下馬評は横浜F・マリノス絶対有利ではない。『AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2022』ノックアウトステージラウンド16・ヴィッセル神戸×横浜FMの話である。『明治安田生命J1リーグ』で首位を走る横浜FMに対して、神戸は残留争いを強いられる16位。両軍が置かれた状況は対照的だが、あくまでリーグ戦の話だ。

サッカー界では「リーグ戦とカップ戦は別物」と言われている。事実、『JリーグYBCルヴァンカップ』ベスト4が4位セレッソ大阪、5位サンフレッチェ広島、7位浦和レッズ、13位アビスパ福岡なら、『天皇杯 JFA102回 全日本サッカー選手権大会』ベスト8はC大阪、広島、福岡、神戸に加えて、2位鹿島アントラーズ、14位京都サンガF.C.、『明治安田J2』11位東京ヴェルディ、13位ヴァンフォーレ甲府となっている。そもそも『ACL』グループステージでも日本勢で敗退したのは第8節終了時首位に立っていた川崎フロンターレのみ。グループ分けの運不運もあるが、2位横浜FMとともにリーグ戦で10位に甘んじた浦和、4分6敗と1勝も挙げていなかった神戸が勝ち抜けている。大会が変われば、状況が一変する可能性は十分ある。一発勝負となればなおさらだ。

戦況も横浜FM優位とは言い切れない。7月30日『明治安田J1』第23節・鹿島との首位攻防戦では37分にアンカー岩田智輝のカットから左ウイング・エウベル→CFアンデルソン・ロペス→エウベルのワンツーで一気にゴールを陥れると、51分にはFKのこぼれ球を岩田がミドルシュート一閃、相手DFに当たりゴールネットを揺らした。試合内容としては2-0のスコア以上の快勝で横浜FM天王山を制したのだった。

続く8月3日ルヴァンカップ』プライムステージ準々決勝第1戦ではフィールドプレーヤー全員を入れ替えて臨んだが、広島に1-3の力負け。7日・第24節では川崎Fに試合終了間際に劇的ゴールを決められて1-2、10日の『ルヴァンカップ』準々決勝第2戦では立ち上がりに先制点を献上するとともに、CB角田涼太朗が一発退場……。数的不利の中1点返すも1-2で逆転4強は叶わなかった。さらに8月13日の第25節・湘南ベルマーレ戦は台風の影響で中止。過密日程は避けることができたが、公式戦3連敗の嫌な流れを断ち切れなかった。

一方、神戸は吉田孝行新監督就任後、リーグ戦3連勝に『天皇杯』ベスト8進出と悪い流れを断ち切ったかに見えたが、7月下旬のリーグ再開後は再び暗転。7月30日・第23節・柏レイソルに0-1と『天皇杯』ラウンド16の借りを返されると、福岡との『ルヴァンカップ』準々決勝初戦はラストプレー大迫勇也のゴールで1点返すのがやっとの1-2。第24節・C大阪戦で0-3の完敗を喫すると再び最下位に転落、続く『ルヴァンカップ』も最後まで福岡の堅守を崩せず0-1で試合終了の笛を聞いた。

そんな中迎えた8月13日・第25節・北海道コンサドーレ札幌戦で、神戸は現状を打破した。20分、惜しいシュートを放った左ウイング汰木康也が8分後、ショートカウンターから先制点をマーク。前半終了間際にはFKの跳ね返りを強引にミドルシュートへ持ち込むと、相手DFに当たり追加点となった。守備でも最後まで集中力を切らさず1か月ぶりとなるクリーンシート。2-0で最下位から脱出した。

夏の連戦から解放されたが、公式戦3連敗中の横浜FMと今月5試合目の強行軍ながら前節の勝利が良薬となった神戸。どちらがアドバンテージを受け、どちらがビハインドを背負っているか、一概には言えないだろう。

8月17日に前日会見が実施された。その席で横浜FMを指揮するケヴィン・マスカット監督は前節が中止になった影響について、論じること自体が不毛だと口にした。
「湘南戦へ向けて準備をしていたが、中止となり、そのことについてどうこう言うつもりない。ファン・サポーターの安全が第一。自分たちでコントロールできることに集中している。場所や天候などはコントロールできないこと。そこにエネルギーを注ぐのは時間の無駄。今日はいい練習ができ、いい準備ができた」

CBエドゥアルド以外は10ゴールで得点ランキングトップタイのレオ・セアラに7得点のアンデルソン・ロペス、エウベルや2019年得点王のマルコス・ジュニオール、そして新加入のヤン・マテウスとアタッカーがズラリと揃う外国人選手の中からどの3人を選ぶか質問されるとこのように返答した。
「3人の枠は初めてのことではない。外国籍の選手だけではなく、選手たちを選ぶのは常に簡単な作業ではない。いいバランスが取れるよう選手起用を考えている。本当は選手全員を使いたいし、自分たちは全員を必要としている」

大会が変わっても自信は揺るがない。指揮官は「自分たちは自信を持ってここに来ている。みなさんに見せたいのはマリノスサッカー。明日ピッチ上で表現したい」とキッパリ。

監督の考えに喜田拓也主将も同意する。
「タフなGSを勝ち抜いて明日から決勝トーナメント。ここからはマリノスの歴史上見たことのない景色になるが、自分たちの力で新たな歴史を切り開いていきたいし、それだけの力があるチームだと思っている。明日はマリノスファイミリーの力を結集して試合に臨みたい」

『ACL2020』ラウンド16で水原三星(韓国)に2-3で敗れた悔しさは忘れてはいない。
「ベスト16で敗退した光景は忘れたことがない。強烈な悔しさを経て、それでも前を向いてみんなで進んできた。勝利のためにはピッチに立つ立たないは関係なく全員の力が必要。ACLかどうかは関係ない。やるべきは自分たちを信じてピッチに立つ、やることをやって結果を出すこと。必ず結果を出したい」

喜田は改めて歴史を変えていく自信と覚悟を口にした。
「歴史を変えるタイミングはそう何度もない。チームでやってきた準備を出し切りたいし、一緒に戦ってきた仲間と1試合でも多くやりたい。そのためには勝ち進むしかない。着飾る必要はない。この仲間を信じている。結果や相手にとらわれずに自分たちのことに集中し、堂々とピッチに立てればと思っている」

対する神戸も勝利を譲る気はさらさらない。
吉田監督「『ACL』という素晴らしい舞台でJリーグトップレベルのマリノスと試合できるのを本当にうれしく思うし、楽しみに思っている。我々としては勝って次へ向かいたいと思う」

大崎玲央「非常に楽しみだし、自分たちができると証明できる。まずは明日勝って次に進みたい」

吉田監督と大崎は「アグレッシブ」をキーワードに挙げた。
吉田監督「リーグ戦とは違う雰囲気だと思うが、自分自身経験していないので明日にならないとわからないところもある。トーナメントは勢い、立ち上がりの集中力、それにセットプレーがカギを握ることもあると思う。そういう意味でチーム一丸となって立ち上がりからアグレッシブに自分たちのサッカーをしていけるようにしたい。守備に関してもアグレッシブに奪いにいく姿勢が大事。リーグ戦だから、『ACL』だからではなく、チームとしてそういう姿勢を出すことが今後につながっていく。恐れず攻守にアグレッシブな姿勢を出していきたい」

大崎「『ACL』なので、リーグ戦の順位は全く関係ないと思う。マリノスはクオリティがありボールを持つことに優れたチームだと思うが、自分たちもクオリティがあると思っている。攻守にアグレッシブにできれば。一発勝負であるが、消極的になるわけではなく、積極的にいかないといけいない。ボールを持っている時、持っていない時、それぞれやり方があるが、できれば自分たちが主導権を持ってやっていければと思っている」

MFアンドレス・イニエスタ、FW大迫勇也、FW武藤嘉紀のコンディションを問われると、吉田監督はこう答えた。
「3人とも万全かと言われれば、多少痛みがあるかもしれないが、大迫、武藤は前節試合に出ているし、アンドレスも昨日合流している。試合に関しては問題ない」

直接対決の通算成績を見ると、横浜FMが28勝15分14敗と勝ち越し。ここ3試合はいずれも横浜FMが2-0で勝利している。3月2日の『明治安田J1』第10節は横浜FMが前節から8人、神戸は5人先発を入れ替えて対峙。14分2トップを組む小田裕太郎のパスを受けたFW武藤がGKと1対1になるも高丘陽平が好セーブすれば、29分ロペスのシュートはポストに嫌われる。互いに決定機を決められない中迎えた38分、左SB小池裕太の左CKを移籍後初先発したトップ下の西村拓真が滞空時間の長いヘッドで叩き込んだ。53分小田との1対1を再び高丘の好守でしのぐと、78分右ウイング水沼宏太の右クロスを西村が頭で合わすも、惜しくもクロスバーに弾き返される。試合終了間際にはボックス手前で水沼の横パスを受けた西村がディフェンスふたりをかわし、見事なコントロールショットでゴールネットを揺らしたのだった。殊勲の2ゴールを挙げた西村は「やっとマリノスファミリーになれてうれしい。日産スタジアムピッチに立てるのが誇り。エンブレムに恥じないようやっていきたい」と胸を張った。

果たして、準々決勝へ勝ち進むのはどっちか。『ACL』ラウンド16・神戸×横浜FM8月18日(木)・埼玉スタジアム2002にてキックオフ。チケット発売中。試合の模様はDAZNにて生中継。

取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)

【声出し応援適用試合】AFCチャンピオンズリーグ2022 ノックアウトステージ ラウンド16のチケット情報
https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=2228784&rlsCd=001&lotRlsCd=

喜田拓也(横浜F・マリノス)