ドキュメンタリーやドラマが次々登場

 8月5日は、1950年代から60年代初頭にかけてハリウッドを席巻した「セックスシンボルマリリン・モンローが自殺してから60年目の命日。

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 午前3時30分、自宅のベッドで睡眠薬を大量に飲んで命を絶った。享年36歳だった。

 孤児院育ち、そこから逃げ出すために16歳で親子ほど差がある元警官と結婚。

 ハリウッドスターを目指して色仕掛けハリウッド大物たちに近づき、整形し、髪の色を変え、「あなた好みの蓮っ葉な女」を貫き通していた。

 だからこそ「今世紀最大のセクシー女優」の座を勝ち取った。

 モンローは、私生活では政界、スポーツ界の著名人たちにも近づき、結婚、離婚を繰り返した。

 当時の主要メディアは、知っていながら(?)モンローとジョン・F・ケネディ第35代大統領や弟ロバート司法長官との不倫関係については報じなかった。

 こうしたいきさつは口コミで広まり、モンローには「スキャンダラスな悪女」のイメージが定着してしまった。

(モンローの魔力に地位も名誉もかなぐり捨てたケネディ兄弟はともに暗殺された。2人が競ったモンローは自殺。そうしたことがモンロー神話をよりミステリアスなものにしてきた)

 確かに、モンローは国籍や世代を超えて男たちにある種の淫情さをもって愛された。反面、女たちには心底憎まれた。

 そのモンローが没後60年目に「復活」した。

https://crfashionbook.com/why-marilyn-monroe-is-having-a-moment-in-2022/

 ミレニアム世代には「過去の人」かもしれない。しかし、現代社会を動かしている40代、50代のインフルエンサーたちがモンローを再評価し始めたのだ。

 驚くべきは30代、40代の女性のインフルエンサーたちがモンローを着眼大局し始めたことだ。

 モンローという女性の生きざまを、当時の社会環境と現在とを比較対照し、「現在の尺度」で見つめ直し、モンローという稀有な女優の本質に迫ろうという試みだ。

 こうした女性たちがイニシアティブをとる形で、CNNネットフリックスが相次いで、モンローのドキュメンタリーやドラマを制作した。

 CNNは今年1月、ドキュメンタリー 「Reframed: Marilyn Monroe」(再評価:マリリン・モンロー)を4回シリーズで放映した。

https://www.youtube.com/watch?v=gCX8lddEYlE

 ネットフリックスは4月、「The Mystery of Marilyn Monroe: The Unheard Tapes」(マリリン・モンローのミステリー:未公開の録音テープ)を放映した。

 これは1985年にノンフィクション「Goddess:The Secret Lives of Marilyn Monroe」(女神:マリリン・モンローの隠された人生)を書いたジャーナリストのアントニーサマーズが、その後再取材して入手した情報を基に制作したドキュメンタリーだ。

https://www.netflix.com/jp/title/81216491

https://www.netflix.com/tudum/articles/the-story-behind-the-unreleased-marilyn-monroe-tapes

 ネットフリックスはさらにドラマ「Blonde」を9月28日に公開する。それに先立ち、8月3日から開催されるベネチア国際映画祭に同作品を出品する。

 これはプリンストン大学のジョイスキャロル・オーツ教授が著した同題の著書の映画化で、モンロー役をキューバ系のアナ・デ・アルマスが演じていることでも話題になっている。

https://www.youtube.com/watch?v=VnI2MyS6fgo

 一方、ファッション界でもキム・カーダシアンやドジャ・キャットといった第一線のモデルたちが、モンローが映画で着ていた際どいドレスを纏って公の場に現れた。

(一部にはモンローの名を汚すといった批判も出ている)

https://ew.com/celebrity/bob-mackie-kim-kardashian-wearing-marilyn-monroe-dress-big-mistake/

https://www.insider.com/doja-cat-grammys-dress-was-inspired-by-marilyn-monroe-2022-4

 ハリウッドから180キロ離れたリゾート地、パームスプリングスに2012年設置され、2014年に市民グループの反対(風紀を汚すとの理由)でお蔵入りしていた巨大「マリリン・モンロー」像が2021年復活した。

 映画「7年目の浮気」(1955年)で地下鉄の通風口に立ったモンローの白いスカートが捲れ上がる、あの瞬間を再現したスチール製の高さ8メートルの像だ。

 パームスプリングス市立博物館の正面広場に建てられたが、近隣の小中学校のPTAなど市民活動グループが「子供の教育に良くない」と市議会に撤去を求め、8年前に撤去させられた。

 ところが、パンデミック禍で観光客が激減したのを受けて市議会は3年間の時限付きでこの像を「復元」させた。背に腹は代えられぬ。景気回復をモンローに頼ったのだ。

https://www.reuters.com/lifestyle/marilyn-monroe-statue-returns-palm-springs-cheers-jeers-2021-06-24/

 ニューヨークでは、ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホル制作の「マリリン・モンロー」の肖像画が5月、オークションで1億9500ドル(約250億円)で落札された。

https://www.washingtonpost.com/arts-entertainment/2022/05/10/andy-warhol-marilyn-monroe-painting-auction/

エリザベス女王、渡邉恒雄氏と同年生まれ

 モンローは1926年大正15年昭和元年)生まれ。生きていれば96歳。エリザベス英女王や読売新聞渡邉恒雄・主筆と同い年だ。

 モンローが生きていれば・・・。96歳のモンローなんて世界中の男性陣は想像したくもないだろうが・・・。

 インフルエンサーたちの考えは後述するとして、数人の米国の男性陣に聞いてみた。

 70代の元会社重役B氏(白人)はこうコメントした。

「私は当時ティーンエージャーだったが、映画のポスターでモンローを見ただけでムラムラしてきたのを覚えている。性に目覚める思春期だったからね」

「その後、何本かモンローの映画を見るうちに、モンローはただセックスシンボルだけではないと感じるようになった。女の愛くるしさ、可愛さがたまらなくなってきたね」

「死後60年経ってモンロー・ブームだって? 俺たちにとっては大歓迎だ。古き良き時代を思い出させてくれるのはモンローしかないからね」

 50代のラティーノ系の中小企業経営者H氏は、こうコメントする。

「死後、いろいろな話が出たが、やはりモンローと言えば、ケネディ兄弟との関係に一番興味があったね」

「今度出たドキュメンタリーではロバートとの関係がより具体的に明らかになっているね」

(自殺する寸前、モンローはロバートと言い争っており、ロバートは深夜、ヘリでロサンゼルス空港に行き、そこからワシントンに逃げ帰ったことが未公開テープで明らかになっている)

「今だったらケネディ一家は袋叩きに遭っていたはずだ。女誑し(たらし)は民主党共和党とも同じ穴のムジナだよ」

 後期高齢男性の視点では、今もなおマリリン・モンローはどこまでも「セックスシンボル」であり、「スキャンダルの女王」の域を出ていない。

 中高年の女性、非白人のW氏はこうコメントする。

「モンローが売り出す前の写真を見たことがあるけど、髪は茶色、スタイルだって抜群とは言えなかったわ」

「モンローは男たちの好色さだけを狙って完全なセックスドールになろうと磨きをかけたのよ」

「女優として演技が素晴らしかったという記憶はないわね。演技はひどかったんじゃないの」

 お言葉を返すようだが、権威ある「アメリカン・フィルム・インスティチュート」の「50 Greatest Screen Legends」ではモンローは歴代実力派女優ランキングでは第6位である。

 エリザベステーラー、ジュディ・ガーランドマレーネ・ディートリヒより上にランクされている。

https://www.infoplease.com/culture-entertainment/film/top-50-greatest-screen-legends

 出演した作品は23本。10年間女優生活で稼いだ興行収入は2億ドルに上っている。

ノーマ・ジーン・モーテンソンからの変身

 CNNやネットフィリックスの最新ドキュメンタリーが描いたモンローは、こうした高齢者たちのイメージとは大きく異なっている。

 制作者やナレーターはみな、若い世代の女性たちばかりだ。彼女らが描くモンローはこうだ。

一、母親が慢性アルコール依存症で、入退院を繰り返す。父親は仕事もせずに家に寄りつかない。両親は親権を放棄していた。両親がいるにもかかわらず孤児院に入れられた。

二、ノーマ・ジーン・モーテンソン(モンローの本名)は不遇の子供時代から自力で立ち上がった。

三、「女であること」を武器に男たちのセクハラ(当時その概念は存在しなかったが)に耐え、逆にそれを利用して「唯一の夢」(ハリウッドスターになること)を実現するために必死に生き抜いてきた。

四、スキャンダルを肥やしにハリウッドの実力者たちを手玉に取った。有名になるためには大リーグの超有名な選手(ヤンキースジョー・ディマジオ)から大統領や司法長官まで篭絡した。

 CNNのドキュメンターを見た「バニティ・フェア」のハリウッド担当記者、ジュリー・ミラー氏は1月17日号に「Marilyn Monroe was ‘never a victim’: Seven ways she masterminded her career」(マリリン・モンローが犠牲者だったことはなかった。キャリア向上のための7つの方法)というタイトルで同作品のモンロー論を集約している。

一、モンローは自分を売り込むためのイメージを巧みに作り上げた。

マリリン・モンローという名前自体、男たちを掻き立てるセックスドールであることをアピールするために自分でつけた。髪をブロンドに、整形したのもそのためだった)

二、ハリウッドという男尊女卑閉鎖社会のシステムを利用した。

(スタジオの社長や関係者が絶対的な存在であることを十分認識したうえで、セクハラをあえて受け入れ、それを逆手にとってスターダムにのし上がろうとした)

三、セクハラで堪えがたい状況になると、著名なジャーナリストを使って雑誌に「女を食い物にする男たちの存在」(Wolves I have known)を暴露させた。

 ただし実名は最後まで明かさず、脅しに使った。

http://www.marilynrememberedfanclub.com/article-marilyn-monroe-wolves-i-have-known/

四、自らを売り込むことには長けていた。

(初めてニューヨークに仕事に行った時、夏なのにニューヨークは寒いと思い込んで冬服で行ったが、それを来て写真に収まるといった機転を利かした)

五、自分のスキャンダルが暴露されるや、それを逆手にとってしおらしく自らの不遇だった半生を告白し、世論を自分の方に引き付けた。

(例えば、無名な頃、50ドルで全裸写真を撮影、それが発覚した際にはメディアに向かって語りかけた)

(「私には借金がありました 」「ずっと自分で生計を立てなきゃならなかったんです。生まれてこのかた、誰にも援助してもらえませんでした」)

(「家族もいなかったですし、行くあてもありませんでした」「そもそも、私は何も恥じていません。だって何も悪いことはしていないもの」。それで世論は収まった)

ジャーナリストを使い、パパラッチも誘導

 もう一つ、CNN のドキュメンタリーに出演したアカデミー賞受賞女優、ミラ・ソルヴィー(54)はこう語っていた。

「モンローはインスタグラムが登場するずっと以前に、自分がどういう人間なのかを視覚的に演出したんです。史上最大のインフルエンサーですね」

 行く先々で群がってくる新聞記者たちに話しかけ、短く、一言二言話す。パパラッチを誘導してこれから会う著名人との密会をほのめかす。

(ディマジオとの新婚旅行で日本と韓国を訪れた時には、積極的にパパラッチに写真を撮らせ、新聞の一面に掲載させた。このメディア戦略は映画スタジオとの契約交渉を有利にさせた)

 最大の危機に直面すると信用しているジャーナリストに単独インタビューさせて世論に訴える。

 今から60年前に、SNSなどなかった時代に「インスタグラム」的なコミュニケーションをやっていたのである。

 マリリン・モンローの「もう一つの顔」が女性たちの手で浮き彫りになっていく。

 それまでに60年の歳月を経た、ということか。ドキュメンタリーの中でモンローは言う。

「私って、肝心な時にはお利巧さんになれるの。でも、そんな私って男の人たちは嫌いでしょうね」(I can be smart when it’s important, but men don’t like it.)

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