夜中に起きていると、ネガティブなことばかり想像してしまうことはないだろうか? あるいは後悔するとわかっているのに、カロリーたっぷりの夜食を食べたり、お酒を飲んでしまったことは?
夜は昼間とは心の働き方が違うことを示唆する証拠はいくつもある。
人はなぜだか、深夜0時を過ぎるとマイナス思考に耽ったり、危険な考えが魅力的に思えたり、あるいは抑制が利かなくなったりするのだ。
この不思議な人間心理は「深夜のマインド仮説(Mind After Midnight hypothesis)」と名付けられており、進化によって形成された体内時計が関係しているのだそうだ。
人間の体と心は、ほぼ24時間でめぐる体内時計(概日リズム)に支配されている。
昼間なら体内の分子レベルと脳の活動は起きて行動するよう調整されるし、夜になれば眠りにつくよう調整される。だから時間帯によって感じ方や行動が違ってくる。
これは進化の視点からも理にかなっている。
夜目が利かない人間は、昼間の方がずっと簡単に狩りや食べ物を集めることができる。ならば休むのは夜がいい。
・合わせて読みたい→夜型人間の人生がハードモードな理由(オーストラリア研究)
しかし大昔に生きた私たちの祖先は、夜になれば肉食動物に狩られる危険に直面した。危険な夜を生き延びるため、人は夜間には特にネガティブな刺激に敏感になった。
何か危険な気配がすれば、さっと飛び起きれるようにだ。こうした変化は、報酬系・動機付け系にも影響していると考えられる。だから、夜は人を昼間にはやらないような危険な行為に走らせる。
しかも夜ふかしをする人は睡眠不足にもなっている。ゆえに意識はさらに困った状態になる。
「深夜のマインド仮説」を提唱するハーバード大学の神経学者エリザベス・クラーマン氏は、「大勢が夜遅くまで起きているが、脳が昼と同じように機能していないことを示すかなり確かな証拠がある」と語り、そうした人の健康と安全のためにももっと研究を進めるべきだと話す。
真夜中の自殺リスクは昼間の3倍
クラーマン氏らは、「深夜のマインド仮説」を説明するために、2つの事例を紹介している。
・合わせて読みたい→朝型・夜型のだけじゃなかった。人間には他にも午後型と昼寝型が存在することが明らかに(ベルギー研究)
1つは麻薬中毒者が、昼間はどうにか欲求を抑えられても、夜になると我慢できず麻薬に手を出してしまうというケースだ。
もう1つは、不眠症の大学生が、眠れぬ夜が続くうちに、絶望感や孤独感を募らせていくケースだ。
どちらも最後は命取りになりかねない。じつは自殺も自傷も夜に多く見られる。アメリカの研究によると、深夜0時から朝6時にかけては自殺のリスクが3倍も高まるという。
また2020年の研究は、「夜ふかしは自殺のリスク要因」で、その理由は「体内時計のズレによるものである可能性がある」と結論づけている。
クラーマン氏らは、「以前なら信じられなかったことに、孤独や苦しみから逃れるための自殺が増えている。そうした学生は、自殺で失うものをよく考える前に、死ぬ手段を手にして実行の準備をする。しかも止めてくれそうな人が眠っている時間帯にやるのだ」と説明する。
夜に自殺が増えるのと同様に、違法薬物も夜に服用されがちだ。別の2020年の研究によれば、夜中になるとオピオイド過剰摂取リスクが4.7倍に高まるという。
こうした行動は寝不足や夜の暗闇も関係しているかもしれないが、深夜の神経学的な変化もまた影響していたとしてもおかしくはない。
真夜中過ぎの心は謎に包まれている
クラーマン氏らによれば、これまで寝不足と体内時計が報酬系に与える影響を調べた研究はないという。
だが、ライフスタイルが多様化する現代では夜に活動する人も少なくない。
したがって医師やパイロットのような夜勤のある職業の人たちが、睡眠が不規則になりがちな生活にどのように対応しているのかよくわからない。
真夜中からの明け方までの6時間、人間の脳がどのように機能しているのか、意外なほどわかっていないのだ。寝ているにせよ、起きているにせよ、真夜中過ぎの心は謎に包まれている。
この研究は『Frontiers in Network Psychology』(2022年3月3日付)に掲載された。
References:The Human Mind Is Not Meant to Be Awake After Midnight, Scientists Warn / written by hiroching / edited by / parumo
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