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BMW製の直6ターボにローレンジ・ギア

text:Greg Kable(グレッグケーブル
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
イネオス・グレネーダーの動力源は、BMWの3.0L直列6気筒ターボ。トップクラスのオフロード性能とオンロードでの実用性に対し、必要なパフォーマンスとトルクが得られるエンジンとして採用したと、イネオス・オートモビル社を率いるハイルマンが話す。

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「当初は6気筒だけでなく、4気筒の可能性も検討しました。コストとパッケージングを精査する中で、BMW社製の直列6気筒がベストだという結論に至りました。ガソリンとディーゼルの両方で」

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エンジンは2.5t以上の車重を持つオフローダーに合わせて、チューニングを受けている。ガソリンの最高出力は287psで、最大トルクは45.8kg-m。ディーゼル253psと50.9kg-mを発揮する。

ただし、数字はまだ最終決定ではないらしい。ハイルマンによれば、量産までにディーゼルは5.1kg-mほどトルクが増える可能性がある。

トランスミッションは、ZF社製のトルクコンバーター式8速AT。そこに、トレメク社製のローレンジ・トランスファーが組み合わされている。いわずもがな四輪駆動だ。

グレネーダーに乗ろうとすると、ボディの高さを強く意識させられる。サイドステップに足をかける以上の努力がないと、運転席には座れない。

ドライビングポジションは素晴らしく、シートはゆとりがある。ドアトリムの作りも良く、腕を載せられる厚みもある。ドライバーのすぐ横にドアがあった、オリジナルのディフェンダーとは大きく異る。

初代ディフェンダーより遥かに優れる洗練度

ダッシュボードの奥行きは、最近珍しいほど浅い。でも高い位置にあり実用的なデザインだ。運転席からの視界も良好。ボンネットやフロントフェンダーの角がよく見える。リアミラーも、後方を確認するのに不足はない。

まだ正式発表前ということで、ここではインテリアへは詳しく触れられない。構造はトラディショナルだが、フロントシート側は広々としている。メーターパネルやエアコンなどの操作系は、イネオス社のオリジナル。訴求力はあると思う。

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イネオス・グレネーダープロトタイプ

オンロードを走り始めると、ATが印象的なほど滑らかに仕事をこなしてくれるが、BMW由来のガソリンエンジンの力強さは額面ほど感じられない。グレネーダーの車重は2600kgから2700kgの間に収まるらしく、かなりの重量級だからだ。

それでも、納得できる発進加速を引き出せ、トルク感にも余裕はある。洗練度も高い。高級車の水準ではないにしろ、10年前のディフェンダーより遥かに優秀。試作段階だからか、トランスファーケースからメカノイズが少し響いていたけれど。

直立したフロントガラスと大きなサイドミラーのおかげで、高速走行時の風切り音はかなり大きい。ギア比を調整して、最高速度が160km/hに設定された理由でもある。

257mmの最低地上高とリジッドアクスルという組み合わせから、ハンドリングには期待を持てなさそうだが、実際はそこまで悪くもない。確かにスプリングは柔らかく、車重も重く、コーナリング時にはボディロールが大きい。

セパレート構造がゆえの悪路性能

開発段階ということで、最新のステアリング用ソフトがインストールされておらず、高速域での正確性やセルフセンタリング性が充分ではなかった。だが少なくともロールの発生は漸進的で、ステアリングを介してどこまで攻め込めるか、把握はしやすい。

最小回転直径は13.5mと大きいが、ハイルマンが付け加える。「まだ改良途中です。大幅に改善できるソリューションを、いくつか候補として検討中です」

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イネオス・グレネーダープロトタイプ

ボディロールは小さくないにしても、グレネーダーのコーナリング速度は意外に速い。軽くない車重にオフロードタイヤということもあって、グリップ限界はすぐに逢えるのだが。

印象としてはオールドファッションだ。でも、ゆったりとしたボディの動きは魅力でもある。急がずに、想定された速度で気持ちよく運転したいと思える。意図した通りの速度で開けた道を流せば、最高に心地いい。

今後数か月の間に、グレネーダースペックが決定されていく。アプローチやデパーチャー・アングル、渡河水深などのオフロード性能に関わる数字も含めて。

シェークル山の手強いオフロードコースを走破した能力を見る限り、従来的なセパレート構造を採用するというイネオス社の決定は正しかったといえる。モノコック構造では、アクスルの可動範囲も含めて、同等の悪路性能は実現できなかっただろう。

改めて新鮮に感じるような本物さ

グレネーダーなら、現代的な構造のオフローダーでは到達できない場所へも進むことができる。加えて設計も素晴らしい。メカニズムの剛性感や操作系の重み付けなど、各部にドイツ車のようなカシっとした質感が備わっている。

開発途中ではあったが、完成車の見通しは明るそうだ。オフローダーのカテゴリーを塗り替えるほどではないかもしれないが、実力はトップクラスになるはず。

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イネオス・グレネーダープロトタイプ

オンロード走行時の質感にも充分な訴求力がある。アルプス山麓の試乗コースでの体験を振り返れば、ローレンジ・モードを用いたオフロードの走破性は無敵級だった。

大手の自動車メーカーには相手にされないような、特定の人々には間違いなく響くであろう、独特の個性を備えている。改めて新鮮に感じる本物さがある。

セパレートフレーム構造だから、といういい訳が不要な完成度を獲得するのではないかと、期待させてくれるプロトタイプの試乗になった。

イネオス・グレネーダー・プロトタイプのスペック

英国価格:4万ポンド(616万円/予想)
全長:4927mm
全幅:1930mm
全高:2033mm
最高速度:160km/h
0-100km/h加速:−
燃費:−
CO2排出量:−
車両重量:2650kg(予想)
パワートレイン:直列6気筒2998cターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:287ps
最大トルク:45.8kg-m
ギアボックス:8速オートマティック+2速トランスファー


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