トランプ:米国は暗黒時代に入った

 48年前、弾劾を逃れたものの逃げ場を失ったリチャード・ニクソン第37代大統領が辞任した8月8日

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 この日の早朝、「泣く子も黙るFBI(米連邦捜査局)」の捜査官約30人が前大統領の私邸を家宅捜索した。

 2度にわたって弾劾を逃れ、いまだに「第45代大統領」の肩書で政治活動を続けてきたドナルド・トランプ氏のフロリダの別邸「マー・ア・ラゴ」に、だ。

 相手は前大統領FBIが動くにあたってはメリックガーランド司法長官の最終決定を経て、ワシントンの連邦地裁判事が許可を与えなければできない。

 しかも限りなく「黒い容疑」(この場合、トランプ氏が自宅に機密文書を隠匿しているという確かな証拠があったに違いない)があるとの確証がなければ、FBIは家宅捜索はしない。

 FBIマフィアのボスの家を家宅捜査するならいざ知らず、大統領経験者の私邸を抜き打ちで家宅捜査するのは、米史上前代未聞だった。

 トランプ氏はニューヨークトランプタワーに滞在していて留守だった。

 複数の米メディアによると、トランプ氏が退任しホワイトハウスを去る際に在任中の機密文書をダンボール箱15箱に入れてマー・ア・ラゴに持ち運んだとされる。

 FBIはその疑惑を調べるために家宅捜査に踏み切ったのだ。

 退任した大統領は任期中、記録されたすべての機密文書をワシントンの国立公文書館に提出しなければならない。

 トランプ氏はこの規則を無視し、米議会乱入事件の真相を究明する下院特別委員会の提出要求にも応じていない。

「ガーランドよ、首を洗って待っていろ」

 ニューヨークに滞在中のトランプ氏はこのFBI の「奇襲」に慌てふためいた。ただちにSNSにステートメントを投稿した。

一、わが国は今や暗黒時代に入った。フロリダ州パームビーチにある私の美しい家、マー・ア・ラゴがFBIの大勢の捜査官に奇襲され、包囲され、占拠されてしまった。

二、これまでに米国大統領(だった人間)にこんなことが起こったことはない。捜査官たちは私の金庫までこじ開けた。

三、今ここで起こっていることとウォーターゲート民主党本部侵入事件とどこが違うのか。民主党は第45代大統領の私邸に(盗みの目的で)住居侵入したのだ。

四、私はこれまで関連政府機関に協力してきた。(それにもかかわらず行われた)抜き打ち家宅捜索は不要であり、不適切だ。

五、2024年大統領選に私に出馬してほしくないと思っている民主党リベラル派による攻撃だ。私は偉大な米国民のために戦い続ける!

https://www.nationalreview.com/news/trump-says-fbi-raiding-mar-a-lago/

 トランプ氏の長男、ドナルド・トランプジュニア氏はこうコメントした。

「司法省は暴走した。(この家宅捜索で)米国を引き裂いてしまった。ジョー・バイデン政権は制御不能状態になっている。司法省は政敵をあからさまに標的にして国家を分裂させてしまった」

「これはまさに第三世界のバナナ・リパブリック(経済・政情不安定で外資に操られる中南米の小国)で起こっているのと同じだ」

 驚きと憤りは米議会の共和党にも広がっている。ケビン・マッカーシー共和党下院院内総務はこう毒づいた。

「司法省は政治を武器化(Weaponized politicization)した。許しがたい」

共和党が下院を奪還した暁には直ちに、司法省を監視・精査する。ありとあらゆる手段を講じる」

ガーランドは首を洗って待っているがいい」

https://www.washingtontimes.com/news/2022/aug/8/kevin-mccarthy-vows-investigate-merrick-garland-ov/

機密文書隠匿罪は3年以内の禁固刑

 今のところ司法省は一切のコメントを避けている。問題は2つある。

 一つはトランプ氏がホワイトハウスから機密文書を運び出し私邸に隠匿していたことに対する犯罪に対する訴追だ。

 これは米連邦法典(18 U.S. Code 2071)で罰される。

 同法は、次のように罪状、罰則を記している。

一、故意かつ違法に、記録、議事録、地図、本、紙、文書、またはその他の提出されたものを隠蔽、削除、切断、抹消、破壊、またはそうしようとする合衆国のいずれかの裁判所の書記官もしくは公務員、または合衆国の司法官もしくは公務員に寄託された者は、この称号に基づいて罰金を科されるか、3年以下の禁固刑、またはその両方に処されるものとする。

二、そのような記録、議事録、地図、本、文書、紙、またはその他のものを保管している者が、故意かつ違法に、それらを隠蔽、削除、切断、抹消、改竄、または破壊した場合、このタイトルの下で罰金を科されるか、3年以内、投獄される、またはその両方。また職を失い、合衆国の下ではいかなる職に就く資格も剥奪される。

https://www.law.cornell.edu/uscode/text/18/2071

 トランプ氏の場合は、機密文書を隠蔽してきたわけだから「3年以内の禁固刑プラス罰金」が科されることになる。

 この場合、「大統領特権」をタテに免除されるのか、どうか。大統領を退任した民間人に「大統領特権」が適用されるか否か、については憲法学者の間で意見が分かれている。

 もう一つは、2020年大統領選結果を覆そうとした選挙法違反だ。

 訴追の動きは司法省とジョージア州とで並行して進んでいる。

 バラク・オバマ政権下で司法長官を務めたエリック・ホルダー氏はこう予想している。

「(没収した機密文書で)トランプ氏がどの程度指示していたかを立証するメモが出てくれば、司法省は同氏を訴追する」

「しかし、中間選挙前に(この事案で)司法省がトランプ氏や関係者を訴追するとは思えない」

「選挙に影響を及ぼすのは避けるべきだ。だからこの案件でのトランプ訴追は2023年になるだろう」

「司法省より先にトランプ氏を訴追する構えを見せているのは、ジョージア州フルトン郡のブラッド・ラフェンスパーガー地方検事だ」

トランプ氏が同州の司法長官に電話で票の操作を命じていたことがすでに判明しているからだ」

https://www.cnbc.com/2022/08/04/trump-and-white-house-officials-likely-to-be-criminally-charged-in-election-probe.html

 さらに司法省は、機密文書に隠されているトランプ氏の米議会乱入事件への介在(教唆・指示・暴徒化)に関する証拠にも強い関心を示している。

 確たる証拠が出てくれば、これまた別件捜査となる。

 最後に、司法省はなぜこの段階でトランプ氏の私邸に家宅捜索を仕掛けたのか、だ。

 保守系メディアNewsnationnow.com」のキャスター、ダン・エイブラムズ氏は、次のようにコメントしている。

「中間選挙まで80日を切ってはできなくなるとの判断があったからだろう」

「本来なら隠匿している機密文書が第三国に流出する顕著な兆候でもない限り、抜き打ち家宅捜索などはやらないものだ」

https://www.newsnationnow.com/video/fbi-search-potentially-about-more-than-documents-dan-abrams-live/7897788/

 7月の世論調査では、トランプ氏は米議会乱入事件に関与したとして有罪だ、と答えた米国民が過半数を占めている。

 民主党支持者の92%は有罪としている。共和党で有罪と答えたのは5人に1人。中間選挙が迫るなかで民主党共和党の「政治の武器化」は激しさを増してきた。

 共和党はどこまでトランプ氏を守れるか。

「孤城落日」のトランプ氏はどう出るか。窮鼠、猫を噛むか。

https://www.pbs.org/newshour/politics/poll-trump-should-be-charged-for-jan-6-about-half-of-americans-say

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FBIが家宅捜査に入ったトランプ氏の私邸「マー・ア・ラゴ」(2012年9月撮影、写真:ロイター/アフロ)