高齢化の加速と共に増えているのが認知症。しかし「認知症=高齢者」というわけではなく、65歳以下の現役世代が発症するケースも珍しくなく、その有症率は増加傾向にあるといいます。65歳以下の「若年性認知症」、その実情についてみていきましょう。

認知症は高齢者だけが発症するわけではない…全国3.5万人の若年性認知症者

日本のサラリーマンの平均給与は月33万7,200円。20代前半で月24万円ほどだった給与は、年齢と共に上昇し、50代前半で月44万円に達します。さらに部長などと役職が付いていたら、さらに高給に。50代前半・部長職で月収は60万円、推定年収は1,000万円間近に。

順風満帆に歩んできたサラリーマン人生。しかし、誰もが順調に勤め上げ、定年を迎えられるとは限りません。ある日、異変を感じ病院へ。そこで診断されたのは、まさかの認知症。そんな事態に直面する人も。

認知症といえば高齢者がなるものというイメージがあるでしょう。確かに、年を重ねるごとに認知症のは勝率は上がるといわれていますが、認知症はなにも65歳以上の高齢者に限ったものではありません。一般に、65 歳未満で発症する認知症のことを「若年性認知症」と呼びます。

厚生労働省令和2年若年性認知症実態調査』によると、日本の若年性認知症者は、推計3万5,700人。18~64歳の人口10万にあたりの有病率は、50.9人と、10年前の前回調査47.6人よりも増加しています。また若年性認知症の過半数が、アルツハイマー型認知症とされています。

【年齢別『若年性認知症有病率』(推計)】

18~29歳:4.8/1.9/3.4

30~34歳:5.7/1.5/3.7

35~39歳:7.3/3.7/5.5

40~44歳:10.9/5.7/8.3

45~49歳:17.4/17.3/17.4

50~54歳:51.3/35.0/43.2

55~59歳:123.9/97.0/110.3

60~64歳:325.3/226.3/274.9

※数値は10万人あたりの有病率で、単位は人。左より男性、女性、総数

【若年性認知症の原因疾患】

アルツハイマー型認知症:52.6%

血管性認知症:17.0%

前頭側頭型認知症:9.4%

外傷による認知症:4.0%

レビー小体型認知症パーキンソン病による認知症:4.0%

その他:12.7%

出所:厚生労働省令和2年若年性認知症実態調査』より

現役時代に認知症を発症した人は、全員、会社を辞めた……

さらに東京都による『若年性認知症の生活実態に関する調査』(平成31年3月)で、若年性認知症と診断された人たちの実態をみていきましょう。

そもそも最初に気づいた症状はどのようなものだったのでしょうか。最も多いのが「物忘れが多くなった」で57.5%。「職場や家事などでミスが多くなった」42.5%、「怒りっぽくなった」22.5%と続きます。そして最初の気づきから受診まで、「1ヵ月未満」が最も多く36.4%。「1~3ヵ月未満」が31.8%と続き、多くが自身の違和感から早めにアクションを起こしています。

若年性認知症と高齢者の認知症、最大の違いは、若年性は現役世代だということ。同調査では若年性認知症と診断された人のうち、発症前と同じ職場で働いている人はゼロ。「解雇」14.3%も合わせると、7割近くが「退職」の道を歩んでいます。また「転職」も14.3%を占めています。そして世帯収入は52.5%が「減った」と答えています。

またローンについては、75%が「なし」と回答する一方で、10%が「住宅ローンの返済あり」、5%が「教育ローンの返済あり」「車のローンの返済あり」と回答。家計については25%が「苦しい(とても苦しい、やや苦しい」、50%が「何とかまかなえている」と回答。苦しい台所事情が垣間見ることできます。

コツコツと勤め上げ、給与も順調に増えてきた。引退後の悠々自適な生活を見据えて……そんなときに認知症と診断され、会社にいることが難しくなったとしたら。その事実に、そしてその先の生活への不安で押しつぶされてしまう、そんなケースも珍しくないようです。実際に認知症と診断された人のなかには、うつなどを発症するケースも多いといいます。

認知症で働くことができなくなった場合、年金受給年齢に達していれば、老齢年金と介護保険の両方を使って生活していくことができます。

では一家の大黒柱となっている存在が働けなくなった場合はどうでしょうか。健康保険の加入者であれば、最大1年半の間は傷病手当を得ることができます。その期間が過ぎてしまった場合は、障害年金に切り替えて生活を支えることが可能。若年性認知症については、さまざまなサポートがあります。本人も家族も、そこまで悲観する必要はありません。

(※写真はイメージです/PIXTA)