8月8日、シリーズ初のモバイルゲームとして2011年にリリースされた『アイドルマスター シンデレラガールズ』(以下、『モバマス』)のサービス終了が発表された。提供元のバンダイナムコエンターテインメントによると、2023年3月30日をもって、その歴史に幕を下ろすという。今後は、2015年9月リリースで現在もサービス継続中の姉妹作品『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』に集約されていく見通しだ。

 その裏で“ある別のモバイルゲーム”がTwittterのトレンド入りなどで話題となっている。『怪盗ロワイヤル』だ。『モバマス』とは、複数の共通項がある同タイトル。10年を経てもなおサービスを継続できる理由や、ゲームカルチャー史に残した功績へと迫る。

(参考: 【画像】かつては竹内涼真主演で実写化もされた「怪盗ロワイヤル」

〈「あぁ、また盗まれてる!!」 モバイルゲームの草分け的RPG『怪盗ロワイヤル』〉

 『怪盗ロワイヤル』は2009年、Mobage(旧モバゲータウン)にて提供がスタートしたモバイル端末向けRPG。プレイヤーは怪盗団のリーダーとなり、ミッションを実行してお金を稼ぎながら、他のプレイヤーとお宝を奪い合うことで、世界中のお宝のコンプリートを目指す。対人だけでなく、フレンドとの協力要素も盛り込んでおり、オンラインでの人とのつながりがプレイに影響するゲーム性から、いわゆるところの「ソーシャルゲーム」にも分類される。現在では家庭用ゲーム機・PCと並び、ひとつのプラットフォームとして認められているモバイルゲームの草創期に登場した人気タイトルだ。

 『モバマス』とは、大まかなローンチ時期やMobageで提供された点など、複数の共通項がある。双方ともにモバイルゲームとして成功を収めた点もそのうちのひとつだ。

 同ジャンルの草分けとも言える『怪盗ロワイヤル』は、2022年8月現在もサービスを継続中。ほぼ同時期にリリースされ成功した『モバマス』のサービス終了が発表されたことで、あらためて同タイトルの息の長さに注目が集まった形だ。

〈『怪盗ロワイヤル』息の長さの秘密は、攻めの姿勢にあり?〉

 実は『怪盗ロワイヤル』は2013年、従来の「お宝バトル」から、カードを使って敵と戦い、獲得したポイントの高さを競い合う「カードバトル」へとゲーム性を変化させている。おそらくはピーク時から少しずつ減っていくユーザーを囲い込むために、運営が方針を抜本的に見直したのだろう。

 そうしたテコ入れの成果もあってか、『怪盗ロワイヤル』は2018年、ほぼ右肩下がりで落ちていたであろう売上と収益を、9年目にして増加させている。消費されていくコンテンツの多いモバイルゲーム界隈で、同タイトルがローンチから10年を経てもなおサービスを継続できた理由は、こうした攻めの姿勢にこそあったのかもしれない。

〈『怪盗ロワイヤル』がゲームカルチャー史に残した功績〉

 『怪盗ロワイヤル』には、トレンド史だけでなく、カルチャー史においても、触れておかなくてはならない功績がある。それが既存のマーケット以外の場所に、新たなマーケットを作り上げた点だ。

 それまでゲーマーは家庭用ゲーム機で遊ぶのが一般的で、モバイル端末で日常的に遊んでいる層はほとんど存在しなかった。さまざまなタイトルが発表・リリースされてもなお、彼らの多くは家庭用ハードをホームとする傾向があり、モバイルゲーム市場とは明確な棲み分けがあった。ゲーマーに支持される土壌が整っていないなかで、なぜ『怪盗ロワイヤル』は成功を収められたのか。その理由は、同タイトルがゲーマー以外の層にリーチした点にある。

 当時飲食店でアルバイトとして働いていた私は、ゲームカルチャーに興味がなさそう(実際に家庭用ハードでのゲームプレイには興味がなかった)な同僚の熟年女性パートタイマーさんから「(自身が)『怪盗ロワイヤル』に重課金している」という話を聞かされ、驚いた。現在とは違い、課金という行為に一定の精神的ハードルがある時代。ゲーマーではない層がすっかり夢中になり、簡単に課金してしまうような面白さ・中毒性が『怪盗ロワイヤル』にはあったのだ。

 同タイトルは、年齢・性別を問わず、日常的にゲームに触れない層にリーチすることで、大きな売上を獲得し、成功への道を歩んでいった。もちろんそこに既存のマーケットは存在していない。まだ整備されていない荒れ地を開拓し、新たなマーケットを作り出したのが、ほかでもない『怪盗ロワイヤル』だったのだ。

 その後、『怪盗ロワイヤル』が運んできたモバイルゲーム市場の旗手のバトンは、さまざまなタイトルへとつながれていった。今回サービスの終了が発表された『モバマス』もそのうちのひとつだろう。後続のタイトルが成功できたのは、そこにマーケットが存在していたからにほかならない。今日のモバイルゲーム市場が家庭用プラットフォームに比肩する規模となり得たのは、『怪盗ロワイヤル』がそこに新たなマーケットを切り拓いていたからだ。

 『怪盗ロワイヤル』はどこまで歴史を積み重ねていけるだろうか。思わぬ形で注目を浴びたモバイルゲーム分野の金字塔は、2024年でサービス開始から15周年を迎える。(結木千尋)

怪盗ロワイヤル