文/椎名基樹
 
◆セルフモザイクを作り出した“無意識過剰”の男

 横目に映ったテレビ画面の中の、強風で長髪をなびかさせながら、警察署の前で深々と頭を下げて、マスコミに謝罪する男に目を奪われた。頭髪が顔を完全に被っていて、謝罪にしてはふざけすぎだ。

「無反省」をエクスキューズしつつ、一応ちゃんと謝罪する方法として、これほど合理的な方法もない。しかし彼は、世間に対して反抗的な態度を示しているわけではなく、偶然の強風のせいで、意味深長な変人に見えてしまっているだけである。そんなところも余計に笑けてくる。

 この無意識過剰な天才コメディアンは誰なんだ? マスコミに向かって謝罪するのだから、どうやらタレントのようである。この男は一体何をしたんだ?

 ロン毛のお笑い芸人なのかとも思ったが、そんな名前の芸人は思い当たらない。よくよく見てみると、山口県阿武町の給付金詐欺事件で逮捕された田口翔被告だとわかり、今度は声に出して笑ってしまった。なんであなたが謝罪会見を!? スターかっ!

◆田口翔被告の天然に備わった喜劇性

 世間にとってもこの謝罪はインパクト大だったようで、ネットでは顔に被った頭髪を指して「セルフモザイク」と、気が利いたツッコミが入った。

 ワイドショーではタレントユージが、「ある種持っている人に見えちゃう」とコメント。犯罪を犯した人間に「持っている」は不適切なのかもしれないが、ユージコメントは私の気持ちを代弁してくれている。

 私もこの謝罪会見の狙ってできない滑稽にただただ感心するばかりであった。いや、謝罪会見だけでなく、誤送金がされた時点で、何ともすっとこどっこいな奇跡が連続する数奇な運命だ。彼に天然で備わった喜劇性を感じざるを得ない。

ユーチューバーヒカルが目指す「win win」な関係

 この「持っている男」をユーチューバーヒカルがスカウトした。ヒカルが経営する会社に田口翔は就職するという。ヒカルは「win winの関係」を強調する。今後YouTubeで田口翔の動画が公開されれば、大変な数の再生回数を記録するのは必至だ。それはそのまま収益の数字となる。凄い時代だ。

 立花孝志マツコデラックスに執拗に絡んだことで、動画の再生回数を稼ぎ、大変な収益を得たと言う。それはあらかじめ調査して、再生回数を稼げる人物としてマツコデラックスターゲットにして話題を作ったと言う。

 逆に太田光を調査したところ、再生回数が見込めないことがわかり、彼をターゲットから外したらしい。そのことを太田光は非常に悔しがっていたとか(笑)。「マツコさん、稼がしていただいてありがとうございました」と、イケシャーシャーと、立花孝志YouTube動画で語っていた。

 かつて自然主義文学の私小説が一世を風靡した時、最終的に、小説のネタのためにスキャンダラスな生き方をする本末転倒な作家が現れることによって、自然主義文学のムーブメントは衰退していったという。

 ユーチューバーのしている事はそれに似ているのかもしれない。しかし、最終的に文学作品を作る必要はなく、ただ再生回数を稼げば良いのだから本末転倒だろうがなんだろうが、ユーチューバーの方法論が廃れていく事はないだろう。なんにしても、私生活は金になるということらしい。

◆田口翔は犯罪者だが憎み切れない

 ところでもし私の銀行口座に大金が誤送金された時、私はどうするだろうか? 田口翔と同じことをしないことを、私は断言できない。また静かに暮らしていた人間が、誤送金によって人生を翻弄されたことに同情も集まった。田口翔は罪は犯したものの、憎み切れない理由を持っていて、お騒がせ系YouTubeタレントとして、格好の素材なのかもしれない。

 今後、こうした“インスタント有名人”をスカウトする流れが続くことだろう。それに対する違和感はなくもないけれど、それを否定する理由も全く見出せない。個人が巨大な発信力を持つ現代社会は、かつて経験したことがないほど変な社会となった。

 アンディ・ウォーホルが「未来には、誰でも15分間は世界的な有名人になれるだろう」と言ったのは50年以上前だ。現在はその15分間を、瞬く間にお金に変換することができる仕組みが出来上がっている。やっぱり変な社会である。

【椎名基樹】
1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina

ヒカル「NextStage」Twitterアカウントより