詳細画像はこちら

事故は減らせるか 新規制導入で製品ラインナップ縮小も

EU(欧州連合)で先月導入された新しい道路安全規制によって、EU加盟国および英国で販売されるすべての新車に、少なくとも20の安全関連技術が追加装備されることになる。

【画像】英国では90分で完売!大注目の日の丸スポーツカー【トヨタGR86と先代モデルを写真で比較する】 全58枚

この規制は「一般安全規則2(GSR2)」と名付けられ、従来のGSRを強化したものだ。これにより市販車の開発・販売コストが上がり、価格が上昇する可能性もある。今回の改正は、国連とEUで10年間にわたり議論されてきたもので、EUは2019年に提案をまとめた。

詳細画像はこちら
新型トヨタGR86は、構造上GSR2への適合が難しいため2024年に欧州販売を終了する予定となっている。

GSR2は、大きく2段階に分けて導入される。最初の導入は7月6日に行われ、次回は2024年を予定している。つまり、2022年7月6日以降にEUおよび英国で発売されているすべての新車は、GSR2に適合しなければならない。そして2024年には、さらなる改良が必要となる。

この2024年の第2段階の導入が、トヨタGR86の命取りとなった。自動速度制御装置(ISA)と緊急車線維持支援システム(ELKS)に必要なカメラ類は、先代モデルの86から引き継がれたアーキテクチャに簡単に組み込むことができないのである。

トヨタGR86を欧州で発表した際、同市場での販売期間がわずか2年と短いことを明らかにした。「ルーフを上げ、フロントガラスを移動させてカメラを搭載する必要がある」として、対応が困難であることも認めている。

一方、保険業界は当然ながらGSR2の導入にポジティブだ。

英国の保険・安全団体サッチャム・リサーチの責任者で、ユーロNCAP(欧州の自動車安全テスト)のシニアメンバーであるマシュー・アヴェリーは、次のように述べている。

「今回の改正は、基本的に既存の法律の整理であり、1998年からあるGSR1のアップデートです。新しい安全機能の多くは、既存のユーロNCAPのテストにすでに取り入れられています」

GSR2導入の背景には、2020年までに交通事故死者数を半減させ、2050年までに「ゼロに近づける」というEUの取り組みがある。

しかし、自動車業界からは、特定の車種に適用される規制の厳しさと、モデルチェンジや世界的な安全法に合わせてタイムテーブルを調整しようとしないEUの姿勢に対し、懸念を抱く声が上がっている。

フォードのホモロゲーション責任者ドゥエカニンガムは、先進緊急ブレーキ(AEB)やISA警告システムなど、一部の安全関連技術については、すでにユーロNCAPの評価に含まれているため「驚きはなかった」としている。しかし、ISAの信頼性については疑問を投げかけた。ISAは道路標識を読み取るカメラに依存しているが、多くの国では標識の整備状態が悪く、検出が困難なのだ。

また、GPSを使った速度制限警告も認められているが、これも地図精度が完璧でなければ十分に機能しない。

そのため、フォードのようなメーカーは、両方のシステムを搭載することを余儀なくされている。しかし、低価格帯の乗用車では、その分部品コストがかさむことになる。

GSR2はすでに法令化されたが、実際に交通事故死を減らす効果があるかどうかは、時間が経たないとわからない。

小型車は生き残れる? 規制対象には緊急車両も

堀場製作所のグループ会社で、英国に拠点を置く自動車関連技術開発企業ホリバMIRAの3人のエキスパートアシュリーパットン(ADASおよびCAVチーフエンジニア)、デイビット・インチ(ホモロゲーション)、アーロンマンダリア(CAVソリューションリーダー)に話を聞いた。

――GSR2の規制は、どの程度の規模なのでしょうか?

「車両カテゴリーによって異なりますが、およそ100項目の膨大な規制があります。改正も含めますが、2024年までに導入する必要がある、20~25項目が新たに設けられました」

――その狙いは?

詳細画像はこちら
乗用車だけでなく、商用車や緊急車両など、あらゆる自動車に規制が適用される。

「多くの機能が何らかの形ですでに存在しているため、ゼロから発明するわけではありません。EUは、誰もが同じアプローチを取れるように、ある程度の一貫性を持たせようとしています。それは歓迎すべきことです」

――自動車メーカーの戦略にはどう影響するのでしょうか?

「メーカー各社は、製品を改良して存続させるか、2024年7月に廃止させるか、議論することになるでしょう。時間の余裕はあまり残されていないので、戦略的に決定が下されるでしょう」

――小型車への影響は?

「小型車は、大量生産・低利益のクルマとして、間違いなく影響を受けます。機能を追加するとコストがかかるので、メーカーは価格を上げるか、販売を続ける価値があるかどうかを検討しなければなりません」

――2024年に既存のクルマへ機能を後付けするのは難しそうですね。

GSR2が浸透するにつれて、おそらく多くの製品が市場から消えていくでしょう」

――車両への組み込みは?

「メーカーは、NCAPの安全性評価に必要でなかったために技術が搭載されていない古いアーキテクチャの車両を、GSR2に適合するように改良する価値があるかどうか、検討しなければならないでしょう」

――どれくらいの車種が影響を受けるのでしょうか?

乗用車だけではありません。GSR2は、できるだけ多くの車両カテゴリーへの適用を目指しています。そのため、バス、トラック、バン、消防車など、あらゆる車両に適用されます」


トヨタGR86を"拒んだ"欧州連合の安全規制 「GSR2」とは メーカーから疑問の声も