2022年は、日本の鉄道開業150年周年。新幹線1964年10月に開業してから60年近くが過ぎた。出張に、帰省に、旅行に、欠かすことのできない交通手段だが、よくよく考えてみると、さまざまな謎が次から次へと浮かんでくる。

 時速300キロで走る新幹線の窓は、小石が当たってもなぜ割れないのか? 北海道新幹線の先頭車両が長い理由は? そんな新幹線にまつわる謎の数々を解説した『最新版 新幹線に乗るのがおもしろくなる本』(著・レイルウェイ研究会)より、新幹線運転士在来線運転士では給料はいくら違うかなどを紹介する。

新幹線と在来線の運転士の給料は?

 厚生労働省の『賃金構造基本統計調査 令和元年』から推計すると、電車運転士の現金給与は、31.2歳で月30万円、賞与も含めた推定年収は518万円クルマの運転に自動車運転免許証が必要なのと同じで、電車の運転にも免許が必要だ。

 たとえば、JR東日本山手線電車の運転士は、「電気車」の運転免許保持者である。しかし、この運転士JR東日本が走らせている東北新幹線上越新幹線を運転することはできない。新幹線運転士には「新幹線電気車」の運転免許が必要だからだ。

 この免許取得には、在来線運転士が、JR社内での新幹線運転士募集があったとき応募し、社内試験に合格するのが第一歩になる。そこから新幹線運転士養成のための教習所で講習を受けて、新しい免許の交付を受けられるのである。

所有免許による給与差はない

レイルウェイ研究会
レイルウェイ研究会『最新版 新幹線に乗るのがおもしろくなる本』(扶桑社文庫)
 これだけの手順を経て初めて新幹線運転士になれるのだから、新幹線運転士のほうが、給料は高いと思われて当然だ。ところが、JR東海によれば、両方の運転士に所有免許による給与差はないという。両者が受け取る給与に差が出るのは、キャリアや評価による差はあっても、同じ年齢、同じ入社年度、勤務年数が同じなら、同じ給与額なのだそうだ

 もともと電気車の運転免許は、鉄道会社に入社後、駅務員、車掌と数年の鉄道業務を経験したのち、社内の教習所で運転訓練を受けて取得する国家資格だ。そのため、さらに新幹線電気車の運転免許をあわせて取得したといっても、階級に差が出るという種類の資格ではないのである。もちろん同じ電気車免許であれば、客車と貨車という列車の差があっても、給与に差が出たりはしない。

 また電気車運転免許が国家資格といっても、JR東日本の資格で、JR東海JR西日本の電車は運転できない新幹線電気車運転免許も同じ。JR東日本上越新幹線「とき」を運転していた人でも、JR東海の「のぞみ」の運転士にはなれない。ただJRの垣根を越えて運転士が他社の電車を運転しているケースもまれにある。たとえばJR西日本の新宮~紀伊勝浦間を走る「ワイドビュー南紀」のように、JR東海運転士に任されているようなケースである。

新幹線にタダで乗れるうらやまし~い人は?

新幹線

 1本の新幹線に乗務する乗務員の人数や交代するタイミングは、各列車によって決められていることをご存じだろうか。たとえば現在、東海道新幹線では、どの列車も運転士は1名である。運転交代を行なうタイミングも決まっていて、「のぞみ」「ひかり」の400番台(400号~499号)では、東京~新大阪間を1名が通しで運転するが、「ひかり」の500番台とすべての「こだま」は、名古屋で交代することになっている

 車掌についても決まりがある。かつては一般的な16両編成では3名が基本だった。車内を回って改札する乗務員、ドアの開閉など運転業務に携わる乗務員、そしてその車両すべてを統括する乗務員である。

 しかし近年、指定席の車内販売が廃止されたり、防犯カメラの設置が進んだりして負担が減ったことから、2018年より2名体制が基本となった。このように厳密に決められているはずの乗務員数だが、ときどき例外がある。運転室にもう一人運転士が乗ることがあるのだ

運転室に便乗する人のほうが多い

 この点について、JR西日本の広報部によると、「便乗」といって、運転士が移動手段として新幹線を使うことがあるのだという。たとえば、東京から新大阪まで臨時列車を運転したものの、翌日が休みだったり、早朝に東京発の乗務が入っていたりした場合、どうしてもその日じゅうに東京に戻らなければならない。そんなときに、この便乗が行なわれるのだ。

 さらに新幹線運転士だけでなく、在来線運転士が移動のために新幹線を使うこともある。ほかの列車が大幅に遅延したとき、遅延列車に乗務する運転士を少しでも早く移動させる必要がある場合などだ。運転室には補助椅子が用意されており、ほかの運転士の運転を見学しながら移動することになる。

 便乗だけなら車掌のいる乗務員室でもよさそうなものだが、車掌はアナウンスをしたりホームに出たりと、乗務員室内を頻繁に動くことになる。そのため、運転室に便乗しなければならないという決まりはないものの、車掌の邪魔にならないようにという気遣いからか、運転室に便乗する人のほうが多いという。運転のためではなく、移動のために乗るのであって、業務上の扱いとなるので、もちろん無賃である。

車内販売員のユニフォームどこまでが支給品?

車内販売

 車内販売員のスタッフは、JR各社と契約している車内販売会社の社員かまたはアルバイトだ。服装などについて厳しい規定があり、基本的には社員もアルバイトも同じユニフォームスタイルである。この制服は、どこまでが社からの支給品で、どれを自分で調達しなければならないのだろうか。

 これは社によって異なるようだが、最低でも制服一式と領収書などを入れて持ち歩く業務用バッグは、どこの社も貸与しているようだ。飲食物を中心に扱うスタッフに求められるのは、何より清潔感である。女性スタッフの場合、ロングヘアを丸めて「お団子」をつくるが、それにかぶせるネットまで支給する会社もある。制帽がある会社では、帽子は制服一式に含まれて貸与されている。

 靴とストッキングタイツは、最初だけ支給、あとは自前で補う、あるいは最初から支給しないというどちらかだが、たとえ自分で買うにしても色やデザインはあくまで清潔感が前提である。スタッフは、車内の通路を歩くだけでなく、始発駅や終着駅でホームや構内を歩くことになる。

 JR西日本エリアカバーしている会社では、寒さに備える冬用コートも制服一式の中に含まれているという。制服や防寒具の支給・貸与は想像がつくが、髪をまとめるネットまで貸与となるとは驚きだ。だがこれも、各社が車内販売を、乗客から注目される仕事だと位置づけている表れにほかならない。

運転士の鞄の中には何が入っているの?

 かつての国鉄時代には、抜きうちで運転士の持ち物検査が行なわれ、鞄かばんの中身を調べられたという。現代の新幹線運転士も、黒い鞄を決して手離さずにいつも抱えているが、あの中には何が入っているのだろうか。そういわれてみれば、たしかに気になる……。

 まずは、国鉄の在来線運転士たちが持ち歩くように定められていた品を挙げてみよう。奥西次男氏の『運転士(裏)運転手帳』によると、まず挙げられるのは、「運転取扱心得」「運転取扱細則」「電車乗務員作業基準」「運転内規」「故障応急処置基準」「故障処置基準」の小冊子で、これらはいわば規則集、マニュアル本である

 さらに、「運行ダイヤ」と、故障修理の要員を手配するための用紙である「電車故障通告券」「携帯電灯」も必ず鞄に入れておかなくてはならない。そればかりではない。列車が故障した場合に備え、「ペンチ」「自在スパナ」「ドライバー」「ナイフ」「麻縄」「白墨」「赤色旗」「軌道短絡器(信号を赤にするときに使う)」まで入れていたという。

 かなりの重量になるが、いつ持ち物検査があるかわからないので、運転士たちはすべてを鞄に入れて持ち歩いていたようだ。

秒刻みの業務になくてはならないモノ

新幹線 運転士

 現代の新幹線運転士の鞄はスマートな薄型タイプなので、国鉄時代ほど大量の物は入っていそうにないJR東日本JR東海に尋ねてみたのだが、保安管理上の理由で、中身すべてについての回答は得られなかった。だが、「運転に関する規定類」「運転マニュアル」「時刻表」は入っているそうだ。

 こうした持ち物の中で、運転士仕様につくられたものもある。そのひとつが時刻表だ。運転士が携帯する時刻表は我々一般人のものと違い、15秒刻みで記されている。我々にはうかがい知れないところでの緻密な努力があって、日本の新幹線の運行が守られていることがわかる。

 鞄の中身ではないが、秒刻みの業務をこなすために、なくてはならないのが時計である運転士が業務中に身につけているのは会社から支給された時計で、個人の私物ではない。鉄道の現場では、古くから懐中時計が使われるのが常だった。会社によっては今でも懐中時計を使用しているという。

TEXT/レイルウェイ研究会>

【レイルウェイ研究会】

子どもの頃、電車の先頭車両に乗り込み興味津々運転席を覗いていた気持ちをもったまま大人になった鉄道ファン集団。「鉄道は夢を運んでいる」を合言葉に、多くの人に鉄道の魅力を伝えたいと、幅広いネットワークを駆使して情報を発信。乗客の目線にこだわった情報収集力には定評がある