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外装 隙無く緻密な構成

日産が2010年に、初めてのEVであるリーフを発売してから約12年が経過した。

【画像】日産アリアのテスト走行【すべての写真をみる】 全31枚

現在、日産が生産しているEVは3車種に増え、軽専用のサクラ、販売の王道であるリーフ、そして、今回発売されたフラッグシップモデルのアリアである。

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日産アリア    戎大介

アリアにかける日産の思いは、この12年間のEV販売で培われた知見を全て投入した自信作であることを、発表会でも表明していたことからも理解できる。

では、近年、多くのメーカーが発売を開始した新型EVに比べ、どの程度のアドバンテージがあるのか、実際に試してみることにした。

わたしのガレージに到着したアリアは、ステルスグレーという、ややパステル調が入った濃いめのグレーで、名前とは裏腹にとても感じが良い。

ボディサイズは4595(全長)×1850(全幅)×1660(全高)mmであるが、実際よりもかなり大きく見える。全長に比べ車室の占める割合が大きいから、そう感じるのかもしれない。

デザインは、リーフ以来のイメージを踏襲した、あえて言えば恐竜由来のデザインテイストで、フロント部分では、グリルの開口部がサイドに深く切り込んでいる形状である。

しかし、ライン的には不自然さは無く、そのままサイドからリアにかけて隙の無い、緻密な面構成を作り上げている。

実際、完成度のレベルはかなり高いと思う。しかし、それと、好き嫌いはまた別の問題で、もう一段、味が欲しいと思うのは、欲目であろうか。

内装 使い勝手に疑問も

実際にクルマを目の前にすると、まず驚くのは、各パネルの合わせが見事なことである。

これだけ、チリがピッタリ合った日産車を見たのは始めてで感動した。

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ハザードは水平面にスイッチの面があるので、ドライバーの位置からは視認性が悪いと感じた。    笹本健次

しかし、その一方、内装の仕上がりは、やや残念なところも見受けられた。

ダッシュボードの下部に、横一線にゴールドのラインが入っているが、それが、各スイッチと連動していて上下に動き、ガタガタの線になってしまっていて誠に醜い。

なぜ、1本のラインを引く必要があるのか、良く分からない。

また、ハザードは水平面にスイッチの面があるので、ドライバーの位置からは視認性が悪く、咄嗟の時に迷ってしまう。

あくまでも個人の趣味の問題だが、オプションで付いていた石庭調のフロアカーペットはあり得ないと思う。

更に、グローブボックス周辺のブロック類も、プラスチックの合わせが悪すぎで、あの素晴らしい外装で、なんでこのレベルの内装なのかと思ってしまう。

とにかく、もう少し内装に力を入れたら、更に素晴らしいクルマになるのは間違いない。

バッテリー 国際基準に達するが課題も……

バッテリー容量は66kWhで従来のリーフの40kWhに比べれば、かなり強力だ。

しかも、91kWhの高出力なB9仕様も用意されているので、ようやく国際基準のレベルになったと思う。

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ガレージに設置されているポルシェの8kW(200V×40A=8kW)の充電器を使用しても、アリアの場合は、6kW分しか流れないという。    戎大介

しかし、当家のガレージに設置されているポルシェの8kW(200V×40A=8kW)の充電器を使用しても、アリアの場合は、6kW分しか流れないという。

実際に接続してみると、31アンペア程度(本来なら30アンペア以内で200V×30A=6kW)が常時流れていたので、その通りで、もし可能なら、6kWの制限を外してもらえば、より早く、充電が可能になるはずだ。

仮に、これまでリーフを使用しているユーザーがアリアを購入するなら、この際、6kWの充電器にバージョンアップすることをお勧めする。

もちろん、新たに購入するのなら6kWは必須だと思う。まして、この冬に発売予定のB9であれば、ますます従来の3kWの充電器はありえない。

理論上、66kWhのバッテリーを3kWの充電器で満充電にするには、22時間もかかってしまう。

無論、6kWなら半分の11時間で済むし、8kWなら8時間程度で終了する。

これなら、夜、帰宅してから充電を始めても、翌朝には満充電に近くなっているはずだ。

よく、メーカーやディーラーの広報の人が、足りない場合は急速充電と併用すればよい、とおっしゃるが、この方は、自分でEVを所有したことがないのは明白で、EV生活の基本は、夜間(あるいは時間のある時に)に普通充電器で充電することの繰り返しで完結すべきであり、急速充電器は、遠出や充電器の無い時などに使用すべきものであろう。

急速充電での対応は、90kWの場合がよく語られているが、現実には、残念ながら設置は非常に少なく、殆どが50kWである。

とすると、精々150km分程度しか充電できないことになるので、30分待つことを考えると割に合わない気もする。

いずれにしても、購入者が、自分のクルマの使用状況にあったEVを選択することが大切である。

日産が今後、アリアクラス、或いは、これ以上のクラスのクルマを生産する場合、充電インフラをどう考えてゆくのか、ぜひ、知りたいところである。

高速道路 剛性感強くストレス無し

さて、実際にステアリングを握ってみる。

操舵力はかなり軽めで最初やや戸惑うが、慣れると、的確な切れ味に納得する。

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気持ちよく飛ばした代償は大きく、僅か112kmしか走っていないにもかかわらず、179km分の電力を消費し、残電気は63%となった。計算すると4.58km/kWh。    戎大介

ボディの剛性感は高く、段差やうねりは、とてもうまくいなしてくれる。

特に中央高速では、普段のポルシェ・タイカンと殆ど同等の走りをしてもまったくストレスがない。

おそらく、他の国産のPHEVでは、エンジンキャパシティが小さいので、一定の回転数を超えるとかなり煩いが、EVではモーターの唸りが僅かに高まるだけで、とても安定した走りが得られる。

検討を要する点としては、シートホールドをもう少し良くしてもらいたい。

現状では包み込む感覚が薄く、また、室内のミラーは、デジタル表示でも反射が入って二重像のようになり視認性が悪かった。

スイッチ類は、ワンタッチの操作が少なくやや煩雑である。ワンペダル仕様は、不自然ではないが常用する気にはなれなかった。

甲府に到着して充電してみると、気持ちよく飛ばした代償は大きく、僅か112kmしか走っていないにもかかわらず、179km分の電力を消費し、残電気は63%となった。計算すると4.58km/kWhである。

更に満充電にした時の走行可能距離は396kmから340kmへと大幅に減少した。

メーカーの発表している走行可能距離は、最大470kmなのでこの乖離は大きい。

要するに、気持ちよく飛ばせば燃費が悪化するのは、EVであろうが内燃機関であろうが一緒で、あえて、EVだからといって、走り方を変えるのは絶対にやりたくないことである。

ごく普通にいつも通り走ってみて、どんな具合なのかをレポートすることに意味があると思っている。

因みに、後述するように、三津浜への往復では、走行可能距離は387kmまで復活した。

峠道を走って 実燃費は?

峠で走った時の燃費はワーストで4.28km/kWhとなり、ベストは、東名高速道路を使用して、沼津市三津浜の、太宰治ゆかりの安田屋旅館まで往復した際の5.69km/kWhであった。

峠での走りは、ESPがスムーズに効いてくれて、気持ちよい走りが可能で、回り込んだコーナーなどでも、同じ姿勢を保ったままきれいに回ってゆくことができる。

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峠で走った時の燃費はワーストで4.28km/kWhとなり、ベストは、東名高速道路を使用した際の5.69km/kWhであった。    笹本健次

後席からの声としては、広々としていてまったく問題がない、というご機嫌な報告が上がってきた。

今回の試乗のトータルの燃費については、約2週間、819kmを走って、その充電時間の合計は6kWの充電環境で31時間27分となった。

計算してみると総燃費は4.31km/kWhということになる。

アリアの価格は、539万円であるという。

試乗車は、特別塗装やパノラミックルーフなどのメーカー・オプションが76万2300円、ドライブレコーダーや石庭調のフロアカーペット(わたしなら絶対に欲しくない)などのディーラー・オプションが16万4432円で、合計631万6732円となった。

アリアの対抗車は、メルセデスのEQA(733万円)やボルボのXC40リチャージ(579万円)、BMW i3(560万円)、i4(750万円)、アウディQ4 40 eトロン(599万円)などになるだろう。

これらの輸入車と比べても、アリアは、商品としての競争力は十分にあるし、お勧めもできる。

あとは、もう一押しのブランド力を何で見せるか、だろう。


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