DV(ドメスティック・バイオレンス)というと、どのような行為を連想しますか。殴ったり蹴ったりする身体的暴力の他に、最近は、言葉などで精神的に相手を追い詰める「モラハラ(モラルハラスメント)」もDVの一つだと知られてきました。

そんな中、「性的DV」の深刻さも語られ始めています。具体例としては、性行為を強要するほか、避妊に協力しない、裸の写真や動画を撮影する、物を性器に挿入するなど多岐にわたります。

夫婦間での出来事のため、性暴力と認識しづらく、いやいや応じているケースも。弁護士ドットコムにも「性的DV」に関する相談が複数寄せられており、その一部を紹介します。

●寝込みを襲ってくる夫

数年前から夫との性行為が嫌で拒否してきたものの、断ると激昂される——。ある女性は夫の行為が「性的DV」にならないのか、疑問に感じています。

「最初の頃は拒否をすると逆ギレ、最終的には私の寝込みを襲ってきたり、水仕事をしていて手がふさがっているのをいい事に無理矢理と言うこともありました」

女性はこうした行為が「性的DVにあたる」と伝えたものの、夫は「性的DVにはならない。だったら立証しろ」と反論します。

「去年あたりからピルを飲むようになりました。それを伝えたら『避妊せず最後まで行為をし放題である』旨を言われたのを今でもハッキリ覚えていて、気持ち悪く思いました」

●避妊に協力してもらえない

「夫のことが怖いと思うようになった」と告白する女性もいます。女性は処方されている睡眠薬を飲んで寝ようとしたところ、夫から望まない性行為をされました。

睡眠薬を飲んでうとうとしていたところ、夫が一方的に性交渉してきました。私は完全に眠っていたわけではないのですが、お薬の影響であまり意識がはっきりとせず、また身体も思うように動かない状態でした」

夫は「コンドームを着けていると、最後まで性行為ができないから」と避妊に協力的ではないそうだ。

「元々AVのようなことを強要してくることもあってか、その一件以来、何だか夫が怖くなってしまい、また体調を崩してしまうことが増えました」

●無断で撮影、やめてもらえない

裸の写真や映像の撮影を強制するのも「性的DV」の一つです。ある女性は「夫に触られるのが怖い」と訴えています。

「昔から夫は性行為中に無断で撮影をし、お尻を叩いてきます。『やめて欲しい』といってもやめてもらえません」。女性は夫に「DVにあたるのではないか」と言いましたが、「夫婦間だから問題ない」と返された。

この女性の夫も、避妊に応じてくれないという。そのため、望まないタイミングで妊娠してしまった。

「夫は『俺は子どもが欲しかったから嬉しい』と喜んでいます。『私はまだ妊娠したくないと伝えていたはずだ』と言っても、『もう妊娠してしまったから仕方がない』の一点張りです」

●「性的DV」証拠となるものは?

こうした性的DVを理由に、離婚することはできるのでしょうか。

男女問題に詳しい長瀬恵利子弁護士は「離婚事由や慰謝料の原因として、相談者が経験したような性的DVを主張することもできます。その場合、性的DVを主張する側は、性行為を嫌がっていたこと、避妊を希望していたことを立証していく必要があります」と話します。

裁判では客観的な証拠が重要となる。長瀬弁護士によると、性行為を拒否している旨が記載されたメッセージ・メール、会話の録音、性的DVが原因で身体的・精神的不調を医師へ相談していた場合は、その旨が記載されたカルテ、診断書などのほか、日々の状況が記された日記も有効な場合があるという。

「性行為の強要が離婚原因の間接事実として認定された裁判例も存在します。性的DVに悩まれている場合は、早めに弁護士に相談し、対策を検討されることをお勧めします」(長瀬弁護士)

【取材協力弁護士】
長瀬 恵利子(ながせ・えりこ)弁護士
東京弁護士会所属。得意分野は、離婚、遺言・相続、労働問題、その他一般民事。
事務所名:弁護士法人遠藤綜合法律事務所
事務所URL:https://www.endo-law.jp/

「避妊してもらえない」「無断で撮影する夫が怖い」 性的DVに悩む妻たち