オフィスのエアコンの温度設定を巡って、暑がりの人と寒がりの人の間で意向が食い違うことがあります。中には20度以下に設定を下げる人もいるようですが、上司が極端に冷房の温度を下げたり、逆に、猛暑なのにエアコンを使わせなかったりした場合、法的問題は発生するのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

極端な場合、安全配慮義務違反の可能性

Q.そもそもオフィスの室温について、法的な規制や目安はあるのでしょうか。

佐藤さん「オフィス(事務作業に従事する労働者が主として使用する事務所)の室温については、労働安全衛生法に基づき定められた『事務所衛生基準規則』で、『空気調和設備を設けている場合は、室の気温が18度以上28度以下および相対湿度が40パーセント以上70パーセント以下になるように努めなければならない』(同規則5条3項)と定められています。努力義務なので強制力があるわけではありませんが、多くのオフィスでは、規則で定められた範囲内で室温を調整しているものと思います。

また、2005年度からは、環境への配慮からクールビズが提唱されており、環境省が『適正な室温』の目安を28度と示したこともあって、多くのオフィスで高めの温度設定が実施されているように思います。ただし、環境省も示している通り、『28度』はあくまで室温の目安なので、建物の状況や室内にいる人の体調などを考慮しながら、具体的な設定温度を決めることが大切でしょう」

Q.夏場、冷房で20度以下にオフィスの室温を下げて、体の冷えで体調を崩した従業員がいた場合、上司や会社に法的責任は発生するのでしょうか。

佐藤さん「20度や19度といった程度では、法的責任が認められるケースは少ないように思います。先述したように、『事務所衛生基準規則』で『18度以上28度以下』という基準が定められているため、『18度以上』であれば法的責任が認められることは考えにくいでしょう。

仮に、18度未満に室温を下げ、それが原因で、従業員が体調を崩したことが明らかなケースでは、会社の法的責任が認められる可能性もあります。使用者労働者の健康や安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っており、極端に室温を下げることは、安全配慮義務違反と認められる可能性があるからです。

オフィスの室温管理をしていた上司や責任者などは、職場環境を悪化させた、または、その改善を怠ったとして、会社から注意や処分を受けることもあり得るでしょう」

Q.逆に猛暑の中、上司が冷房を使わせずに熱中症になる従業員が出た場合、上司や会社に法的責任は発生するのでしょうか。

佐藤さん「法的責任が認められることがあります。先述したように、使用者は安全配慮義務を負っています。エアコンがあるにもかかわらず、あえて使わせずに、暑い中仕事をさせ、従業員が熱中症になったのであれば、義務違反が認められ、会社が損害賠償責任を負う可能性があります。厚労省は、熱中症を予防するための事業者の実施事項を公表しているので、それを基準に予防策を講じることが必要です。

室温管理をしていた上司や責任者も、ケースによっては、賠償責任を問われることがあります。その他、会社内で注意や処分を受けることも考えられます。

また、労働安全衛生規則は『事業者は、暑熱、寒冷または多湿の屋内作業場で、有害のおそれがあるものについては、冷房、暖房、通風等適当な温湿度調節の措置を講じなければならない』と定めています(同規則606条)。

従って、風通しが悪いなど、健康を害する恐れのある作業場などにエアコンが設置されていない場合、従業員は使用者に対し、エアコンなどを設置するよう求めることができます。設置しないまま、従業員が体調を崩せば、先述したように会社の損害賠償責任を問うことができます。

なお、熱中症は、労災が対象とする疾病の一つでもあり、労災と認められるケースも多いです」

Q.寒さや暑さについて、上司や会社に訴えても改善されない場合、どういう手段が考えられますか。

佐藤さん「まずは、会社に相談することが大切ですが、改善が図られない場合には、労働基準監督署などに相談すると良いでしょう。全国に379カ所に設置されている『総合労働相談コーナー』(労基署などに設置)では、労働問題に関わるあらゆる相談を受け付けており、予約不要、無料で相談できます。事案に応じて、労基署の担当部署につないだり、法テラスなど他の機関の情報を提供したりしてくれます」

Q.職場の環境を巡って、裁判になった事例があれば教えてください。

佐藤さん「オフィス内の話ではありませんが、造園会社に勤務していた男性が、猛暑の中、屋外作業を行って、熱中症で亡くなってしまい、遺族が提訴したケースなどがあります。裁判所は、会社の安全配慮義務について、事案の性質を踏まえて判断するとした上で、厚労省熱中症予防に関する通達やマニュアルを考慮し、会社の安全配慮義務違反を認めました(大阪高裁2016年1月21日判決)」

オトナンサー編集部

オフィスの極端な温度設定、法的問題は?