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ラリードライバーから愛されたエスコート

text:Mike Duff(マイク・ダフ)
translationKenji Nakajima(中嶋健治)

 
1980年8月の歴史的な出来ごとといえば、マイクロソフト初のOS、ゼニックス誕生や、アバディーン大学が開発した全身MRIの発表などが挙げられる。英国の音楽シーンでは、デビッド・ボウイとアバがトップチャートを競っている時期だった。

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クルマは、といえば、Mk2フォード・エスコートが生産を終えたのが1980年8月。英国ヘイルウッド工場から、最後の1台がラインオフしている。

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MST Mk2 ステージ2(英国仕様)

普通の乗用車として、悲しんだ人は多くなかったかもしれない。板バネのリジットアクスルに後輪駆動という古風なレイアウトで、3代目のFFにOHCエンジンという組み合わせは、遥かにモダンな内容として受け止められた。

しかしラリーカーとして振り返ったとき、Mk2エスコートは別格になる。アリ・バタネンはエスコートRS1800を駆り、世界ラリー選手権で初優勝を獲得している。

先日開かれたグッドウッド・フェスティバルでは、元コ・ドライバーのデビッド・リチャーズと、オリジナルマシンとの再会が叶った。素晴らしい光景だった。

ラリーマシンは、ターボチャージャー四輪駆動という時代に突入していく。それでも手頃な価格とハンドリングの良さから、エスコートはアマチュア・ラリードライバーから愛された。

Mk2エスコートの生産終了から数年後には、マシン開発のスペシャリストと、マシンを維持するためのサプライヤーというビジネス構造が確立する。今ではラリーカーのベースとしての需要が供給を上回り、価格は上昇したまま下がってこない。

MST社が仕上げる真新しいMk2

多くのMk2エスコートが、現役でラリーイベントを走っている。近年はメカニズムに大きな手が加えられ、300psのエンジンにシーケンシャル・トランスミッションが組まれたような例もある。

ラリー用エスコートの部品開発と供給を展開している企業の1つが、英国のモータースポーツ・ツールズ(MST)社。サプライヤーだけでは飽き足らず、新鮮な部品を組み合わせて、真新しいエスコートを完成させてしまった。

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MST Mk2 ステージ2(英国仕様)

今回ご紹介するのは、オリジナルのフォード・エスコートではない。ウェールズに拠点を置くMSTは、商標利用の権利も取得していない。

それでもMST Mk2は、基本的にはまったく新しい、公道走行が可能なエスコートだ。デモ車両の画像が2021年初頭に公開されると、世界中から多くの問い合わせが寄せられたという。

購入を考える一部の人は、豪快なトップエンドのラリーウエポンを探しているらしい。それ以外の多くの人は、それほどアグレッシブな仕立ては望んでいない。今回の試乗車のように、ラリーにも出られるが、公道でも扱いやすいエスコートがご希望のようだ。

真っ赤なMk2には、MST社が長年開発してきたアップグレードの内容が、惜しみなく盛り込まれている。ロールケージにグループ4仕様のオーバーフェンダー、6リンクで支持される、強固なリアアクスルなど。

新造されたボディに2.5L 4気筒デュラテック

ブレーキはAP社製のコンペティション仕様で、ホイールは13インチミニライト。タイヤはクムホが組まれている。そして何より、ボディシェルは納屋で発掘されたようなモノの再生品ではなく、イチから新たに成形されている。

エンジンは、現代的な2.5L 4気筒のフォード・デュラテック・ユニット。北米仕様で触媒も残り、トランスミッションはマツダ・ロードスター用のものが選ばれた。

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MST Mk2 ステージ2(英国仕様)

ステアリングコラムは折りたたみ式。燃料タンクはモータースポーツ仕様の55Lが、トランク内に載る。1970年代には許された車内の鋭いエッジ部分は、英国の車両認定を得るために削られている。

MST社を率いるカーウィン・エリスによれば、試乗したデモ車両は、目指している最終的な仕上げ水準には届いていないという。それでも、筆者には充分に綺麗で壮観に見える。

ドアハンドルやウインドウを開け閉めするクランクなどは、年代物のフォードの純正部品だというが、それ以外はMSTが用意した新品。ボディ骨格も、まったく新しいから当然だろう。

エリスの話では、当時物のMk2エスコートは、隠れた部分で錆びている場合が殆どだという。どんなに見た目の状態が良くても。

MST Mk2に乗り込む。正直、洗練という言葉は似合わない。エンジンは爆音で目を覚まし、車内をノイズと振動で満たす。カーペットや防音材は、一切貼られていない。エンジンルームから、そのまま届く。

数kmもハードに走れば、バルクヘッドを伝導するエンジンの熱をはっきり感じる。ただし、希望に応じて上質に仕立てられた内装トリムも装備できるという。

この続きは後編にて。


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