◆日常生活に必要な、住民票も保険証も持つことができない

 日本が難民条約を結んでいる先進国の中で「あまりにも難民認定率が少ない」と言われているのは周知の事実である。認定されなければ、本人はいくら母国が危険だと訴えても送還される場合もあるし、いつ入管に無期限収容されるかわからない。ビザが与えられなければ、その国で生きていくための権利は望めず、苦しい生活を強いられることになる。

 それは、彼らの子供たちも同じである。子供は生まれる場所を選ぶことができない。本人の意思とは関係なく、親の事情により連れてこられたのだ。日本語を母国語として日本社会の中で育ったにもかかわらず、外国籍でビザのない子供たちは、日本人の子供たちと比べてまったく権利を持っていない。

 仮放免者たちの状況がさらに厳しくなったのは、2012年の「在留カード制度」が始まってからだ。これ以前は、仮放免の立場でも外国人登録証という身分証を持つことはできた。しかし仮放免者の管理を、市町村ではなく入管が一括で行うことになった。これによって身分証が持てなくなった彼らは、自分を証明するものがなくなってしまった。住民票がなければ当然、保険証を持つことすらできない。

「自分たちは日本にいるのに、いないみたいで、まるで幽霊のようだ」と落胆する声は多かった。

 ビザを持たない子供たちが背負う苦悩は、まだまだこれだけではない。

 子供が保険証を持てないということは本当に残酷だ。親は働くことを許されず、当然、貧しい生活を送っている。子供の体調が悪くても、ある程度なら病院に連れて行かずに我慢させてしまう場合もある。

 スリランカ出身で難民申請中のジョージさんには日本生まれの娘がいる。生まれた当初は入管により「仮滞在」とされていたが、2歳になったころには「仮放免」にされてしまった。仮滞在はビザ(在留資格)ではないが、難民申請の審査のため一時的に合法的在留を認める制度で、保険証を持つことだけはできた。しかし仮放免は「合法的在留を認めない」という意味なので、公的保険にすら入れない。

 日本で生まれても半年の特定活動ビザをもらう子供はいるが、その基準はあまりにも恣意的であいまいだ。半年のビザをもらったからといっても、それがいつ入管に取り上げられ、仮放免になるかわからない。すべては入管の裁量にゆだねられる。せめて日本生まれの子には国籍、それが無理でも何らかの安定したビザを与えてほしい。

「いくら外国人でも子供は子供でしょ? 日本で生まれているけど住民票がなくて、子供小さいから病気はいっぱいあるよ。一回、病院にかかれば(保険証がないから)1万円くらいかかるよ。市役所に保険証をもらえるようにお願いをしたが『できない』と断られた」

 ジョージさんは、やりきれない思いで語ってくれた。

都道府県を越える移動には許可が必要

 子供すら入管の許可を取らなければ自分の住んでいる都道府県県以外への移動はでない。入管の許可なしに仮放免者が都道府県を越えたと発覚した場合、入管は「許可条件違反」だといって仮放免を取り消し再収容することができる。今年3月に難民と認められずビザを失ったクルド人のトゥンチュさんは不安そうに語る。

「入管に、子供も自分の住んでいる県から出るのには許可が必要だと言われた。学校では県外への遠足や旅行がある。そのたびに東京入管まで出向くのは非常に不便だし、そんなことをもし学校に知られたら『あの子お父さんはいったい何をした人なの?』と変に思われてしまう」

 当然、「友人と遊びに行く」などの理由では許可など下りることはなく、不便な生活を強いられるしかない。

◆高校無償化も対象外

 子供たちはいつかビザを取り、家族みんなが日本で暮らしていけるために、勉学に勤しみ大学まで目指す子もいる。私立高校はお金がかかるということで、公立高校を目指すことが多いが、入学してからもまた大きな壁にぶち当たることになる。

 ビザのない子供は、就学支援金制度(いわゆる高校無償化)の対象外だ。日本人の子供とは違って支援金が出ず、授業料等がかかる(たとえば埼玉県の公立高校で年間25万円くらい)。さらに、高額の制服代などが上乗せされる。

 仮放免の状態であれば、生活が困窮している家庭がほとんどだ。大学に進学することでビザがもらえるケースがあるが、そこまでいくには並大抵のことではない。大学に行く可能性を、国の制度によって経済的に阻まれていると言える。

 入管では「学校に行ってもどうせ(母国に)帰るのだから意味がない」と酷い言葉をかけられ、意欲を失い学校をやめてしまう子もいた。その子は20代半ばになっても未だに仮放免のままである。就労許可もなく、働けないままでいる。

 埼玉県川口市にはクルド人の学生が多い。埼玉県財務課授業料奨学金担当に話を聞いてみた。

「仮放免の立場だと、住民票がない、つまり特定できる住所がないので就学支援制度の対象にはならない。これは国の定めている法律なので現時点ではどうすることもできない」

 なんともやるせない話である。

◆クルドの子供たちのメッセージ

 8月18~21日に、東京・高円寺でクルド人の子供たちの絵画展をやることになった。その絵に書いてあるメッセージは、

「仮放免じゃ、意味がない。ビザがほしい」
いじめは終わり」

 と、心が痛くなるようなメッセージが多い。子供たちは日本生まれでも、日本人と見た目が違うだけでイジメの対象になってしまうこともある。日本語が上手ではない親の変わりに筆者が教師や教育委員会にいくら訴えかけても、どうしても改善の様子は見られない。

 また彼らは、親や自分自身にビザがなく、日本にはいられない状態であることを子供ながらに理解している。子供は誰もが社会の大切な宝であり、未来への可能性を持っている。子供たちの未知の可能性を、大人たちが潰してしまってよいのだろうか。子供は誰もが健やかに成長してほしいものだ。この絵画展を多くの人に見に来てほしい。そして考えてほしい。
子供を守るのは大人の役目ではないだろうか。

写真・文/織田朝日

【織田朝日】
おだあさひTwitter ID:@freeasahi外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)、入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)