日本は世界に誇る長寿国ですが、長生きできる分、老後の不安も大きいといえるかもしれません。もし介護が必要になったら。もし老人ホームに入居することになったら。老後の「もしも」について見ていきましょう。

平均寿命…女性87.57歳、男性81.47歳、健康寿命…女性は75.38歳、男性72.68歳

厚生労働省令和3年簡易生命表』によると、2021年の日本人の平均寿命は女性が87.57歳、男性が81.47歳。新型コロナウイルス感染症の影響で、2011年の東日本大震災の時以来、平均寿命は短くなりました。

とはいえ、日本が世界有数の長寿国であることには変わりありません。

一方、平均寿命のほかに健康寿命という考え方があります。平均寿命とは「0歳における平均余命」のことであるのに対し、健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のこと。日本では3年ごとに発表されていて、最新は2019年値で、女性は75.38歳、男性は72.68歳です。

平均寿命と健康寿命の差は、単純計算ですが、男性は8.79年、女性にいたっては12.19年。この間、何かしら健康の支障を抱えながら生活をしていくことになります。

【日本の「平均寿命と健康寿命」の推移】

2001年:「男性」78.07歳/69.40歳、「女性」84.93歳/72.65歳

2004年:「男性」78.64歳/69.47歳、「女性」85.59歳/72.69歳

2007年:「男性」79.19歳/70.33歳、「女性」85.99歳/72.36歳

2010年:「男性」79.55歳/70.42歳、「女性」86.30歳/73.62歳

2013年:「男性」80.21歳/71.19歳、「女性」86.61歳/74.21歳

2016年:「男性」80.98歳/72.14歳、「女性」87.41歳/74.79歳

2019年:「男性」81.41歳/72.68歳、「女性」87.45歳/75.38歳

出所:厚生労働省

※数値左:平均寿命、右:健康寿命

ここで心配になるのが、医療費負担の増加です。年とともに病院にかかることも多くなることでしょう。医療費が家計を圧迫し、破綻などということになったら……。

総務省『家計調査』(2021年)で高齢者のいる世帯の医療費についてみていくと、年齢があがると医療費も増える、ということはなく、実収入に対しておよそ6.3~6.4%程度の負担というのが一般的のようです。

【高齢者のいる世帯の医療費】

60歳以上の者がいる世帯(世帯主が60歳以上、無職世帯):15,592円(6.4%)

65歳以上の者がいる世帯(世帯主が65歳以上、無職世帯):15,635円(6.3%)

70歳以上の者がいる世帯(世帯主が70歳以上、無職世帯):15,494円(6.4%)

75歳以上の者がいる世帯(世帯主が75歳以上、無職世帯):15,105円(6.3%)

出所:総務省『家計調査』(2021年)

※数値は「保険医療」の支出、(かっこ)内は実収入に対する保険医療費の割合

平均値では医療費は増えないが、老人ホームへの入居を考えたらどうなる?

年を重ねても、医療費が増えるわけではない……しかし、これはあくまでも平均値であり、介護が必要となり施設に入居、というケースもあるでしょう。その場合、どれほどのお金が必要になるのでしょうか。

ひと口に老人ホームといっても、民間施設の場合、入居金に1億円など、驚くほどの金額の施設も。かかる費用はピンキリです。

一方、公的施設の場合、居宅サービスは利用できるサービス料(支給限度額)が要介護度別に定められており、限度額の範囲内でサービスを利用した場合は、1割(一定以上所得者の場合は2割~3割)の自己負担。限度額を超えてサービスを利用した場合は、超えた分が全額自己負担となります。

施設サービス自己負担の1ヵ月あたりの目安は、個室や多床室など、住環境によって変わりますが、厚生労働省によると、特別養護老人ホームで要介護5、多床室利用の場合、合計金額は10万2,200円程度、ユニット型個室を利用した場合、13万9,500円としています。これを老人ホーム入居の際の最低金額と考えておくとよいでしょう。

また老人ホームの入居期間は介護付有料老人ホームで3年3ヵ月、特別養護老人ホームでは3年8ヵ月、サービス付き高齢者向け住宅では1年6ヵ月ほどといわれています。

ホーム入居に最低月10万円と考えると、プラス400万円が最低ラインといったところでしょうか。

厚生労働省令和2年厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金受給者の平均受取額は月額5万6,358円、厚生年金受給者の平均受取額月額14万6,145円。寿命が尽きるまで安心して暮らしたいと願うのであれば、老人ホームへの入居も視野にいれたいもの。ただ年金だけが頼りというなら、多くの日本人にとって老人ホームへの入居は非現実的な世界と言わざるを得ません。

昨今、「老後のために必要な貯蓄額」などと耳にする機会が増えました。2,000万円とか、5,000万円とか、参考にする資料で金額はまちまちですが、その多くが「健康であること」が前提。介護が必要になったり、ホームに入居することになったり。そのようなことは想定外です。できれば老後は穏やかに生きていきたいもの。万が一のことも考えて資産形成を進めることが、唯一の正解だといえるでしょう。

(※写真はイメージです/PIXTA)