南海は交流会にあわせ、普段は和歌山県加太線を走る加太さかな線観光列車「めでたいでんしゃ」(ピンク色の「さち」編成)を多奈川線で運行、参加者や鉄道ファンにシャッターチャンスを提供しました

鉄道ファンの中高生の真夏の祭典・第11回「全国高校生地方鉄道交流会in岬町(地鉄交流会)」が2022年8月5~7日、南海電気鉄道多奈川線が走る大阪府岬町で開かれ、参加11校が鉄道のイメージアップにアイディアを競いました。テーマは「関空(関西空港)利用者を多奈川線に誘客する方法」です。

多奈川線は、南海本線みさき公園駅から大阪湾に面した多奈川駅まで、2.6キロのローカル線乗り鉄撮り鉄した中高生からは、「多奈川線をゲーム愛好家やサイクリストの聖地に」をはじめとする多くの利用促進策が寄せられ、最優秀賞の南海社長賞は地元・大阪の浪速高校・中学が受賞しました。「大阪府民もよく知らない路線」といわれながら、実は魅力や可能性いっぱいの多奈川線、本コラム経由でぜひご乗車下さい。

鉄研のインターハイ、秋田内陸縦貫鉄道で初開催

最初に地鉄交流会について簡単に説明します。多くの高校や中学には部活(クラブ活動)の鉄道研究会があり、夏休みは各地の鉄道を訪れて列車に乗車したり、写真を撮ったりします。

しかし鉄研には、野球の甲子園や一般スポーツのインターハイ、合唱の全国コンクールのような全国大会はありません。せっかく遠方の鉄道に乗車しても、発表の場は学校内や仲間内に限られます。

こうした状況に疑問を持ち、2012年に交流会を発案したのが第三セクター秋田内陸縦貫鉄道の酒井一郎社長(当時)。以降、毎年継続され、コロナ禍の2020年と2021年の変則開催を経て、2022年は3年ぶりで夏休みの実開催(一部校はリモート参加)という本来の形に復帰しました。

車両工場を見学、深日洲本ライナーに試乗

千代田工場を見学する交流会参加者。検修中なのは1985~1988年に導入された9000系電車。南海本線では初となるステンレス車で、前面は「額縁顔」とも称されるようです

関西初開催となった今回、交流会に協力・後援した南海や岬町も、多彩なプログラムを用意しました。初日は、大阪府河内長野市にある南海千代田工場を見学。車両修繕や改造を手掛ける関西エリアを代表する鉄道工場で、南海は車両検修作業などを公開しました。

2日目は岬町の散策、さらには双胴船「深日洲本ライナー」への試乗。岬町の深日(ふけ)港と淡路島の洲本港の間には現在、定期航路がなく、地元は「大阪湾南回りルート」の復活を目指します。

深日洲本ライナーは49トンの双胴船「INFINITYインフィニティ)」を使用。速力約18ノット(時速33キロ)、深日―洲本間を片道55分で結びます

多奈川線の歴史――かつては難波からの直通列車も

多奈川線の歴史をひも解きましょう。1884年に大阪堺間鉄道(会社名。後に阪堺鉄道)として設立された南海は、純民間資本で日本最古参の鉄道ですが、多奈川線の開業は昭和年間の1944年。沿線の工場への通勤需要を受け持ちました。現在はみさき公園側から深日町、深日港、多奈川の3駅があります。

深日港に定期航路(四国航路、淡路航路)があった当時、難波からの直通電車も運転されましたが、現在は線区内をワンマン運転。南海は岬町で遊園地「みさき公園」を運営していましたが、2020年3月に閉園。同町は新しい街づくりの方向性を探ります。

ここからは参加校の発表を、順不同でご紹介します。

観光きっぷや夕日クルーズでにぎわい演出

参加校全員での記念撮影。最前列Vサインが南海社長賞の浪速中高です

期間限定で運航される深日洲本ライナーと、多奈川線を組み合わせた企画きっぷは、多くの学校が発想しました。

地元の岬高校はホスト校。「深日洲本ライナー・多奈川観光きっぷ」を発案しました。明石海峡大橋の開通後、関西圏から淡路島を訪れるには大橋経由の北回りがメーンになりましたが、大阪南部からは深日港利用の南回りが便利。観光きっぷは、双胴船の待ち時間に岬町内を散策してもらう狙いです。

もう一つの誘客策は、大阪湾周遊の「夕日クルーズ」。岬町は〝大阪湾の映えスポット〟で、深日港にキッチンカーを誘致してにぎわいを演出します。

広島の修道中学・高校は、釣りやサイクリングの体験型観光を発表しました。そして、同校が鉄道ファン目線で考えだしたのが「多奈川線夏祭り」。深日町駅前広場でイベントを開催し、港では花火を打ち上げます。

釣り上げた魚をさばいて列車で運ぶ

開催地・大阪からは岬高のほか、清風中学・高校、浪速高校・中学、岸和田高校の3校が参加。南海社長賞の浪速中高は、①多奈川線に旧塗装の車両を走らせ、ダイヤをホームページで公開、②深日町駅を改修してビュースポットに、③釣った魚をその場でさばいてパッキング、南海電車も利用して自宅に配送、④深日港にオブジェを設置して、夕日のフォトスポットに――と、多彩なアイディアを出しました。

南海の新旧塗装を並べた浪速中高の発表画像。交流会も11回目とあって参加各校のプレゼンも手慣れたものでした(筆者撮影)

魚を電車で運ぶのは、新幹線でおなじみの「電車モーダルシフト」。さらに魚をさばいてくれれば、「釣るのは好きでも料理は苦手」の釣りファンに喜ばれそうです。

清風中高もサイクルトレインを提案しましたが、関空利用客のため、空港線と本線が接続する泉佐野駅にロードサイクルの組み立て場所を開設。岸和田高も地元目線で、多奈川線の可能性を語りました。

電車+サイクリング=MaaS

東京からは目黒学院中学・高校、渋谷中学高校、成城中学・高校、芝中学・高校の4校が参加しました。

芝中高は、多奈川線沿線から淡路島への一帯を「鉄道・サイクリング複合エリア」として、SNSなどで国内外に発信。遠方からのサイクリストのために、シェアサイクル(貸自転車)を用意しますが、予約や貸し出しをMaaSにすれば、外国人観光客もストレスなく利用できます。

ドラクエやドラえもん映画とのタイアップ案も

岬町から大阪湾を西へ渡れば、堀井雄二さんの出身地洲本市へ辿り着きます。写真は洲本城の模擬天守閣(バッシー / PIXTA)

交流会に初回から参加する成城中高は、テレビゲームタイアップした多奈川線のイメージアップ作戦を披露しました。

ゲーム「ドラゴンクエスト」の生みの親、堀井雄二さんの出身地は兵庫県洲本市。対岸の岬町を「竜王の城」に見立て、いわゆる聖地巡礼で人の流れを生み出します。

目黒学院中高は、映画とのタイアップを発案。映画ドラえもんのび太と竜の騎士」には、「多奈川」の地名が登場するそう。ラッピング車両のアイディアが膨らみます(※鉄道チャンネル編集部注……「ドラえもん」の舞台は関東であることから、モデルは同名の多奈川ではなく多摩川と考えられます)。

渋谷中高は、訪日外国人が数多く訪れる東京→富士山→京都・大阪に岬町を加えた、「新ゴールデンルート」を提案しました。

審査の結果、芝中高に岬町長賞、成城中高に地鉄交流会賞が贈られました。

難波、関空発多奈川行き「レストラン列車」

最後に、兵庫と石川からの2校。兵庫の三田学園中学・高校は、難波―多奈川間、関空―多奈川間を走る「レストラン列車」を発想。車内では、沿線の景色を楽しみながら、大阪湾の海の幸を味わいます。

石川の内灘高は、海に向かう鉄道として多奈線との共通性も多い地元の北陸鉄道浅野川線を研究。同線が阪急電鉄を理想に、かつて沿線に遊園地や劇場を開設して発展を遂げた鉄道史を解き明かしました。

デビュー60年の6000系から最新の8300系まで

中高生の発表後には、南海鉄道営業本部統括部の窪田勇輝課長が「南海電鉄の〝なんかいい〟ACTION」のタイトルで講演。

南海には、1962年デビューの6000系から2015年登場の8300系まで、多彩な列車が走ります。最新の話題では、2023年春開業を予定する鉄道新線・なにわ筋線乗り入れの新型車両開発に取り組むことなどを披露しました。

交流会では、企画部門の優秀賞のほか、写真部門の入賞者にも賞状や記念品が贈られました。

写真部門でフォトサービス会社・LEAM Japan社長賞を受賞した三田学園中高チームの「夏空」。LEAM Japanは写真講座の講師を務めました
同じく南海社長賞を受賞した岬高チームの「待ちわびた瞬間」

記事:上里夏生
(写真は一部出典を明記されているものを除き全国高校生地方鉄道交流会提供、一部写真協力・スリージェイトラベル)