70代男性は、大学時代からずっと都内に生活拠点がありますが、実は出身地である北関東にかなりの不動産を相続し、保有しています。男性の相続人である2人の息子も、やはり生活拠点は東京であり、地方の不動産を相続させるのにはためらいがあります。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。

大学以降の生活拠点は東京へ、自宅に戻ることなく…

今回の相談者は、70代の島田さんです。地方に所有する不動産の相続について不安があると、筆者のもとに訪れました。

島田さんの妻は3年前に亡くなり、いまは40代独身の会社員の息子2人と自宅で同居しています。

島田さんの生まれ故郷は北関東で、都内の大学に通うためにアパート暮らしとなり、その後も東京の企業に就職したため、実家に帰ることなく通勤に便利な場所にアパートを借りました。結婚後は二男が生まれたタイミングでいまの自宅を購入し、40年以上その家に暮らしています。

つまり、生まれ故郷の実家には、大学入学以降戻っていないのです。

父亡きあと、母と同居してくれた2番目の姉

島田さんは3人きょうだいの長男で、姉が2人います。姉2人も結婚で家を離れたため、島田さんの両親はずっと2人暮らしでした。

島田さんの生まれ故郷は、海も山も近いのどかなところです。父親は教職に就いていましたが、もともと地元の地主の家系で、自宅のほか、賃貸物件、農地、山林等も所有しており、畑で野菜や果物の栽培もしていました。

父親が亡くなったあと、母親がひとり暮らしになりましたが、そのタイミング子どものない下の姉が離婚することになり、母親との同居を申し出てくれました。

独身の息子たちに、地方の不動産を相続させるのは無理

島田さんは実家を離れていますが「不動産は長男が引き継ぐもの」との両親の考えから、父親の所有する不動産のほとんどを相続しています。地方都市のため、相続税などまったく気にかけていなかったそうですが、相続税を払う段になって1600万円もの納税額に愕然。大変な思いをしたといいます。

もしそのときに筆者のところに相談にきてもらえば、配偶者の特例など活かして納税を減らす方法があったのではと推察しますが、当時は節税という観念がなく、失敗したといっていました。

「私ももう70代半ばになりました。次は自分の相続ですが、いまのうちになんとかしておきたいのです」

現在、実家は二女である下の姉が住んでいるため、維持できています。しかし、その姉もすでに80代で、万一亡くなれば住む人がいなくなります。島田さんもすでに70代半ばであり、自分亡きあとについて考えなければなりません。島田さんの息子2人は、自宅から数時間かかる祖父母の家に住んだこともなく、今後、住む気持ちもありません。

2人の息子に相続させて管理・維持ができるのかといえば「とても無理」というのが島田さんの出した結論でした。

実家不動産評価は1億円、速やかに対応の決定を

島田さんの財産評価ですが、土地が多く、故郷の土地だけでも1億円近くの評価となり、相続税1000万円ほどかかります。なかには、宅地や貸家など、今後も活用する価値のある土地も含まれています。

筆者は税理士を交えた打ち合わせの席を設け、話し合いました。その結果、現地に住む予定がないのであれば、現在暮らしている姉の生活拠点は守ったうえで、島田さんの判断で売却に着手し、資産を組替えをスタートしたほうがいいとの結論に至りました。そのほうが2人の子にとっても負担がないですし、家賃収入が入る財産に変えたほうが安心です。また、土地を賃貸建物にすることで時価の30%程度の評価に変わり、相続税の負担も減らせます。

故郷の土地の売却・資産組替提案したところ、島田さんも納得され、速やかに売却の準備に取り掛かっています。

かつて、土地は重要な財産でしたが、いまの時代、活用しない・活用できない土地では、その価値も半減してしまいます。島田さんが実家で生活していたときとは状況が異なるのです。「役割を終えた土地」は処分し、活用してもらえる人に譲渡していくことが、求められるようになったのだといえます。

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

(※写真はイメージです/PIXTA)