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 恐竜と聞いて真っ先に思い浮かべるのが「ティラノサウルス」と言う人も多いだろう。獣脚類の中で史上最大級の体格を持ち、噛む力は驚くほど強かったと言われている。

 だがその生態は未解明な部分も多く、相反する様々な説が次々と登場し、議論が絶えない恐竜でもある。

 最近の研究によると、ティラノサウルスが圧倒的な噛む力を発揮できたのは、体に反して目がものすごく小さかったからだ、という説が浮上した。

 『Communications Biology』(2022年8月11日付)に掲載された研究によれば、その力は、眼窩が狭く進化したおかげで、巨大な顎を発達させられたことが鍵だったかもしれないそうだ。

【画像】 大型肉食恐竜は進化によって目が小さくなった

 ティラノサウルスの咬合力は3万5000ニュートンと言われている。硬い骨を砕くために、我々人間の100倍以上の力で噛むことができたと考えられている。

 イギリスバーミンガム大学のステファン・ローテンシュラガー氏らは、恐竜時代の化石410点(恐竜やワニの親戚を含む)の眼窩(がんか:眼球の収まる頭蓋骨のくぼみの部分)を比較してみた。

 するとほとんど種(特に草食動物)は、眼窩が円形であることがわかった。

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 ところがティラノサウルスのような頭蓋骨が1メートルを超える大型肉食恐竜は、楕円形か鍵穴のような形であることが多かったのだ。

 だが大型肉食動物であっても子供の場合、眼窩がより円形に近いので、成長するにつれて発達する特徴であるようだった。

 さらにティラノサウルスの祖先にあたる獣脚類(じゅうきゃくるい)のように、古い種になると眼窩がより円形である傾向もみとめられた。こうしたことは、大型肉食恐竜の眼窩が進化によって狭くなったらしいことを示唆している。

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ティラノサウルスの頭部と頭蓋骨の再現モデル。左) 眼窩の大きさを忠実に再現したもの、右) 眼窩を円形にして、目を大きくしたもの/Credit: Dr Stephan Lautenschlager, University of Birmingham

眼窩が狭いほど強く噛める

 このように眼窩が狭く進化した理由を知るために、その形状が咬合力(こうごうりょく:噛む力)に与える影響がシミュレーションされた。

 すると鍵穴のような眼窩を持つティラノサウルスの頭蓋骨は、噛み付いたときに変形しにくいことが判明した。

 眼窩が狭いほど、その後ろにある頭蓋骨の頑丈な部分に沿って力が分散されるため、受ける負荷が軽減されるのだ。

 「有限要素解析を用いた生体メカニカルモデリングは、この形状の場合、頭蓋骨をさらに補強することなく、食べるときの負荷を軽減・消散させることを明らかにしている」と、研究論文で述べられている。

[もっと知りたい!→]ほらやっぱりね!ティラノサウルスは羽毛でなくウロコで覆われていたことが判明(オーストラリア研究)

 その反面、そこに収められる眼球は小さくなる。シミュレーションモデルよれば、円形眼窩と鍵穴眼窩とでは、収納できる眼球の体積に7倍もの開きがあったという。

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噛んだ時に頭蓋骨にかかる負荷をシミュレーションしたもの。眼窩が狭いほど負荷が小さくなることがわかる。上) 円形の眼窩、下) 鍵穴型の眼窩/Credit: Dr Stephan Lautenschlager, University of Birmingham

 眼窩が狭くなれば、眼球を収めるスペースも狭くなる。だがその代わりに、顎の筋肉や頭蓋骨を補強するためのスペースは広くなる。

 つまりティラノサウルスは、大きな目と引き換えに、強力な噛む力を手に入れた可能性があるのだ。このことは恐竜の進化を形作った機能的なトレードオフを示しているそうだ。

References:How Tyrannosaurus rex traded small eyes for big jaws / written by hiroching / edited by / parumo

 
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ティラノサウルスは噛む力と引き換えに極小の目になった