最近は結婚をしない人が増えているという。これは統計からも明らかだ。2020年に行われた国勢調査によれば、40歳代で男性の3割、女性の2割が未婚である。30歳から34歳ならば、男性は約半数、女性でも4割近くが未婚である。約40年前に遡った1980年では同年齢層で男性の未婚率は21.5%、女性は9.1%。男性はもちろん女性が結婚しなくなっていることは数値上でも明らかだ。

激増するであろう「おひとりさま相続」

 この40年間で一方的な右肩上がりになっている未婚率の上昇は、これからの社会において「おひとりさま相続」が激増していくことを示している。

 現代では結婚しても子供ができない、あるいは子供を持たない夫婦も多くなっている。こうした世帯でも今後、夫婦のうちの片方が亡くなると二次相続の段階でおひとりさま相続が発生することになる。

 世の中に出ている相続関係の本はそのほとんどが子供、あるいは孫に相続することを前提にしているが、これからの相続問題は、相続する子供がいない「おひとりさま相続問題」なのだ。

 このように言うと「自分は独身で、相続する相手もいないのだし、気楽に過ごしてお金は使い果たし、自分の住んでいるマンションも、死んだら国か自治体のものになるのだろうから別に気にしない」などといったセリフが返ってくるのだがどうだろう。手始めに、本当に自分の財産を相続する人がいないのかどうかを考えてみることから相続問題を考えてみよう。

兄弟姉妹、その子供も相続対象

 まず、親が健在であれば親が法定相続人になる。親がすでに他界していても、あまりないケースであるが祖父母が存命ならば祖父母が対象となる。さらに父母や祖父母が亡くなっていても、兄弟姉妹がいれば彼らが法定相続人となる。兄弟姉妹ならば、何人いても相続対象だ。このあたりまでは何となくわかっている人もいるが、兄弟姉妹のうち誰かがすでに亡くなっていたら、その子供、つまり甥や姪が相続対象となる。

 おひとりさまだからといっても相続問題から離れられないのだ。こうした事実を本当に理解しているおひとりさまは意外と少ない。

 特に年齢を重ねてくると兄弟姉妹との交流も少なくなりがちである。甥や姪に至っては会ったことがない、あるいははるか昔に数回あった程度などという場合もある。あらかじめ、自身の財産の相続権が誰にあるのかについてはよく認識しておくことが必要だ。

“結婚していないパートナー”の相続

 最近では結婚していなくても、同居しているパートナーがいるケースも多い。なんだか疎遠になった兄弟姉妹に財産が引き継がれるくらいなら、パートナーに財産をすべて相続したいという人もいるだろう。だが何もせずに死んでしまうと法律上は、どんなに長期間にわたってパートナー関係を築いていても、パートナーが相続する権利はない。長年連れ添ったパートナーが相続発生後に相手の財産を相続したい場合には、家庭裁判所に申請して特別縁故者に認定してもらう必要がでてくる。

 ところが特別縁故者に認められるには、ハードルが高く、事実上配偶者として考えられるような長年にわたる内縁関係がある、介護や看護で特別な貢献をしていたなどといった事実を証明できないと認められないケースがほとんどだ。

 おひとりさまが後顧のことを考えずに亡くなると、思わぬトラブルが発生する。

 まず、親しい人がいない場合、彼や彼女がいったいどれくらいの財産、あるいは借入金を持っているかがわからない。財産の内容を把握し、これを取りまとめる人がいないとまずここでトラブルが発生だ。

 銀行預貯金くらいならまだしも、生命保険、有価証券、投資として所有していたワンルームマンション、投資のために調達したローン残債、などなどすべてを把握する必要がある。中には隠し預金や登記されていない不動産など、いきなり登場した、たいして親しくもない相続人ではその全容をつかむことが難しい。相続財産の全体像がわからなければ遺産分割協議も進められない。

準備がなければトラブルを招く

 おひとりさまは結構、独自の趣味に拘っていて部屋を自分の好きなグッズなどで一杯にしていたりもする。「家じまい」だけでも一苦労だ。

 法定相続人である兄弟姉妹が現れても、疎遠になっていたり、必ずしも仲がよくなかったりする。家じまいを誰がやるかでももめごとになりがちだ。高齢な兄弟姉妹になってくれば、認知症になっているケースもある。この場合には後見人などを指定する必要がある。亡くなっていれば、もっと疎遠な甥や姪まで登場してきて混迷の度は深まるばかりだ。

 グローバル社会を反映して、兄弟姉妹の中には海外在住の人なんかもいる。皆が一堂に集まって遺産分割協議をやり、全員が納得して遺産分割協議書にサインするまで途方もない道のりが横たわっているのだ。

 そしてなまじお金持ちだったりすると大変だ。遺産分割協議において兄弟姉妹間で争い勃発。現金や預貯金だけが欲しいと主張する長女、父親から相続していた彼らの実家なんていらないと主張する次男など混乱の極みとなる。

 ここで登場するのが、おひとりさまが長年連れ添ってきたパートナーの存在だ。パートナーも突然出てきて遺産分割を始める兄弟姉妹をモヤモヤした気持ちで眺めているかもしれない。

 おひとりさまは自分の死後にこうした無用な混乱、トラブルを招かないように事前に対策をたてておく必要があるのだ。

希望があれば、遺言書を作成すべき

 さておひとりさまがまず自覚することは、自分が亡くなった場合、相続する可能性がある相続人(法定相続人)がいるのかどうかを正確に把握することだ。

 相続人が誰もおらず、自分が相続させたい人も見当たらない場合、じたばたする必要はない。遺産はすべて国庫に納付される。

 たとえばパートナーに自分の財産を渡したい、お世話になった特別な人に自分の意思として財産を相続させたい、兄弟姉妹の中で特に仲が良かったひとりにたくさん財産を引き継がせたいなどといった希望がある場合には、このことを記載した遺言書を作成することだ。

 特にパートナーに渡したい場合、遺言書を残しておかないと、相続が起こってもパートナーには法定相続分がないため、特別縁故者の申請をしなければならなくなる。だが、遺言書でルールに則り記載しておけば、パートナーは財産の一部を相続することが可能になる。また遺言書には財産目録を記載するので、財産のありかを巡って混乱することも少なくなる。

 ただし法定相続人には法定相続分の一部にあたる遺留分があるため、すべてをパートナーやお世話になった人に相続することは叶わないものの、遺言書によって自身の意向を十分に反映させることができる。ちなみに兄弟姉妹、甥、姪になると遺留分はない。

あなたの財産を本当に譲りたい人へ

 遺言書の作成をはじめ、相続にかかわる一連の手続きは煩雑だ。そろそろこうした作業をするのが億劫になっている人も多いのではないだろうか。また、遺言書は定められたフォーマットどおりに、基本的には自筆で作成をしなければならない。

 体力的にも、また認知症の心配もある場合には、早めに任意後見人を定めておくことも必要だろう。後見人は自分が全幅の信頼を置いている人にお願いしてもよいし、弁護士や司法書士といったプロを選任しておくと、後々の財産処分や相続税対策の事前実施などにも役立つ。

 おひとりさま相続の悩みはこれからの日本社会に確実に起こってくる問題だ。でも考え方を変えれば、昔と異なり少子化社会では、自分が本当に財産を相続したい人を、遺言書でしっかりと定めることがしやすい時代になったともいえる。相続人が大勢いると財産が分散してしまうが、相続人が少ない、あるいは存在しないようなケースが増える現代日本では、財産を本当に譲りたい人に喜んで相続させるチャンスの多い社会の到来ともいえる。

 おひとりさま相続は入念に準備さえしておけば、理想的な財産配分ができる。さて誰に自分の財産をあげるのか、わくわくの遺言書を作っておくこと、超おすすめである。

(牧野 知弘)

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