韓国では、演技をするアイドルを“演技ドル”と呼ぶ。レジェンドガールズグループ・少女時代のセンター・ユナもその1人だ。だが、演技歴は15年になり、ここ数年は出演作を重ねるごとに評価を上げ、最近は“演技ドルの少女時代のユナ”よりも“実力派女優のイム・ユナ”と呼ぶ方がしっくりくるようになった。現在出演中のドラマ「ビッグマウス」でも、夫の濡れ衣をはらすために孤軍奮闘する芯の強い妻の演技で、さらに称賛が集まっている。(以下、ネタバレがあります)

【写真】看護師役に初挑戦!患者に寄り添うスクラブ白衣姿のユナ

■時に無謀な賭けにも出る、行動力抜群の気丈な妻役に挑戦

本作は、キャリアを一発逆転させようと引き受けた事件に巻き込まれ、濡れ衣を着せられた勝率10%以下の三流弁護士が、生き残るため、そして家族を守るために、稀代の天才詐欺師ビッグマウス”になりすまして、事件の裏に隠された上流社会の巨大な陰謀を暴いていくクライムミステリー。主人公・パク・チャンホを演じるイ・ジョンソクの除隊後初ドラマとしても注目の作品だ。

韓国のMBC7月29日に放送がスタートし、同日よりディズニープラスの「スター」ブランドでも独占配信が開始された。

ユナの役どころは、チャンホの妻・ミホ。彼とは高校の同級生で、結婚して3年だ。看護師として働いていたが、ある日突然、夫が全く身に覚えのない容疑で逮捕され、稀代の詐欺師ビッグマウス”に仕立てられてしまったことで、彼女の人生も一変する。

夫の濡れ衣を晴らすには、彼が扱っていた殺人事件のカギとなる、被害者の医師が書いた論文が必要だと考えたミホ。消えてしまったその論文について探るため、その医師が勤めていた病院に転職。論文についてきき回るが、かん口令を敷かれているのか誰もが「論文など無い」とシラを切る。これではラチがあかないと判断した彼女は、大勢の医師や看護師が集まるセミナーで危険を顧みず「殺された教授の論文は私が持っている」と嘘をついて賭けに出て、市長と渡り合う。

ミホはこのように無謀なところもあるが、行動力も度胸もある女性だ。そして気も強い。転職先の病院でいやがらせをうけても、動じないどころか証拠写真まで撮っておいて反撃する強さ。そして、警察で参考人聴取を受けたときにも、取調室で2時間待たされてもいっさい姿勢を崩さず、一筋縄ではいかない強さを見せた。そして、「夫はビッグマウスではない」と言う彼女は、根拠を問われると、「私の夫だから。世界で一番彼のことを知ってるから」と、意思の強さを感じさせるまっすぐな目で応えるのだった。

■“ミホが1人のときに見せる弱さ”も繊細に表現

その一方、帰りのバス停で1人になったとき、チャンホとの関係が友達から恋人に変わった日に「俺と付き合ったら一生泣くことはない」と抱きしめられたことを思い出して涙する。泣きたくないのに感情があふれ返って止まらない涙と必死で闘う姿が、どれだけチャンホを恋しく思っているのか、また、周りにどれだけ虚勢を張って生きているのかが伝わってきて、見ているこちらの涙も誘う。

また、収監中のチャンホとやっと面会できたときも、「きっともう監獄から出られない」と弱気になり、離婚を切り出すチャンホに「あなたが私なら、えん罪刑務所に入った私を見捨てるの?しないでしょ?離婚?濡れ衣を晴らして釈放されたら応じるわ」と、ずっと味方でいることを示した。

そして「俺は(ここで)死ぬかもしれない」と言う彼に「そしたら私も死ぬ。あの世で一緒に暮らそう」と答えてチャンホを号泣させた。子供のように泣きじゃくる夫を「イケメンが台無しだ」と、包みこむように抱きしめて静かに泣くミホ。彼女も夫と同じぐらい、それ以上に泣きたかったはず。だが、それをしたら夫がさらにつらくなる。彼女の夫への想いが感じられる嗚咽だった。

「ミホを動かす原動力は家族愛」だと言うユナ。「すべての喜怒哀楽の瞬間瞬間を共にしてきた時間。そして一番近くでチャンホを見てきた人間として積み上げた信頼。そういった感情が苦しい状況を耐える力となって、彼女を動かんです」とインタビューで語っていた。

実は、この作品の監督が一番悩んだキャスティングは、ミホ役だったという。「ミホはしっかりしてるが、誰かにとっては天使みたいだし、その上難しい状況を乗り越える突破力も持ち合わせた人物。素敵で善良なキャラクターだが、視聴者を説得しなければならない、難しい役」で、ユナが演じてくれたらいいな、と考えていたんだそう。すると、ジョンソクも同じことを思っていたという。それでオファーし、ユナから出演するという返事を貰ったときが「一番忘れられない瞬間」だと語っていた。

■次々とタイプの違う役に挑戦して新たな顔を見せる

ユナは、2007年に少女時代のメンバーとしてデビューして、ほぼ同時期から演技活動も始めた。彼女の女優としての知名度を上げたのは、2008年の「君は僕の運命」。この月曜日から金曜日の毎朝ドラマで、ユナは主人公のセビョクを演じた。母に捨てられ施設育ち、バイトで失明、その後、角膜手術で再び視力を取り戻し、様々な困難や障害、妨害、イジメなどに負けずに明るく生きていく姿で、最高視聴率43.6%という驚異的な大人気ドラマとなった。

その後、チャン・グンソクと共演が話題となった「ラブレイン」(2012年)や中国の時代劇「三国志~趙雲伝~」(2015年)など、いくつものドラマ出演で経験を積んでいくが、転機となったのは2016年の「K2」。韓国でのドラマ出演が久々ということもあり新しい姿を見せたいと思った彼女が選んだのは、訳アリな生い立ちで世間から隔離され監視されて育ったために世間を信じられない繊細な娘の役だった。それまで多く演じてきた明るい役とはガラッと違う難役だったが、見事に役になり切り、“明るくて元気な少女時代のユナ”のイメージを大きく裏切ることに成功した。と同時に、彼女の演技力への評価も高まった。

その後、映画にも進出し「コンフィデンシャル/共助」や「EXIT」などのヒット作でコメディーやアクション演技もこなせることを証明し、ジャンルを問わずこなせる「信頼できる女優」になりつつある。ユナはどんな役のときも、感情の流れを観客に伝えるのがとても上手く、見ているうちに彼女の役に感情移入してしまうことがよくある。テクニックに頼らない素直な演技がリアリティを持たせて没入感を高めるのだ。

また、彼女は性格の良さでも知られている。「よく気がつく」「誰よりも熱心」「気さく」「サバサバしてる」と、ユナを表わす言葉はどれもがポジティブだ。歌手のイ・ヒョリが民宿を開くリアリティ番組「ヒョリの民宿2」にお手伝いに来た際は、炊事、掃除、洗濯、すべて積極的に鮮やかにこなし、「スーパーバイト」と呼ばれていた。トイレが詰まれば、汚れるのも気にせず手を突っ込んで直し、IHの焦げ付きもスグに方法を調べて磨き取る。宿泊客は一般人なのだが、彼らに対しても飾らず気さくに接して、客もユナが芸能人だということを忘れてしまうほど打ち解けていた。

■初めての看護師役。似合うと言われたら嬉しい

様々な世界でいろんな顔を見せるユナが、この「ビッグマウス」で見せる新たな姿は看護師。意外にも初めてだそう。「看護師役が似合う、と言っていただけたら嬉しい」と記者会見でコメント。

そして、“ノワール”ジャンルも初めてなので、新しい姿を見せられると思い、出演を決めたんだとか。また「ミホのとても賢くて芯が強くて、自分から行動するところに魅力を感じて、やってみたいと思いました。ミホの外見はソフトだけど内面は強いという姿が素敵だと思うし、自分もそうなりたいと思っています」と会見で語っていた。

ドラマは、刑務所の中チャンホと外の世界のミホ、それぞれの場所で闘いながら進むので、2人が一緒に居る姿は少なく、回想シーンが中心となる。だが、「たとえ距離は離れていてもチャンホとミホは完璧なチームワークで互いに助け合います。最後に事件を解決するときにはスリルもありそうです。このような感情が視聴者の方々にも伝われば嬉しいですね」とのこと。

チャンホをハメたのは誰なのか、またミホはどのように夫を助けていくのかー「驚くようなどんでん返しが次々に起こる」(監督談)展開に、韓国でも同時間帯視聴率1位独走中で、自己最高視聴率も毎回更新中。ドラマの評価と共に俳優陣の評価も高まっている。

新たな魅力を見せているユナも、この作品でまた大きく飛躍するはずだ。既に9月には映画「共助2」の公開、秋からは2PMのイ・ジュノとのラブコメドラマのクランクインが決まっている。“女優”イム・ユナの今後の活躍から目が離せない。

夫の濡れ衣を晴らすために孤軍奮闘するコ・ミホ役のイム・ユナ/(C)2022 Disney and related entities