職場内の優位性を利用した「自らの権力や立場を利用した嫌がらせ」であるパワーハラスメント、いわゆるパワハラ。いまだにニュースになるなど、問題は根深いものがあります。その実態について、みていきましょう。

日野自動車「パワハラ問題」…従業員の声に衝撃

先日、ニュースをにぎわせた日野自動車の排ガス・燃費データ不正を巡るパワハラ問題。外部有識者らによる特別調査委員会は、従業員を対象にアンケートを実施したところ、前時代的なパワハラ体質が明るみになったのです。

●私は、中途入社であるが、前職に比べると個人的意見が言いづらい、喧嘩口調といった社風があると痛感した。これでは、言いたいことも発言できず上司の言いなりになるしかないと思う。

●先輩が新人にする教育は高圧的で、脅迫することで、『上には逆らえない』を植え付けさせるものであったと感じる。このような教育もあってか日野自動車は上の意見は絶対で、神様の様に崇め、上(神様)が決め

●ほとんどの上司が相談に対して言う最初の一言が「本当か?」。上司に相談に行くのは自身で結構悩んだ後なので、この言葉を聞くたびに相談する意欲を無くす。この精神状態が行くところまで行ってしまうと「上司に黙って進めてしまえ」と考えるのだろうと思う。

出所:特別調査委員会調査報告書(全文)従業員アンケートより抜粋

アンケート回答の中で散見されたというのが「お立ち台」というワード。問題を起こした担当部署や担当者が、ほかが多くいる会議の場で問題の原因や対応策について説明を求められる状況を指す言葉と説明していています。

我々は『お立ち台』と呼んでいたが、問題が発覚して日程内に間に合わなければ、開発状況を管理する部署の前で状況を説明させられ担当者レベルで責任を取らされることになっていた。

出所:同社特別調査委員会調査報告書(全文)より抜粋

厚生労働省では職場におけるパワーハラスメントパワハラ)を、以下のように定義し、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は含めないとしています。

職場のパワーハラスメントとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものをいいます。

出所:厚生労働省ホームページより

3人に1人がハラスメント経験アリ…その多くがパワハラ

さらに日本労働組合総連合会『仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021』で、職場におけるパワハラの実態をみていきましょう。

職場でハラスメントを受けたことがある人の割合を見ると32.4%。意外に少ないと思われるかもしれませんが、27.6%が「パワハラ」を受けたと回答。ハラスメント被害そのものは3人に1人ではあるものの、そのほとんどがパワハラという驚きの事実があります。

またパワハラ被害を男女別・年代別に見ていくと、40代男性が40.0%と突出して多いのがひとつの特徴です。40代男性は、上司・先輩にとってすぐ下の同性というケースが多く、攻撃の対象になりやすい、ということがいえそうです。

【男女・年齢別「パワハラ被害」】

20代:22.4%/18.4%

30代:26.4%/27.2%

40代:40.0%/28.8%

50代:26.4%/31.2%

出所:日本労働組合総連合会『仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2021』

※数値左より、男性、女性

受けたパワハラの内容を細かく見ていくと、「脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言などの精神的な攻撃」が最も多く43.8%。「隔離・仲間外し・無視などの人間関係からの切り離し」28.6%、「私的なことに過度に立ち入ることなどの個の侵害」23.2%、「業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害などの過大な要求」22.5%と続きます。

いま多くの職場でハラスメントの相談先を用意していることが多くなりましたが、実際に相談したのは56.8%と半数強。多くは「相談しても無駄だと思ったから」66.4%と声さえあげずにいます。結果、「仕事のやる気がなくなった」56.8%、「心身に不調をきたした」24.1%、「仕事をやめた・変えた」22.5%と、プラスになることなどひとつもありません。

本人にも職場にも、大きな損失となる「パワハラ」。改正労働施策総合推進法、通称パワハラ防止法は、中小企業においても2022年4月から義務化され、具体的な防止策が求められています。時代錯誤な組織体質の撲滅となるか……注目されています。

(※写真はイメージです/PIXTA)