夫婦円満な生活を送るためにも、できれば事前にトラブルの芽は摘んでおきたいものです。そこで、年間100件以上離婚・男女問題の相談を受けている中村剛弁護士による「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」をお届けします。

連載の第13回は「パートナーが不倫、探偵に依頼すべき?」です。パートナーの不倫が発覚した場合、探偵に依頼して決定的な証拠をつかみ慰謝料請求しようと意気込む人も多いかもしれません。

ただ、依頼する前に冷静に検討すべきポイントがいくつかあります。中村弁護士は「不貞行為に基づく慰謝料を請求するために、そもそも、本当に探偵に依頼する必要があるのか。探偵をつけることにより不貞行為の証拠を得ることができるか。きちんと見極める必要がある」と呼びかけます。

●そもそもの「ゴール」をしっかりと意識する

「夫(妻)が浮気をしているんだけど、決定的な証拠がない…」。今回のコラムは、そんな状況の方のために、「探偵に依頼すべきか否か」についてお話ししたいと思います。

私は、不貞案件を多数扱っている関係で、探偵に依頼されているケースも多々見てきました。それで、うまくいったケースもありますし、逆にうまくいかなかったケースもあります。

どのような場合に探偵に依頼すべきか否か、探偵に依頼したとしても、いくらまで費用をかけていいかについてお話したいと思います。

(1)基本的なゴールは「不貞行為に基づく慰謝料を請求すること」

「探偵をつけたい」と考えたときに、まず考えるべきは、「ゴールは何なのか」をしっかりと意識することです。

基本的なゴールは、「不貞行為に基づく慰謝料を請求すること」になります。ここをしっかりと認識しなければなりません。

不貞行為に基づく慰謝料請求がゴールということは、かけることができる探偵費用は、「裁判で認められる慰謝料額-裁判にかかる費用(裁判費用や弁護士費用)」までということになります。それを超える額をかけてしまった場合、足が出ることになってしまい、かえって損をしてしまいます。

(2)「離婚をすること」は多くの場合でゴールにならない!

似ているけど、多くの場合でゴールにならないのは、「離婚をすること」です。ここを間違えないようにしなければなりません。

よく説明されるのは、「不貞行為は法律上の離婚原因(民法770条1項2号)にあたるので、不貞行為の証拠をきっちり取った上で離婚しましょう!」というものです。不貞行為が法律上の離婚原因にあたるという内容は間違っていないのですが、そのために不貞の証拠を獲得する必要があるか否かというのは別問題です。

そもそも、法律上の離婚原因とは、「相手が嫌だと言っていても、強制的に離婚するために必要になるもの」です。こちらが離婚を切り出したときに、相手が応じてくれるのであれば、そもそも法律上の離婚原因など不要です。

それ以前から、夫婦関係が悪化していたのであれば、こちらが離婚を切り出せば相手も応じることが多く、法律上の離婚原因など問題になりません。また、仮に切り出した当初は、相手が離婚を拒否していても、別居し、調停が申し立てられてある程度期間が経ってくると、こちらの離婚の意思が固いことが伝わり、相手も最終的には離婚に応じるとなるケースが多いです。

私は、数多くの離婚事件を扱ってきましたが、法律上の離婚原因が問題になったケースは、全体の1割にも満たないくらいです。それ以外は、単に条件(財産分与や親権など)が合わないだけで、離婚すること自体には同意しています。

そのため、離婚をするために不貞の証拠を獲得する必要があるというケースは、あまり多くありません。

ただし、例外があります。それは、相手よりも自分の方が収入が多い場合です。この場合だと、別居した後、離婚が成立するまでの間、自分が婚姻費用を支払わなければなりません。婚姻費用は、収入が高い方から低い方に対して支払われるものですので、自分の方が収入が高い場合、別居後、相手に生活費として婚姻費用を支払わなければなりません。

もっとも、相手が不貞行為をしていた場合、相手方は婚姻関係が破綻した責任のある配偶者である「有責配偶者」にあたり、その場合は、相手方からの婚姻費用(養育費部分は除く)の請求が信義則に反して許されないというのが判例ですので、相手の婚姻費用の請求を防ぐために不貞行為の証拠を確保する、というのはあり得ます。

(3)財産分与や婚姻費用・養育費を請求するためでもない

また、不貞行為の証拠を突きつけることにより、財産分与や婚姻費用、養育費などの離婚交渉が有利になるかというと、そこまで関係ありません。

あくまでも不貞の証拠により得られるのは慰謝料のみであり、財産分与や婚姻費用、養育費などには影響しないケースの方が多いです。財産分与は、基本的に基準時(多くの場合、別居時)における夫婦の財産を2分の1ずつ分けることになりますし、婚姻費用・養育費は、基本的には双方の収入により決まるので、いずれも不貞行為の有無は関係ありません。

そのため、財産分与や養育費を多く獲得したいがために、不貞行為の証拠を掴もうと躍起になっても、無駄に終わってしまうことが多いです。

(4)「離婚をしたくない」なら不貞行為を突きつけることはオススメしない

たまに、「不貞行為の証拠を突きつけて、不貞がバレていることを知らしめて、恋人と別れさせたい。ただ、自分は離婚するつもりはなく、婚姻関係を継続したい」と考え、そのために探偵を使って不貞の証拠を掴もうとされる方がいます。しかし、私としては、これはお勧めできません。

不貞の証拠を突き詰めれば、相手が観念して不貞相手と別れ、自分のところに戻ってきてくれるかというと、残念ながらそういうケースは多くありません。むしろ、不貞行為が発覚したことにより、相手は反省するどころか開き直って大げんかとなり、別居に至るケースが多々あります。場合によっては、その不貞相手の方を選び、その後堂々と交際するというケースも少なくありません。

もし、まだ別れる覚悟がないのであれば、基本的には不貞行為の証拠を突きつけることはお勧めできず、当然のことながら、探偵をつけることもお勧めできません。

●本当に探偵に依頼する必要があるか?

以下では、探偵をつける目的が「不貞行為に基づく慰謝料を請求するため」であることを前提にお話しします。

この目的を前提に、次に考えるべきは、そもそも、「本当に探偵に依頼する必要があるのか?」ということです。理由は、以下のとおりです。

(1)探偵を使わなくても証拠が取れるケースもある

不貞慰謝料請求を行うために、例えばラブホテルに2人で入っている写真のような決定的なものが必須かと言われると、必ずしもそうではありません。

ある程度、不貞の証拠(LINEのやりとりなど)を集めた上で、相手に突きつければ、観念して相手が不貞行為を認めるケースも多々あります。相手が不貞行為を認めてくれるのであれば、探偵を使って証拠を獲得する必要はありません。

もちろん、相手が観念して不貞行為を認めるか否かは、実際に突きつけてみないとわからず、一度突きつけてしまったら、その後は相手に警戒されてしまい、証拠が取れなくなってしまうというリスクがあります。しかし、この場合は費用がかかりませんので、試してみる価値があるケースはあります。

探偵を使わなくてもうまく行きそうか否かは、探偵を依頼する前段階で持っている証拠や、相手の性格などを考慮した上で、総合的に判断して依頼するか否かを決定するのがよいと思います。

(2)本当の争点は「慰謝料」ではないケースも多い

上記のとおり、探偵に依頼することの目的は、基本的には、あくまでも「慰謝料を請求するため」ですが、その金額はそれほど多額にはなりません(詳しくは後に述べます。)。

これに対し、財産分与や婚姻費用、養育費は、不貞行為の有無に関係なく決まるものです。そして、財産分与や婚姻費用、養育費の方が、遥かに高額になるケースも少なくありません。

例えば、財産分与で1000万円以上が見込めるようであれば、慰謝料の100150万円程度を獲得することよりも、よほどそちらの方が重要になります。そのため、躍起になって不貞の証拠を掴む必要がないということもあります。

●探偵費用としてかけていい金額は?

探偵に依頼する必要があるとなった場合に、次に問題となるのは、「いくらまで探偵費用としてかけていいのか」ということです。探偵費用としてかけられる金額は、裁判所で認められる可能性がある金額から、裁判にかかる費用を控除して逆算して決めることになります。

まず、判決で認められる金額はどれくらいになるのでしょうか。もちろん、事案や状況により異なりますので、一概には言えないのですが、一般的に「100300万円程度」とよく言われています。

しかし、少なくとも現在の東京地方裁判所では、200万円を超えるケースはどちらかというと例外的なケース(例えば、不貞期間が5年以上など比較的長期間のケースや、不貞相手から配偶者に対して挑発とも捉えられるような行為が行われたケースなど)で、もっと低い金額となってしまうケースも多々あります。

したがって、想定される慰謝料額は、若干低めで考えなければなりません。探偵事務所から「これくらいは慰謝料がもらえますよ!だからこれくらいの費用をかけても大丈夫です」と言われることもありますが、弁護士から見ると過大だと思われることも少なくないので、探偵に依頼する前にきちんと弁護士に確認した方がいいと思います。

そして、裁判を行う上では、裁判費用、弁護士費用が必須になりますが、弁護士により異なるものの、50万円前後(着手金・報酬金・実費合計)はみておいた方がいいと思います。 そうだとすると、仮に裁判所で認められる慰謝料額が150万円、弁護士費用が50万円だとすると、残りは100万円程度になります(事案によっては、もっと低くなってしまう可能性もあります)。

ここから逆算すると、私が探偵費用にかけていいと考えているのは、原則50万円、できれば30万円までだと思っています。それくらいであれば、裁判所で認められる金額(150万円程度)から裁判にかかる費用(50万円前後)を差し引いたとしても、また、判決で想定していた金額より低い金額しか認められなかったとしても、赤字にならない可能性が高いでしょう(それでも、手残りは50万円程度です)。

逆に、これを超えてくると、赤字になってしまう可能性が相当程度あります。私が扱ったケースでは、探偵費用として100万円以上かかったケースも少なくなく、最終的に赤字になってしまった人もいました。なお、「探偵費用も裁判で請求できる」と説明されるケースもありますが、探偵費用は、裁判で請求しても認められないケースの方が多いです。

●探偵費用50万円でできる調査は?

では、探偵費用50万円程度でどれくらいの調査ができるのでしょうか。もちろん、探偵事務所によって費用は異なりますが、通常、2名の調査員体制で、1時間あたり1~2万円前後(諸経費は別途)くらいが多いのではないかと思います。

1日5時間程度の調査で5~10万円(+税)前後です。2~3日程度の調査で、2~30万円(+税)程度です。相手の住所も突き止める必要があるケースもあるので、諸経費や税金なども考えると、せいぜい調査できるのは2~3日程度と考えておいた方がいいと思います。

逆に言えば、これくらいの調査で証拠が取れなさそうであれば、探偵に依頼しない方がいいと思います。

●探偵をつけることが効果的なケース、効果的ではないケース

次に、問題となるのは、「探偵をつけることが効果的か否か」です。より具体的に言えば、「探偵をつけることにより、不貞行為の証拠を得ることができるか」です。

私の今までの経験では、(1)既に不貞を疑っていることを相手に気づかれている場合と、(2)いつ相手が不貞をするかわからない場合は、探偵をつけることが効果的とは言い難いように思います。

(1)のケースは、既に不貞を疑っていることを相手に気づかれているため、相手方の警戒心が強くなってしまっています。そのため、証拠が取れない可能性が高いです。

また、(2)のケースでは、調査時間が膨大になり、とても予算内では収まりません。上記のとおり、調査できるのは2~3日程度ですので、無駄な予算を使っている余裕はありません。そのため、探偵を利用する場合は、ある程度行動パターンを事前に調査した上で、ピンポイントで使う方が効果的です。

以上、探偵に依頼して証拠を獲得するのは、あくまでも「慰謝料を請求するため」であることを忘れず、本当に探偵に依頼する必要があるか、そのためにどこまでの費用をかけられるか、どのように依頼すれば効果的かをきちんと見極める必要があります。

そのためには、探偵に依頼する前に、離婚や不貞事件の経験豊富な弁護士に相談することが大切で、その弁護士の意見を聴きながら進めるのがよいと思います。

(中村剛弁護士の連載コラム「弁護士が教える!幸せな結婚&離婚」。この連載では、結婚を控えている人や離婚を考えている人に、揉めないための対策や知っておいて損はない知識をお届けします。)

【取材協力弁護士
中村 剛(なかむら・たけし弁護士
立教大学卒、慶應義塾大学法科大学院修了。テレビ番組の選曲・効果の仕事を経て、弁護士へ。「クライアントに勇気を与える事務所」を事務所理念とする。依頼者にとことん向き合い、納得のいく解決を目指して日々奮闘中。
事務所名:中村総合法律事務所
事務所URLhttps://rikon.naka-lo.com/

不倫されたら、探偵に依頼すべき? 検討するポイントを徹底解説