パンデミックや紛争、エネルギーや資源の争奪戦など、すぐ先の見通しも立ちにくいこの状況下において、富裕層たちも資産防衛のため手を尽くしています。様々な選択肢が検討されていますが、ここでは海外のプライベートバンクを活用するメリットについて見ていきましょう。資産防衛のプロであるウエルスマネージャーが解説します。

日本に潜在する「3つのリスク」

海外に資産を配置する上でいくつかの候補地があることを解説しましたが(『「日本―ロシア開戦」シナリオの現実味…不測の事態での資産移転先、6つの候補【ウエルスマネージャーが解説】』参照)、本記事では「あえて海外のプライベートバンクを利用する」メリットについて、内容を絞って紹介したいと思います。

ここでの「海外プライベートバンク」という意味は、日本の法律下で設立・規制されていない金融機関という意味で、日本の法律や規制が直接及ばない金融機関、ということになります。

日本の金融機関にはないサービス

まずは海外のプライベートバンクには日本のプライベートバンクが提供していない様々なサービスがある、という点があげられるでしょう。以下簡単に記述します。

①グローバルスタンダードなサービス

海外のプライベートバンクは日本のローカル・ルールに縛られず基本はグローバルスタンダード、つまり世界の富裕層と同様のサービスが受けられます。特に投資信託などは昨今、外国籍のものは国内の金融機関ではなかなか購入することがむずかしくなっています。

世界の富裕層が利用するプライベートバンクのスタイルは大まかにいえば、アメリカか欧州標準の金融機関の2分されます。日本の標準はあくまでもローカルのもので、日本人以外は利用することはまずありません。

一方でアメリカや欧州の基準によるスタンダードは、世界中の富裕層が活用をしているもの、といえるでしょう。

②ヨーロッパ標準市場へのアクセス

アメリカ国内とは異なる米ドル建ても含む市場です。アメリカからみると規制が緩く、透明性にはやや欠けるといわれています。多くの劣後債やCOCO債等はこの市場で発行されています。さらには世界の金融市場で流通するオフショア・ファンドはこの市場で登録されていることになります。

③アメリカ標準市場へのアクセス

アメリカ市場はユーロ市場とはまた異なるもので、基本的にはそれぞれは乗り合いができないという特徴があります。また、アメリカ市場は投資家保護のために規制が厳しく、世界で最も洗練されている市場であるといえます。

④ロンバード・ローン(有価証券担保ローン)

アメリカや日本では、主に信用取引を目的としたローンとなります。つまり基本は株式で、あくまでもレバレッジを用いた投資目的の融資となります。

ユーロ市場での金融機関、例えばスイスシンガポールのプライベートバンクでは流動性の高い金融商品であれば、それぞれ掛目を設定して融資を受けることが可能となっています。

昨今の低金利もあり、レバレッジ効果を活用した投資が可能です。

これは目的を問わず純粋な融資を受けることが可能ですし、レバレッジ効果を利用した投資目的の融資も可能です。

⑤ヘッジ・ファンドやプライベート・エクイティへのアクセス

ヘッジ・ファンドやプライベート・エクイティに関しては米国では規制が厳しく100万ドルの金融資産を持ち、過去2年間の収入が20万ドル以上である必要があります。アメリカの多くのプライベートバンクではこういった商品を提供しない金融機関も多数あります。

スイスシンガポールではこれらの商品を比較的積極的に提供しています。

最低投資金額は10万ドルから50万ドルと金融機関と商品によって異なります。

有価証券売買等の諸経費やコスト

アメリカやシンガポールのプライベートバンクは全体的にコストが低いといえます。

一方スイスは非常にコストが高い、という印象があります。「スイスのプライベートバンク」にはブランドがあるため、そのプレミアム分高く設定されている、という印象です。この点には利用者はよく気を付けたいところです。

日本の様々なリスクからの隔離

日本の金融機関ではなく、わざわざ海外にある金融機関に口座を開き、そこに資金を入れて、運用や投資をすることにより、ある程度の日本に付随するリスクをやわらげることが可能です。

もちろん、日本に居住している個人として口座を保有するわけですから、日本に付随する物理的なリスクしか払しょくすることしかできません。つまり日本の金融システムなどが何らかの理由により、例えば長期にわたる停電、銀行に取り付け騒ぎが起こる、大きな金融危機が国内で生じるなど、機能不全に落ちるような状況等があり得るでしょう。

5000万円以上の個人海外資産は国に報告することが義務付けられているため、ただ海外に口座を開設して保有するだけでは日本のリスクの多く払拭することはできません。

多くのリスクを回避するにはもう一工夫する必要があるでしょう。

遠坂 淳一

株式会社 ジェイ・ケイ・ウィルトン・インベストメンツ 代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)