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(写真:時事通信

世論調査では国民の半数が反対している国葬。しかし、準備は着々と進んでいるよう。費用はすべて税金から支払われるというが、どれほどが費やされるのか? 過去の事例から試算した。

「(国葬については)うちにも声がかかっているんですが、まだ内容が決まっていないみたいですね」こう語るのは、大規模な社葬を請け負う老舗葬儀会社の担当者だ。

7月22日、政府は、銃撃事件で死去した安倍晋三元首相(享年67)の国葬を9月27日日本武道館で行うことを決定した。戦後の首相経験者では’67年の吉田茂元首相以来2例目となる今回の国葬。7月14日の会見で岸田文雄首相(65)は、国葬の費用は全額国の負担になるとしている。

しかし、国民の間では、安倍元首相の国葬が受け入れられたわけではない。報道各社が行った世論調査では「賛成」と「反対」が軒並み拮抗しているのだ。

国民の半数が反対している国葬に、私たちの血税はいくらつぎ込まれるのか。

’20年10月に行われた中曽根康弘元首相の葬儀は、国と自民党が費用を折半する“内閣・自民党合同葬”。この予算は総額約1億9200万円で、そのうち会場代が約5500万円、会場内の音響、映像、設営費用が約1億3600万円といわれています」(全国紙記者)

厚生労働省の行政事業レビューによると、2021年の全国戦没者追悼式で武道館の会場・付帯設備使用料は1200万円だった。会場費用は中曽根元首相の時よりも抑えられそうだ。

しかし、それ以外の費用はかさみそうだ。中曽根元首相の合同葬はコロナ禍のため、小規模なものとなり参列者も1400人と限られていた。’00年小渕恵三元首相の合同葬には6000人が参列している。

「一方で、日本武道館で実施される安倍元首相の国葬は、6000人を軸に参列者を調整する見通しであると、6日に産経新聞が報道しました。中曽根元首相の時よりも、会場設営費もかさむことになるのではないでしょうか」(前出・全国紙記者)

吉田元首相の国葬では、遺影の額縁と祭壇に菊の花5万本が飾られた。また、献花に訪れた一般会葬者は3万5000人といわれている。現在の白菊の価格について、都内の生花店に聞いてみると……。

「献花用でも飾りつけ用でも菊の花の時価は1本200円。4万〜5万本を用意するとなると1週間前から仕入れなければ間に合いません。それだけの“買い占め”による相場の急騰が起こるでしょうね」

仮に現在の価格で、献花用の白菊を3万5千本用意するだけで700万円に。祭壇用5万本も加えると、驚くなかれ、菊の花だけで2千万円に届きそうだ。

■弔問に訪れる要人の滞在費はだれが負担する?

「80カ国・地域を訪問し、各国首脳と親交を結んだ安倍元首相。今回の国葬には、各国の要人が多数参列する見通しです。’00年に行われた小渕元首相の内閣・自民党合同葬には、当時のクリントン大統領など153カ国以上の国・地域から要人377人が参列しました。海外からの参列者は、今回も同規模かそれ以上が見込まれます」(前出・全国紙記者)

気がかりなのは、弔問に訪れる要人の旅費や滞在費だが……。

「小渕元首相の内閣・自民党合同葬に際し、外国から参列する関係者の旅費および滞在費の日本側による負担はなく、安倍元総理の国葬儀についても、同様とする予定です」(外務省大臣官房報道課)

実は、このような弔問の際には、訪れる側が旅費や宿泊費を負担するのが慣習だという。とはいえ、警備態勢は強固なものになることが予想される。

警視庁公安部の所属で、現在はセキュリティコンサルタントの勝丸円覚氏がこう語る。

「1万人以上の警察官を動員した小渕元首相の葬儀以上の規模になることは間違いありません。150カ国以上の海外要人のエスコートや宿泊ホテルの警備など、24億円かかった昭和天皇の『大喪の礼』に近い態勢になるのでは。

安倍元首相は銃撃されて亡くなったこともあり、日本は各国から警備の強化や改善を求められるでしょう。世論の反対も強いため、通常よりも人員を増やさねばならず、警備費用は35億円ほどに増えてもおかしくありません」

昭和天皇大喪の礼では警察官3万2千人が動員され、当時の警備費用は24億円だった。また、今上天皇即位礼正殿の儀では警察官約2万6千人が導入され、警備関係費用としては28億5000万円がかかっている。

会場の飾りつけや設営に1億3600万円、武道館の会場費として1200万円、献花に700万円、警備に35億円となると、少なく見積もっても国葬にかかる費用は総額36億5500万円ということになるのだ。

■国葬に電通は関与するのか?

“大規模なイベント”となる安倍元首相の国葬。一部の報道では、大手広告代理店の電通が取り仕切る可能性があるとされている。

電通といえば、東京五輪のスポンサー契約をめぐる汚職問題で聴取されている、組織委員会の高橋治之元理事が専務を務めていた会社。コロナ禍の支援策である持続化給付金を巡っても、事業費の“中抜き”が問題視された。

メディアと利権の問題に詳しい元博報堂の社員で作家の本間龍さんがこう語る。

「国葬まで2カ月を切っており、もう準備を始めていないと間に合いません。この短期間に、一括ですべてを仕切れるのは電通ぐらいしかないでしょう。ただ、持続化給付金のときのように、ドカンとマージンをとれるかというと、それは難しい。マージンをとるには、いくつもの子会社に発注する必要がありますが、今回はそれができません。なので、そんなにもうかるわけではないですね」

今回の国葬を取り仕切るという報道の真偽について電通に問い合わせてみると、「本件に関する臆測情報は事実ではなく、当社は関知しておりません」との回答があった。

多くの国民の反対をよそに進められようとしている安倍元首相の国葬。ある議員の秘書が語る。

「国葬の開催自体を考え直そうということはありえない話ではありません。風向きが変わってきたからやっぱりやめます、と閣議決定すればいいだけのこと。政治判断でやめることは可能です」

37億円もかけて行うか、立ち止まって考えてみてはどうだろう。