デジタルカメラやスマートフォンなど、光学の原理を利用した機器の飛躍的な進歩・普及によって、誰もが手軽に写真や動画のイメージをつくり出せるようになった現在。東京・恵比寿東京都写真美術館では、10月10日(月・祝)まで、「イメージに形を与えること」、すなわち「イメージ・メイキング」を改めて紐解く展覧会が開催されている。

同展が主眼としているのは、光学技術を使わないイメージ・メイキングの可能性を探ること。多種多様な映像装置や機器を展観したのちに紹介されるのは、イメージをつくるための既存の枠組みを分解し、問い直し、そこから新たなイメージ・メイキングに挑戦する作家たちの試みだ。

1960年代から70年代にかけてのコンピュータ・アートの黎明期、新たな芸術表現をコンピュータ・グラフィックスに求めて版画ポートフォリオ《Art Ex Machina(アート・エクス・マキナ)》を発表した、ゲオルク・ネースや川野洋ら6人の先鋭的な作家たち。
数理アルゴリズムという数学の抽象的なシステムを用いながら、詩的な作品を平面、立体、映像のかたちで生み出す木本圭子。
対象物にレーザーを照射してスキャンすることで像をつくり出す藤幡正樹。
いずれも光学技術を超えた独自の手法が興味深い。
なかでも2004年に藤幡正樹が制作した《ルスカの部屋》が、対象物を新たにして再制作されるのも注目だ。レーザーによって部屋の中にイメージがつくられていく「非光学のイメージ生成」の過程を体験できる貴重な機会となる。

映像作家として国際的に評価の高いタマシュ・ヴァリツキーの代表作がまとまって紹介されるのも同展の大きな見どころ。初期のコンピュータ・アニメーション《ザ・ガーデン》や〈機械たち〉から、2019年のヴェネチア・ビエンナーレで好評を得た最新シリーズ《想像のカメラ》まで。技術面での創造性に加え、作家自身の幼少期の記憶が投影された詩的な魅力にあふれる《想像のカメラ》は、今回が国内初の出品だ。

川野洋《無題 (Red Tree)》〈Art Ex Machina〉より 1972 年 個人蔵 Copyright Gilles Gheerbrant 1972/202
大本圭子《INSIDE》2009 年 東京都写真美術館
藤幡正樹《ルスカの部屋》2004/2022 年 [参考図版] 東京都写真美術館
タマシュ・ヴァリツキー《ザ・ガーデン(21世紀のアマチュア映画)》1992年 作家蔵

【開催概要】
『イメージ・メイキングを分解する』
会期:2022年8月9日(火)~10月10日(月・祝)
会場:東京都写真美術館 B1F 展示室
時間:10:00~18:00、木金は20:00まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜(祝日の場合開館翌平日休)
料金:一般700 円、大学560 円、高中・65 歳以上350円
美術館公式サイト:https://topmuseum.jp/contents/exhibition/index-4276.html

タマシュ・ヴァリツキー 《二眼レフカメラ》〈想像のカメラ〉より 2017/2018 年 作家蔵