飲食チェーン「グローバルダイニング」が、東京都から受けた新型インフルエンザ対策特別措置法(特措法)に基づく時短命令は違憲・違法だとして、104円の損害賠償を求める訴訟の控訴審の第1回期日が8月16日、東京高裁であった。

原告側は期日前に、小池百合子東京都知事や政府コロナ対策分科会の尾身茂会長らの証人申請を行い、第1回期日で採否を決定するよう上申していた。しかし、高裁はこの日決定せず、今後の訴訟進行については10月25日までに都側が追加主張することとなった。

判決が年明けになる見込みとなったこともあり、原告側は「時短命令は違法」と判断した原審・東京地裁判決を早期に確定させることが社会的意義として重要と判断。期日終了後に控訴取下げの手続きをとり、本訴訟は地裁判決で確定することとなった。

期日後に開かれた会見で、グローバルダイニングの長谷川耕造社長は、「平常化に向けてやっと行政も動き始めた中で、(同社への時短命令は)違法という判決が確定するのはとても意義がある。今でないと意義が薄れるのではないか」と話した。

●「証人が採用される見込みは低い」と判断→控訴取下げ

地裁判決は、時短命令は違法と判断しつつも、都知事が今回の時短命令を発出するにあたって過失があるとまではいえないとして、職務上の注意義務違反を否定し、国家賠償法に基づく損賠請求を認めず、原告の請求を棄却した。

控訴審では、この「都知事が職務上の注意義務に違反したかどうか」という点を追及すべく、原告側は、原審で採用されなかった小池都知事らの証人申請を控訴審でも再度請求していた。

長谷川社長も「過失がないというのに証人喚問もしていない。個人的にはこの1点だけで控訴したいと思った」と話すなど、メインの争点になるとみられていた。

しかし、東京高裁は第1回期日で証人として採用するかどうかの判断を示さず、訴訟は都側の追加主張および原告側の再反論をする方向で進行。原告側の弁護団長をつとめる倉持麟太郎弁護士が都側の代理人に証人についての意見を尋ねたところ「不必要」との見解だったことから、原告側は「証人が採用される見込みは低い」(倉持弁護士)と判断したという。

「時短命令は違法」とした地裁判決を早期に確定させることが社会的意義として大きいとして、期日終了後に控訴取下書を提出。これをもって、グローバルダイニング訴訟は地裁判決で確定した。

●「判決を確定させるということが重要」

地裁判決が確定することについて、原告弁護団の水野泰孝弁護士は、「十分に社会的意義があると思う」と話す。

5月16日に地裁判決が出て以降、飲食店に対する要請・命令の必要性の議論は、いわゆる第7波以降もまったく出ていないと思います。それは『安易な命令を出せば違法』と判断されるという東京地裁の判決が出ているから、皆言及しなくなったのではないかと思います」(水野弁護士)

地裁判決を確定させるとの判断で控訴を取り下げたことについて、倉持弁護士は、「(判決が)まだ確定していない」「係争中の訴訟なので取り扱いが難しい」などとする行政や専門家の声があったことを例に挙げ、確定させることの重要性や確定せずに長期化することのデメリットに言及する。

「判決が確定しているかどうかをメルクマール(判断基準)にしている自治体や法律の専門家がいます。地裁判決が出たことで、一定の念力的な歯止めにはなったかもしれませんが、明確に行政実務に影響を与えるうえでは、判決を確定させるということが重要であるという認識でいました」(倉持弁護士)

憲法判断を求めていたにもかかわらず控訴を取り下げたことについて、倉持弁護士は、「日本の裁判所はなかなか踏み込んで(憲法)判断しない」と前置きしたうえで、高裁・最高裁で「憲法判断をするかどうか、地裁判決以上に違法性の判断をしてくれるかどうかは未知数」と話す。

「高裁や最高裁が憲法判断をしてくれる確率、今判決を確定させた場合の社会的意義、(地裁判決のあった)5月16日以降の行政の運営など全ての要素を、確率論バランシングすると、今確定させることがこの訴訟の社会的意義として一番有用なのではないかという判断をしました」(倉持弁護士)

判決確定の影響について、倉持弁護士は「今後政府や自治体の運営へ反映させることを期待している」と話した。

グローバルダイニング訴訟、控訴取下げ 「時短命令は違法」地裁判決が確定