2022年上半期の首都圏新築マンション平均価格は、前年同時期から上昇……価格上昇をけん引しているのが、駅チカ・高価格帯のタワーマンションです。ただ、現在は高い人気を誇るタワマンですが、通常の住居にはない「タワマン特有のリスク」によって、数年後には「資産価値暴落」の悲劇が訪れるかもしれません。いったいそれはなぜなのか、みていきましょう。

首都圏のマンション価格は「高止まり状態」…タワマンがけん引

不動産経済研究所が発表した首都圏の2022年上半期(1~6月)新築分譲マンション市場動向によると、首都圏の新築分譲マンションの平均価格は6,511万円で、2年ぶりに上昇しました。

地域別でみると、駅近タワーマンションの供給が続く埼玉県が5,887万円と、前年の同じ期間と比べて19.4%の上昇。東京23区は8,091万円で前年同期比で0.6%の上昇、東京都下は5,418万円で0.6%の上昇、千葉県は4,727万円で4.2%の上昇となりました。一方で神奈川県は5,343万円で前年同期比1.7%の減少。これは駅近の大型・高額物件の供給が減少したことに起因するとしています。

都内で働く会社員の平均年収595万2,000円(厚生労働省令和2年賃金構造基本統計調査』)ですから、新築マンション価格は平均年収のおよそ13.6倍。「勤務地から比較的近いエリアに新築マンションを買う」という一見当たり前の行為も、東京23区内に限っていえば現実的ではありません。

では、なぜ東京23区を筆頭にここまで価格が高騰しているでしょうか。人件費や資材価格の高騰などいくつか理由は有りますが、大きな要因のひとつに「タワーマンションの増加」があります。

タワーマンションはその呼称に法的な基準、階数による定義などが存在しません。もっとも、建築基準法や消防法で、31m、60mと、建物の高さで基準が異なり、このうち高さ60m以上の建物が超高層建築物とする考え方が広まっていることから、高さ60m以上、階数にすると20階以上のマンションをタワーマンションと呼ぶことが多いようです。

日本で初めてできたタワーマンションについては諸説ありますが、前述のタワーマンションの定義による、日本第1号のタワーマンションが誕生したのは、埼玉県さいたま市。旧与野市1976年に誕生した「与野ハウス」とされています。高さ66m、21階建て、総戸数463戸の大規模マンションです。

その後、1997年に建築基準法の改正で共用部分が容積率算出上の延床面積に算入されなくなったことや、日影規制の緩和などにより、人口集積地域にもタワーマンションの建設が可能となりました。今日では、駅前の再開発といえば、まずはタワーマンションというくらい、いたるところで建てられています。

地域のランドマークになりやすいことからも、今後も都心ばかりでなく、郊外でもタワーマンションは増えていくと考えられるなか、資産価値の暴落が危惧されているのはなぜなのでしょうか。

2020年代半ばから後半にかけて…待ち受ける「大規模修繕ラッシュ」

前述のとおり、1997年の建築基準法改正や、日影規制の緩和などを背景に、タワマンの建設が急増。首都圏では2003~2009年まで、年間50棟以上のタワマンが竣工していました。このように、タワマンは昔から一般的にあった建造物ではなく、生まれてから比較的年数が浅いため、修繕の技術が確立しているとは言い難いでしょう。

実はタワマンに限らず、新築マンションの長期修繕計画は、そこまで精度の高いものではありません。販売時の修繕計画は完成前の図面を元に計画が立てられたもので、実際のものとは誤差が生じてしまいます。

新宿区が2019年に区内タワマンを対象に行った調査によると、実に半数近いタワマンの管理組合が「修繕金が足りない」と回答。マンションによって異なるものの、おおむね15年に1度の修繕が推奨されているなか、十分な修繕が行えるかどうか不透明という物件が多い、というのが実態です。

また、タワマンとはいえ物件間の競争が激しいなか、新築時の修繕積立金を低く設定し、コスト的に有利に見せる販売手法は珍しくありません。これが結果的に「修繕金が足りない」という事態を引き起こしているのです。

なかには大規模修繕のための積立が足りず、40万円以上の一時金徴収が必要になった物件や、1回目の大規模修繕が終わった後、修繕積立金が大幅に値上げされ、これまでの22,000円が倍以上の50,000円となった物件もあるといいます。

さらに、タワマンといってイメージされるのが巨大な立体駐車場やスポーツジム、カフェ・バーなどの、充実した共用施設でしょう。一見魅力的なメリットに感じる人も多いでしょうが、それらは販売価格や維持管理費にしっかりと反映されています。駐車場はまだしも、スポーツジムやカフェ・バーなどは、自分にとって本当に必要か……もし購入を検討する場合には、一度冷静に判断する必要がありそうです。

〈資産価値〉という魅力が生んだ悲劇…「投資家オーナー」の問題

修繕積立金の問題が懸念される一方、住民の多くは資産に余裕のあるお金持ちであり、これら維持管理費の高騰にも対応可能です。しかし、管理がしっかりと行われ、住民の総意のもと修繕が行われればいいのですが、ここにもタワマン特有の問題が潜んでいます。

タワマンは低層階では7,000〜8,000万円程度から購入できます。もちろん普通の会社員がこのような物件を購入することは簡単ではありませんが、いわゆるパワーカップルと呼ばれるような、共働きの高所得世帯であれば手の届く水準です。しかし、タワマンの高層階ともなれば、1億、2億、3億円……という世界。ちなみに2021年の販売最高額は「パークコート神宮北参道ザ タワー」(専有面積238.55㎡)の13億7,000万円。ここまで高いと、部屋や設備の想像さえも難しくなります。

このような高額物件を買えるのは一部の富裕層か外国人投資家のどちらかでしょう。特に、外国人投資家にとって東京の不動産は、諸外国の主要都市と比べるとずいぶんと安く、投資対象として魅力的に映るといいます。

こうした事情によって、1棟のタワマンには実に幅広い層の住人・オーナーが存在することから、修繕のための同意を得るのがどれだけ困難なことか……想像に難くありません。

また、日常の管理は委託先の管理会社が行うものの、トラブルや住民からの意見への対応など、管理上の意思決定は理事会が行います。しかし、事情の異なる多数の住人が存在するタワマンでは、そもそも出席者の定数が足りず、理事会や総会を開催できない組合も多いといいます。

管理会社は理事会による意思決定がなければ動けないことから、大規模修繕に係る住民の総意が取れない場合、ずるずると工事が行われないまま設備の老朽化を見過ごすほかありません。ちなみに不動産鑑定士によると、「理事会の機能不全」は資産価値を下げる大きな要因だそうです(※)。

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入居して数年が経ち、初めての大規模修繕が行われるタイミングで、そのマンションが抱える「リスク」に気づく人も多いといいます。満足な修繕ができず、問題も解決しないまま時が過ぎたら……タワマンの「資産価値大暴落」のカウントダウンは、すでに始まっているといえそうです。

(※写真はイメージです/PIXTA)