藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]

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安倍晋三前首相殺害事件の犯人が「統一教会に家族を破壊された」ことを動機にしていたことから、急速に再注目されている「旧・統一教会と政治の問題」。80年代から霊感商法合同結婚式、多額献金といった問題が批判の対象となってきたが、今回、久しぶりに大きな注目を集めることとなった。

旧・統一教会が想像以上に日本の政界に深く食い込んでいたというニュースは、スキャンダルとしてワイドショーや情報番組でも連日報じられたことで、それは国民的恐怖ともなった。その結果、「政治と統一教会」だけでなく、アンタッチャブルとされてきた政治と宗教の問題をも国民的関心となっていったことは、不謹慎かもしれないが、いわば「怪我の功名」なのかもしれない。

一方で、「統一教会問題」について実業家「ひろゆき」こと西村博之氏が、なぜか積極的に追求し、統一教会と関係のあった政治家などを名指しで厳しく批判・糾弾していることに筆者は強い違和感を覚えた。

もちろん、安倍晋三前首相殺害事件は言うまでもなく、統一教会が起因となって起きている数々の事件や社会問題などは、厳しく追及したり、危機感をもって考える必要は当然ある。しかしながら、それをひろゆき氏が公然と行うことに違和感と疑問を感じるのだ。

ひろゆき氏といえば、巨大匿名掲示板2ちゃんねる」の創設者として知られ、その運営をめぐって数々の訴訟を起こされてきた人物だ。その損害総額は天文学的金額にものぼることは有名だ。一方で、裁判に応じず、出廷もせず、軒並み敗訴しているが、そこで支払いを命じられた賠償金4億円以上を踏み倒していることでも知られる。巧妙な資産隠しをしているとも言われ、強制執行や差押には至っておらず、結果、時効を迎えている判決もあるなど、被害者は泣き寝入り状態であるとも聞く。

しかしながらひろゆき氏には現在でも、ウン千万から億単位の年収があると言われ、事実であれば賠償金を支払うだけの資産は持っているはずだ。自信のネット配信でも「普通の人よりも遥かに多くの収入がある」ことを面白おかしく吹聴しているが、それらが差し押さえられたという話も聞かない。欺くことに長けた巧妙で狡猾な策士のだろう。

ひろゆき氏は、自身のネット配信でも、賠償金の踏み倒し問題に対して持論を展開することも多いが、簡単にまとめれば、概ね以下のようなものである。

*悪い(間違っている)のは法律であって、自分ではない。
*敗訴して賠償金支払い判決が出ても、「賠償金を払わなければならない」という法律はない。
*悪法にも従わなければならない以上、自分が敗訴したこと自体は正しい(受け入れる)。
*同様に、自分が賠償金支払いをしないことも法律的に認められた行為である(受け入れろ)。
*法律が悪いと思っているので、モラル的にも法令遵守的にも自分が悪いとは感じない。

細かい法律論や解釈論については、筆者は専門家ではないので差し控えるが、ようは「支払わなくてもイイんなら、悪いと思ってないから払わない。本当に違法なことなら、逮捕でもすればイイけど、それは無理でしょ?」というスタンスである。

こういった主張を聞くと、確かに「まぁ、理論的にはそうだけど、人間として、モラルとしてはどうよ?」と感じるわけだが、それに対して、ひろゆき氏であれば「それって、あなたの感想ですよね? 僕は法律に従ってるだけなんですけど」と煙に巻くだろう。そんな彼が、旧・統一教会の問題を厳しく指摘し、批判を展開しているわけだ。違和感を感じない方がどうかしている。

ところで、冷静に考えてみれば、統一教会だけでなく、新興宗教などが社会問題となるとき、共通しているのは、「信仰の自由」隠れ蓑にしつつ、ぎりぎりのグレーゾーンで際どいところを攻める巧妙な脱法テクニックである。法の抜け穴を見つけだし、法の盲点を突く脱法テクによって、法律的にグレーであっても、100%黒でない限り「何が悪いんですか? 悪く感じるのは、あなたの感想ですよね?」と言える状態が作られる。このロジックが問題の事件化を困難にしているのだろう。

[参考]ひろゆき氏「まともな宗教とカルト宗教で扱い変えるべき」の危険な無知

現在がどうであるかはさておき、少なくともかつては旧・統一教会とされる団体が、法律の抜け穴を突いた活動をしていたり、(仮に違法であっても)バレないような手法があったのだろうから、(行政や当局による過失はあるにせよ)今日まで宗教法人として存続してきたはずである。たんなる強盗団であれば、さすがに摘発をされ、存続はしていまい。実際、かつては政治家と癒着していた暴力団や右翼団体すらも、近年の反社取り締まり強化によって急激に弱体化アングラ化が進んでいる。

筆者が感じた違和感というのは、ひろゆき氏のロジックと脱法テクニックも、結局は旧・統一教会のような団体とほとんど同じではないのか、という点だ。もちろん、ひろゆき氏は霊感商法をしているわけではないし、高額な壺を売っているわけでもない。しかし、手法や考え方はほぼ同じではないのか。

違法でなければ何をしてもよい、ロジカルに説明できれば間違えていない、論破できれば相手が悪い・・・というスタンスは脱法反社組織のそれとまったく同じだ。被害者が泣き寝入りしがちであるという点も似ている。そして何より、ひろゆき氏は現在、完全に教祖化している。(2021年LINEリサーチ調査によれば、「いちばん信頼している/参考にしているインフルエンサー」として、ひろゆき氏は2位にランキング。ちなみに1位がヒカキンで、3位がダウンタウン松本人志

その意味では、ひろゆき氏が旧・統一教会と政治の問題を執拗な批判を展開するのは、いわば「同族嫌悪」なのではないか、とすら勘繰ってしまう。とは言え、ひろゆき氏に統一教会を批判し、関係する政治家を糾弾する資格はあるのか。

そもそも、脱法手法、脱法理論を芸風としたタレントであるひろゆき氏を公共の電波を利用したテレビが起用して良いのか、ということも考えねばならない大きな問題だ。テレビで喫煙シーンすら憚られる今日、4億円を踏み倒した脱法タレントを公然と放送することが許されるのか。

多くの芸人やタレントコンプライアンス(法令遵守)によって縛られ、厳しい制約の中での表現活動を強いられているにもかかわらず、存在そのものがコンプライアンスにひっかかるとしか思えないひろゆき氏だけが、脱法芸が許されるというテレビメディアの現状には強い疑問を持たざるを得ない。

2020年4月に執行された改正民事執行法により、裁判所から賠償金の支払い命令をうけた人への差押や強制執行を容易にするための制度が拡充された。ひとことで言えば、現在は、これまでひろゆき氏がやっていたような「裁判所から呼び出しを受けても出頭せず敗訴しても、債務者財産の特定ができないので、結局、強制執行ができない」という踏み倒しが難しくなるだ。しかも、財産開示の手続違反は「6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金」という刑事罰の対象になっているので、資産隠しも犯罪になった。

つまり、「賠償金を払わなければならないという法律はない」という持論が現在は完全に崩れていることになる。ひろゆき氏も、テレビメディアも、こんな重大な法改正について知らぬはずはないだろう。もし懲役の判決が下されれば、いわゆる犯罪者になるわけで、法改正がされた今日、ひろゆき氏はかなり際どいキャラクターなのだ。

ひろゆき氏の「賠償金は支払わなくても問題ない理論」はすでに破綻していることは明白である。そして、それを知らぬメディアはあるまい。分かった上で起用しているのだろうから、ひろゆき氏以上に、起用するメディアの方が悪質だ。

今、芸能人は不倫をしたり、セクハラまがいのギャグでも、タレント生命が失われるほど、厳しいコンプライアンスにとらわれて活動している。そんな中、自由に好き勝手に発言できる立場がなぜか容認されている(あるいはそのポジションを作り上げた)ひろゆき氏はテレビにとっては貴重な存在なのだろう。

しかし、ひろゆき氏が踏み倒している4億円以上ともいわれる賠償金の問題の大きさは、芸能人の不倫や舌禍騒動の比ではない。ひろゆき氏を積極的に起用する現在のテレビの在り方は、社会の公器としての本来のテレビに求められていることに反してはいないのか。BPOとまでは言いたくないが、「テレビの矜持」はいったいどこにあるのか、ということをテレビ関係者には改めて確認してほしいものだ。