人間は誰しも生まれながらにして、ヒーローとなれる資質を持っている。自身の強みを発見して、それを伸ばしていくことで、あなたもヒーローになれる。そう説くのは、米海軍アメリカで最も尊敬される、米海軍特殊部隊SEALs司令官にして元海軍大将ウィリアム・H・マクレイヴン氏(WILLIAM H. McRAVEN

 退役後はテキサス大学システムの学長を務め、現在はビジネスや教育分野で講演を行っているマクレイヴン氏。元四つ星階級章大将の経歴だけでなくその人柄でも「ヒーロー(英雄)」と呼ばれる。仕事や家庭、どんな組織においても活用することができ、あなた自身の成長につながる「ヒーローコード」とはいったい何なのか

 勇気、謙虚さ、誠実さ、思いやりなどさまざまな分野でのヒーローコードを紹介しているマクレイヴン氏の著書『THE HERO CODE ヒーローコード』より「許容」についての章を紹介する(以下、同書より抜粋)。

軍人生活で直面した最も胸がえぐられる悲劇

 私は、広い部屋の床にあぐらをかいて座り、ガルデス村から来た100人ほどのアフガニスタン人に囲まれていた。建物の外には、さらに数百人の人々が集まり、事の成り行きを見守っていた。私の向かいには、伝統的なサルワール・カミーズと呼ばれる白い綿の長めの上着とダボダボのズボンを着た老人がいた。老人の隣には20歳にも満たない彼の長男が全身黒ずくめの服装で座っていた。老人の風化した木目のような褐色の顔は悲しみに引きつり、隣の長男の顔には怒りが浮かんでいた。彼が怒るのはもっともだった

 その数週間前、アフガニスタンのガルデスで標的のタリバンを捕らえる我々の作戦が大失敗に終わった。私の部隊の兵士たちは、地元のタリバン指導者を捕らえるべく、その老人の自宅一帯を包囲していた。屋根の上にいたアメリカ兵士を見た老人の息子2人が、それをタリバンだと勘違いし、自分たちの身を守ろうとアメリカ兵を攻撃してしまったのだ。

 アメリカ兵は、彼らをタリバンのシンパと思い込んで発砲し、老人の次男と三男だった2人は亡くなってしまった。さらにアメリカ兵の誤射した弾がドアを突き破り、老人の娘と他の女性2人も死亡した。私の軍人生活の中で直面した悲劇の中で、最も胸がえぐられるような出来事だった。

子供を殺されたアフガニスタン老人を前に

 私はこの日、アフガニスタンの伝統に従い、羊数頭とささやかな補償金という形で賠償を提示するため老人に会いにきた。しかし、私がガルデスに行った本当の理由は、謝罪するためだった。私の兵士とこの戦争が彼に与えた苦痛に対して、私が本当に申し訳ないと思っていることを父親に伝えるためだった

 しかし、この老人が私を許してくれるとは到底思えなかった。もし自分がこの老人の立場だったら、たとえ私が自分の子どもの死に直接関与していなくても、憎しみが深すぎて和解などできないだろう。

 進行と通訳は、その地域の指導者・イマームと思われる茶色の長い髭を生やした中年の男が務めていた。父親は悲しげに目を伏せ、床から顔を上げるのがやっとだった。長い前説を終えて、イマームが私のほうを見た。何をどう言えばこの老人の苦痛を和らげ、私が心から反省し、謝罪していることが伝わるだろうか。何をすればこのような悲惨な戦争行為を償えるだろうか。私は自分が何を言うべきか、長い間考え続けていた

「それがアラーの教え」平然と放った一言

コーラン

 本拠地バグラムを出発する前に、私はアフガニスタン側の担当であるサラム将軍に相談した。父親に何を言うべきか、どうやったら後悔を伝えられるか、サラム将軍に尋ねると、彼は私の質問に困惑した様子でこう答えた。

「その父親はきっと許してくれるよ」と、サラムは平然と言った
「そんなことあり得るか?」私は信じられなかった。
 サラムは、まだ私の質問を理解できない様子で、首をかしげた。「それがアラーの教えだから
 私は少し苛立ちながら「あぁ、そうだろうな、サラム。でも、私が出会ったイスラム教徒が皆そんなに寛容だったわけじゃない」
 サラムは、私が国際テロ組織のアルカイダタリバンのことを言っているのだと理解し、微笑んだ。「私はこの村をよく知っている。彼らは良い人たちだ。良いイスラム教徒だ。父親は許してくれるよ」

 サラムは、私の懐疑的な表情を見て取った。
コーランは私たちに慈悲の大切さを教えてくれている。父親が君を許すのは、許すこと父親の苦しみが取り除かれるからだ。子どもを失った苦しみではない。何物もその苦しみを取り除くことはできない。許すことで憎しみや怒りの重荷が取り除かれるんだよ。許すっていうのは、それを受け取る側だけじゃなく、与える側にとっても偉大な贈り物なんだよ」

顔は無表情だったが、目は優しげだった

 広い部屋で老人とその息子を前にしながら私はサラムの言葉を思い返していた。彼の言っていることは、果たして正しいのだろうか?

 私はまず眼前の息子のほうを見た。彼は目を細め、眉をひそめていた。彼は明らかに私の死を望んでいた。私は父親のほうを見た。私は深く息を吸い、言った。「私は、あなたの愛する人たちを誤って殺してしまった兵士の司令官です。私は今日、あなたと、あなたの家族と、そしてあなたの友人たちに哀悼の意を表するためにここに来ました」

 私は、イマームが私の言葉を通訳するのを待った。父親は一向に顔を上げない。
 私は続けた。「そして私は今日、この度の凄惨な悲劇について、あなたの許しを請うために来ました」
 やっと父親が頭を上げて私の目を見た。その顔は無表情だったが、目は優しげだった。深く、悲しく、傷ついてはいたが、優しかった。彼は私に話を続けるよううなずいた。

「あなたと私は違います。あなたは家庭的な方で、多くの子どもや多くの友人と一緒に暮らしています。私は、人生の大半を家族から離れた海外で過ごしてきた軍人です。しかし、私にも子どもがいて、あなたのことを思うと心が痛みます」
 老人の目に涙が滲んでいる。

「私たちにはとても大切な共通点があります」

マクレイヴン
元海軍大将ウィリアム・H・マクレイヴン氏(WILLIAM H. McRAVEN
「しかし、私たちには一つだけ、とても大切な共通点があります」と私は言った。「私たちはともに、大きな愛と慈悲を示す神を信じています。私は今日、あなたのために祈ります。あなたが悲しみの中にあっても、神があなたに愛と慈しみを示し、あなたの痛みを和らげてくださるように祈ります。また、この恐ろしい悲劇を起こした私と私の部下にも神が慈悲を与えてくださることを祈ります」

 父親と息子の痛みは想像を絶するものだっただろう。私は話を続けるのがやっとだった。

 父親が少しうなずいた。私はもう一度、彼らに許しを請うた。息子は父親に近づき、耳元で何かをささやいた。息子の怒りの表情は和らいでいた。目の中の燃えるような怒りも消えていた。息子が父親の言葉を代弁し、イマームが通訳をした。

ありがとうございました」と息子は言った。「あなたへの怒りや憎しみは全て水に流します

 あなたへの怒りや憎しみは全て水に流します。これこそが許しの本質なのだ。その日、ガルデスの村を後にした時、私は心の重圧が取り除かれたような気がした。それ以上に、許すという意味を改めて理解することができた。この父親が私にしてくれたように、私も誰かに慈悲を与えることができる時が来ることを、そして、いつの日か、私もこの人のような立派な人間になりたいと願った。

9人殺害した白人至上主義者を被害者が許したワケ

 黒人の信徒が集まるサウスカロライナ州チャールストンにある「エマニュエル・アフリカン・メソジスト・エピコパル教会」で、白人至上主義者のディラン・ルーフが黒人信者9人を殺害した事件があった。その後、彼が法廷に立ったとき、被害者の家族はそれぞれ順番にルーフの凶悪で理解しがたい犯罪に対してこう言った。

「私はあなたを許します。そしてあなたの魂に慈悲を与えます」

 彼らは、ルーフを許すことで、彼への怒りが自分たちの苦しみにならないようにしたのだ。パリのソルボンヌ大学の哲学教授であるアンドレコント・スポンビルは、「許しのポイントは、他人に憎しみを克服させることができないのなら、自分自身の憎しみを克服すること。他人を制御できないのなら、自分を制御すること。少なくとも自分の中の悪や憎しみに打ち勝ち、悪の連鎖を産まないこと。加害者にも被害者にもならないことだ」と彼の著書で書いている。

 イギリスの文豪、哲学者、神学者であるギルバートキースチェスタトンはかつて、「愛するとは、およそ愛せないものに愛を注ぐこと。許しとは、許されざるものを許すこと」としている。

 ディラン・ルーフの行為は許しがたいものだが、遺族たちは彼を許すことで、この卑劣な行為が生み出す憎悪の念から自らを解放したのだ。彼らは憎み続ける被害者(ヴィクティム)から、許しを与える勝者(ヴィクター)となったのだ

どんな理由でも不快な行動は𠮟責すべき?

米軍 兵器

 しかし、全ての許すという行為が、このような憎むべきことを前提にする必要はない。現代社会では、人は簡単に腹を立てる。すぐに怒って、どんな理由であっても不快な行動をすぐに叱責するべきだと考える人もいる。どんなヒーローでも一番難しいことは、許すことだ。許すことよりも、丘を襲撃したり、火の中で戦ったり、銃を持った狂人を止めるほうが簡単だ。

 許すことは難しい。なぜなら私たちは恐れているからだ。許すことで、自分を突き動かしていた怒りが消えることや、憎しみという闘志がなくなることや、不当な扱いを受けたと憤る正当な理由が奪われることを恐れているのだ。

 私たちはとにかく不公平さや不満に対する憤りを感じ、その怒りを利用したいのだ。激しい憤りがあれば加害者への攻撃が正当化されると考えている。規模に関わらず、報復が心を癒やしてくれると思っているのだ。

「許し」は人格を計り知れないほど強化する

 しかし、そんなものはわたしたちを癒やしたりはしない。キリスト十字架釘付けにされ、鞭打たれ死にゆく時、天を仰いで言った。「主よ、彼らをお赦しください。彼らは自分が何をしているかわかっていないのです」

 許すことは決して簡単ではない。許すには強さが必要だからだ。しかし、許すという行為は、あなたの人格を計り知れないほど強化してくれる。そして許しは多くの人から憎しみを取り除くことができる。被害者(ヴィクティム)ではなく、勝者(ヴィクター)になるのだ。許すことを学ぶのだ。

HERO CODE
恨みがどんなに大きくても小さくても、許す努力をすること。被害者(ヴィクティム)ではなく、勝者(ヴィクター)になろう。


TEXTウィリアム・H・マクレイヴンWILLIAM H. McRAVEN) 訳/椎川乃雅>

【ウィリアム・H・マクレイヴン】

米海軍特殊部隊SEALsとして37年のキャリアをもつ元海軍大将。2003年イラクにおける「赤い夜明け作戦」で逃亡中のサダム・フセインを捕獲。2011年、「ネプチューンの槍作戦」を指揮し、ウサマ・ビン・ラディンの殺害に成功。現在は、妻のジョージアンとテキサス州オースティンに居住。ビジネスや教育分野で講演を行っている。日本語訳されている著書は著書『THE HERO CODE ヒーローコード』(扶桑社)など