS系日曜劇場日本沈没―希望のひと―』への出演でも話題に!

「変化せずとも、自分には"分け前"が与えられ続けるだろうと信じるその根拠はなんですか?」と問うモーリー氏