現役棋士は170名強。棋士によって得意の戦法や展開は異なり、それぞれの指し回しに個性がある。例えば、攻め将棋だと受けに回る展開になると力を発揮できない。同じ攻め将棋でも飛車角銀桂を使う重厚なタイプか、それとも飛車角桂の飛び道具を使う軽い攻めか、どちらを好むかは人によって違う。

 人間同士の勝負は一局一局、自分の持ち味をぶつけられるように水面下で駆け引きを繰り広げている。そうやって、一局の将棋はふたりの手で生み出されるのだ。

 今回は、文春将棋ムック読む将棋2022」に掲載されたオールラウンダー座談会番外編として、トップ棋士の棋風を3人の俊英、石井健太郎六段、青嶋未来五段、黒田尭之五段に分析してもらい、画像のポジショニングマップを作りあげた。

 詳しく取り上げるのは以下の12人(タイトル保持者と1月取材時のA級棋士。★印は関西所属)の棋士だ。

藤井聡太竜王(★)
渡辺明名人
斎藤慎太郎八段(★)
永瀬拓矢王座
豊島将之九段(★)
広瀬章人八段
糸谷哲郎八段(★)
菅井竜也八段(★)
佐藤康光九段
佐藤天彦九段
羽生善治九段
山崎隆之八段(★)

藤井聡太竜王

――まずは藤井聡太竜王から見ていきましょう。言わずと知れた現将棋界の第一人者ですね。幼少期から詰将棋を得意にする終盤型ながら、年々、序中盤の精度が上がり、最新定跡を引っ張っています。

石井 藤井竜王はデビューから居飛車100%ですよね。攻めと受けのバランスは難しい。ちょっと攻め将棋ですけど、そんなに偏っていません。豊島九段に少し似ている気がします。

黒田 マップの「居飛車」の文字のあたりじゃないでしょうか。攻防のバランストップ棋士のなかでもいちばんいいですし。

青嶋 わずかに攻めに寄っているような気がしますね。

石井 じゃあ、青嶋案でいきましょうか。

渡辺明名人

――次は渡辺明名人です。石井六段にとっては、兄弟子にあたります。

石井 基本的に居飛車党で、攻め重視の棋風です。いまは振り飛車をほとんど指されていませんが、ゼロではないですよね(渡辺明名人は後手でゴキゲン中飛車を裏芸にして、タイトル戦でも指していた。飛車を最後に振ったのは2017年)。藤井聡太竜王は振り飛車がゼロなので、比較するとわずかに振り飛車寄りです。

青嶋 戦法に関しては石井さんと同じです。問題は棋風で、どれぐらい攻めに寄っているか……。攻め将棋なのは間違いないけど、意外と受けも苦にしていないイメージです。石井さんの置いた点より、心持ち受け寄りかなと思います。

黒田 私はお2人の真ん中ぐらいでお願いします。

一同 (笑)

斎藤慎太郎八段

――2期連続で名人に挑戦した斎藤慎太郎八段。​詰将棋を武器にした終盤型で、最新定跡が主戦場となっています。弟弟子の黒田五段から見て、いかがでしょうか。

黒田 渡辺名人と似ていて、居飛車党の攻め将棋です。公式戦でわずかに数局、飛車を振ったこともありますが、 渡辺名人よりも居飛車党寄りでしょうか。

石井 棋風は攻め重視というよりも攻守が整ったバランス型に見えるので、私は黒田五段よりもう少し左でしょうか。渡辺名人のほうが細い攻めをつなげる展開をすごく好むイメージがありますし。

青嶋 へぇー。斎藤八段は渡辺名人と同じぐらいの攻め将棋だと思っていたんですけど(笑)。得意の詰将棋を武器に斬り合うのが得意なタイプで、攻めと受けだったら攻めの手を選ぶイメージです。

石井 「攻めるぞ、攻めるぞ」と脅しておいて、実際はあまり攻めないことも多い気がします。1月に指した羽生善治九段との順位戦A級もそういう展開でしたし。

青嶋 なるほど。確かに最近は手厚い将棋も多いから、斎藤八段の棋風も変わってきているのかもしれません。

黒田 迷ったら攻める印象ですが、渡辺名人よりはバランス型ですかねぇ。

永瀬拓矢王座

――永瀬拓矢王座は、一般的にはしぶとい棋風というイメージでしょうか。青嶋六段は同門ですね。

青嶋 居飛車中心とはいえ、いまでもたまに振り飛車を指します(公式戦で藤井聡太竜王に2局ぶつけて、1勝1敗)。渡辺名人、斎藤八段の2人よりは振り飛車の採用率は高いでしょう。あと受け将棋といわれますが、そんなにいうほどかなと思います。確かに終盤は受けますけど、序中盤は攻めます。まあ相居飛車の定跡だから攻めている部分はあるでしょうが、一局を通してずっと受ける感じではないです。

石井 そうだねぇ。

黒田 私も青嶋さんと同じような意見です。

石井 青嶋さんの点より、もうちょっと左のほうがいいでしょうか。

青嶋 ほかの人との比較を考えると、受けのほうにもう少し寄ったほうがいいかな。

石井 永瀬王座の一番の特徴は、手数が長いことだと思います。元振り飛車党で、新鋭のときはもっと受け将棋でした。三間飛車で誰も指さない作戦(3二金型の石田流)を採用して、ずっと受けまくっているんですよ。ものすごく強かったです。

青嶋 居飛車に穴熊とか好き放題に組ませるけど、厚みで受け切りにいってましたね。

石井 永瀬王座ほど、極端に戦法と棋風が変わった棋士はいないんじゃないですか。戦法に限れば広瀬八段も変わりましたけど。

豊島将之九段

――「序盤・中盤・終盤、スキがない」と言われる豊島将之九段ですが、棋風としてはどんな印象がありますか。

石井 斎藤八段に近いと思いますね。無理攻めはしないけど、先手番の利をちゃんと生かして攻めるような組み立てが多いです。攻守のバランスがよくて、指した手がそのまま定跡になるような、お手本にすべき指し回しでしょう。

黒田 居飛車が主軸で、居飛車振り飛車の比率は斎藤八段と渡辺名人の真ん中ぐらいでしょうか。攻め受けのバランスは斎藤八段と同じぐらい。あと、粘り強いイメージもあります。

青嶋 そうですね。豊島九段は攻め将棋ですけど、長手数の将棋も多いです。序中盤は相当に攻めるタイプながら、終盤の粘り強さも持ちあわせています。

広瀬章人八段

――麻雀好きとしても知られる広瀬章人八段。その縁で、青嶋六段はABEMAトーナメントチームを組んでいますね。

青嶋 もともとは四間飛車穴熊を武器に初タイトルを獲得されましたが、ここ数年はほとんど居飛車を指しています。攻守のバランスがよく、カウンター型でしょう。最初は穏やかに戦って中終盤で鋭く踏み込む、駒を蓄えて一気の反撃を決める展開を得意にされています。

黒田 居飛車振り飛車の比率は、渡辺名人とほぼ同じぐらいでしょうか。攻守のバランスがいいです。

石井 カウンターが得意で、攻められても苦にしません。そのあたりは得意にされていた振り飛車穴熊の感覚が生きているのかもしれないです。 いまは攻め将棋の人が本当に多いので、それと比較すると本当にちょっとだけ、受け寄りでもいいかもしれません。

糸谷哲郎八段

――糸谷哲郎八段はいかがでしょうか。独特な指し回しで、未知の戦いに相手を引きずり込むスタイルです。決断力がよく、時間攻めも得意にしていますね。

石井 糸谷八段は難しいですねぇ……。

黒田 棋風は受け将棋ですよね。永瀬王座より、もっと受け寄りのイメージです。

 居飛車振り飛車バランスは、私は永瀬王座と同じぐらいの印象を受けます。得意にされている阪田流向かい飛車は戦型だと振り飛車ですが、感覚的には居飛車イメージです。

青嶋 阪田流向かい飛車や飛車を転回する右玉も指すので、永瀬王座より振り飛車寄りでしょうか。全棋士のなかでもかなり受け将棋でしょう。盤上の自由さを含めたら、ある意味で攻めかもしれないけど(笑)、内容だけ考えたら常に受けを考えている気がします。

石井 青嶋さんと同じイメージですね。とりあえず受け将棋。いまは永瀬王座より振り飛車を指していて、基本的に力戦派(定跡形ではなく、見たことがない展開や局面で戦うこと)でしょう。特に後手番は力戦に持っていくのが得意で、受け重視の展開が多いです。

菅井竜也八段

――菅井竜也八段は、今回の棋士の中では唯一、ほぼ純粋な振り飛車党ですね。

黒田 攻め将棋、振り飛車党です。トップ棋士のなかでほかに振り飛車党はいません。

青嶋 居飛車を指していた時期もありますけどね。実戦的な指し回しで、中終盤はひたすら攻めています。受けにはあまり回らないです。

石井 私も青嶋さんと同意見で、完全な振り飛車党で攻め将棋だと思います。

佐藤康光九段

――次は居飛車振り飛車の両方を指しこなすオールラウンダーでトップ棋士のひとり、そして将棋連盟会長でもある佐藤康光九段です。

石井 いまの佐藤康光九段はオールラウンダーで、振り飛車寄りですよね。攻め将棋ですし、菅井八段のちょうど上で、居飛車寄りじゃないでしょうか。

青嶋 攻守に関しては石井さんと同じです。問題は居飛車党か、振り飛車党かです(笑)。確かに近年は振り飛車の採用率が高いですけど、感覚的になんとなく居飛車党で、矢倉の堅い玉形で戦うのを得意にしているイメージです。石井さんよりもう少し振り飛車寄りかな。

黒田 棋風はもうちょっと攻め寄りかもしれませんね。

石井 3人の点の間をとりましょうか(笑)

――「誰も自分の作戦を真似してくれない」とぼやいたこともあるそうですが、オールラウンダーの皆さんも誰かに指してほしい戦法はありますか。

黒田 戦法によって違いますね。「菜々河流」は指してほしいなと思いますが(黒田が公式戦で指した新型の向かい飛車。VTuber「菜々河」さんに教えてもらったという)。

――この前、佐藤康光九段と話したら「私の将棋は普通ですよ。棋譜を全部見てもらってもいい」とおっしゃっていましたよ。

一同 (笑)

青嶋 先手矢倉は普通だと思いますけど……。

石井 振り飛車が独特ですよね。いやー、昨年の棋王戦郷田真隆九段に指した△9三銀から△8四銀はやばいですよ。定跡がないですし、駒を中央に使う常識に反しているじゃないですか。普通ではないです(笑)

佐藤天彦九段

――佐藤天彦九段は、一時期、振り飛車を連採したことが話題になりました。

青嶋 完全な居飛車党でしたが、ここ1、2年は振り飛車にも興味を持たれているようです。最近はそんなに振り飛車をやっていませんが、ほかの純粋居飛車党に比べると振り飛車の採用率は高いでしょう。棋風はほかの居飛車党よりは受け将棋ながら、永瀬王座ほどではないです。

黒田 そうですね。永瀬王座ほどではない。

石井 私も同じです。永瀬王座ほどではないです。

青嶋 実は今度当たるんですよ(笑)。何をやられるかはよくわかりませんねぇ(今年1月の朝日杯将棋オープン戦▲青嶋―△佐藤天戦は、先手が四間飛車穴熊を採用した。結果は後手勝ち)。

羽生善治九段

――羽生善治九段はいかがでしょうか。オールラウンダー棋士として、10代からトップ戦線で活躍されています。

青嶋 羽生九段はオールラウンダーながら、最近はほとんど振り飛車を指されていません。数年前は四間飛車を指されていた時期もあるので、居飛車振り飛車バランスでいうと、広瀬八段に近いでしょうか。攻め将棋なのは間違いないです。渡辺名人ほどではないと思いますが、豊島九段や斎藤八段と比べるとどうでしょうか。

黒田 最近はほとんど居飛車ばかりですよね。攻め将棋で、豊島九段と渡辺名人の間ぐらいでしょうか。

石井 渡辺名人ほどではないけど、攻め将棋ですよね。

山崎隆之八段

――最後は、独創的な指し回しと勝負術で、ファンを魅了している山崎隆之八段です。

黒田 受け将棋で、糸谷八段と永瀬王座の間でしょう。居飛車党ながら、たまに個性的な作戦を採用されます。

石井 居玉の駒組みが多いですよね(笑)。ほぼ居飛車党だと思います。純粋な振り飛車、例えば角道を止める四間飛車とかは指しませんから。受け将棋ながら、糸谷八段よりは先手相掛かりを指しているぐらいなので、攻め将棋でしょう。

青嶋 振り飛車イメージはあまりないですよね。

黒田 たまに相振り飛車を指されますよね(相振り飛車は未開拓の部分が多く、力戦になりやすい。また戦いの性質は相居飛車に近い)。

まとまったポジショニングマップは…

――全体を見てみると、トップ棋士は受け将棋が多いですね。

青嶋 そうですね。意外と。

石井 関西棋士が受け重視のイメージがあります。

――現役棋士170名強のうち、もっとも攻め、または受けを重視するタイプは誰でしょうか。

石井 攻め将棋は純粋居飛車党の塚田泰明九段です(キャッチフレーズは「攻めっ気100パーセント」)。先後にかかわらず、毎回攻められますよ(笑)

 いちばんの受け将棋は、中村修九段(愛称に「受ける青春」)。振り飛車も指されるオールラウンダーです。受け将棋の棋士でも、定跡で攻めが最善とされていれば攻めるはずなんですが、中村修九段は主導権を握りやすい先手番でもあまり攻めない作戦を採用しています。

 純粋居飛車党で受けるタイプは、木村九段でしょう(「千駄ヶ谷の受け師」と呼ばれる)。受け将棋なのと、受けが強いのはちょっと違います。木村九段は攻める展開も普通に指しながら、受けに回るのも苦にせずに強靭です。

――木村九段の受けは相手の攻めをただ防ぐというよりも、攻め駒を逆に責め立ててプレッシャーをかける受けが多いですね。

青嶋 確かに指し手の意味は受けでも、木村九段は受け将棋かといわれると違う気がしてきます。

黒田 女流棋士だと振り飛車党で攻め将棋がかなり多く、西山朋佳白玲・女王は菅井八段よりも攻め寄りだと思います。逆に里見香奈女流五冠は振り飛車党ながら受け将棋で、手堅い指し回しです。

――棋風を考えて、相手の指し手を予想することはありますか。

石井 本当に攻め好きの人と対局したときはありますね。絶対に攻めてくるのはわかっていますから。それを受けて立つかは、そのとき次第ですけど。

青嶋 棋風が出てくるのは、攻防の選択肢がいろいろあるときです。絶対に攻めないといけない場面では、受け将棋の人でも攻めてきます。

居飛車振り飛車、戦いの性質は何が違うのか

――相居飛車と対抗形(居飛車VS振り飛車)では戦いの性質が違います。指す戦法によって身につく力が異なると思いますが、トレーニングメニューを選ぶように戦法を決めることはありますか。

黒田 時期によって指してみたいというのはありますけど、強化したい力で指す戦法を選ぶと考えたことはないです。

青嶋 対抗形と相居飛車の終盤、どっちが難しいかは考えたこともなかったです。対抗形はお互いの囲いがきちんと残っている分だけ、終盤がセオリー的に進みやすい。相居飛車は中盤の時点で相手の囲いに向かってお互いに駒を進めているので、終盤の入り口でどっちも囲いが崩れていることが多いから毎回、違った展開になりやすい気はします。

石井 確かに居飛車党の人はかなり読んでいるとは思います。量もありますし、相居飛車のほうが中盤が複雑です。例えば歩を突き捨てるとき、振り飛車はだいたいパターンが決まっているから迷わなくてすみます。相居飛車だとどの筋の歩を突き捨てるか、タイミングもあわせてかなり難しいです。似ている局面でも、全然違ってきますから。でも、それが地力を高めるのにいいかはわからないです。

 振り飛車党のよさは、耐え忍ぶことに慣れて忍耐力がつくことです。居飛車党が攻めたがるのは、耐えるのが嫌いだからでしょう。

青嶋 なるほど、そうか。

石井 振り飛車は基本的にカウンター狙いの戦法なので、よく攻められています。久保利明九段のようにうまく耐え忍ぶ人は違いますよ。

オールラウンダー棋士にとっての戦法選択

――3人はオールラウンダーですが、持ち時間で指せる戦法は変わってきますか。

黒田 普通は研究将棋にするんでしょうけど、私は力戦のほうがいいですね。短時間ならとがめられにくいので。

石井 横歩取りは怖いですね。ひとつのミスが勝敗に直結し、終盤のねじり合いが短い将棋ほど力が出せませんから。飯島栄治八段や横山泰明七段のようなスペシャリストを相手にすると避けられませんが……。

青嶋 対抗形よりも、相居飛車のほうが早指しだと怖いですね。

石井 それは青嶋さんが振り飛車のほうが慣れているからだよね?

青嶋 うーん、振り飛車のほうが慣れているかは疑問ですが、決まった形になりやすいというのは大きいです。

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 若手3人がとことん語り明かした「オールラウンダー座談会」の本編は、文春将棋ムック読む将棋2022」に掲載されています。あわせてお読みください。

(小島 渉)

座談会に出席した3人の棋士。左から順に黒田尭之五段(25)、青嶋未来六段(27)、石井健太郎六段(30) ©伊藤健介