「認知症=怖い」はもう古い。医療・介護・福祉・高齢者問題をテーマに活躍、多数の著書を持つジャーナリストと、メディアや新聞各社でも多数活躍する司法書士との共著『認知症に備える』より、そもそも認知症とはなんなのか、認知症になったらどんなことに本人が困るのか、もしくは困らないのか、どのような制度が利用できるのか等、すぐ実生活に活かせるようなヒントを、以下抜粋して紹介する。
これってホントに認知症?
認知症の原因の3つめは、脳の外傷や脳腫瘍をはじめ、さまざまな原因で認知症状が出るその他の病気です。
これには頭を打ったときに脳の中に血栓ができる「慢性硬膜下血腫」や、頭蓋骨内に過剰にたまった脳脊髄液(髄液)が脳を圧迫する「正常性水頭症」をはじめ、全身の神経に炎症を起こす「神経ベーチェット病」、神経中枢が侵される「多発性硬化症」があります。
また、血液中の甲状腺ホルモンが不足する「甲状腺機能低下症」や、副甲状腺ホルモンが出すぎる「副甲状腺機能亢進症」、アルコール中毒、薬物中毒、ビタミンB1欠乏症などに加え、病気の治療のために処方されている薬が原因になることもあります。
これらの多くは手術や、減薬などの治療で症状が改善されるので「治る認知症」と呼ばれています。新聞広告などでよく見かける「認知症は治る」とうたわれた本の中身は、これらの病気を扱ったものです。
もの忘れなどが増え、「認知症かな?」と疑ったとき、まず、こうした病気の影響がないかを調べてもらいましょう。処方されている薬が原因になっていないかどうかも、合わせて調べてもらうといいと思います。
「治る認知症」のなかで、比較的簡単な手術で改善することが多いのが、慢性硬膜下血腫 と正常性水頭症です。
転倒などで頭を強く打ったとき、外傷もないし、レントゲンで見ても骨に損傷が見つからないのに、2~4週間で脳の表面に血の塊ができることのある慢性硬膜下血腫では、3週間から数か月後に頭痛や吐き気、歩行障害などに加え、認知症状が出ることが。これは頭に小さな穴をあけ、血の塊をチューブで吸い出すことで、症状が治まる可能性があります。
また、頭の打撲、くも膜下出血などさまざまな原因で髄液が脳内にたまる正常圧水頭症では、歩行困難、失禁などに加え、もの忘れが起こることがあります。脳か腰の脊髄からお腹にチューブを通す手術をすることで、7~8割が改善するといわれます。
慢性硬膜下血腫と正常性水頭症を疑った場合は、脳神経外科や神経内科で受診するのが一般的ですが、CTやMRIなどの画像検査設備がそろった総合病院であれば、もの忘れ外来など認知症を扱う診療科で診察することもできます。
女性の場合、「認知症かな?」と思ったときに、真っ先に疑ったほうがいいといわれているのが甲状腺機能低下症です。
甲状腺は頸部にある新陳代謝を調節するホルモンをつくる臓器のひとつ。甲状腺ホルモンは多すぎても少なすぎてもからだに影響を及ぼしますが、少ないために引き起こされるのが甲状腺機能低下症です。
代表的な症状としては、疲れやすい、寒さに弱い、からだがむくみやすい、眉が薄くなる、体重増加などに加え、高齢者では意欲や気力の低下、もの忘れ症状が出ることがあります。
甲状腺機能低下症の診断は、採血で簡単にできます。甲状腺ホルモンの低下がある場合は、甲状腺ホルモンを補充することで症状は改善します。
女性の甲状腺機能障害は男性の13倍といわれています。女性で上記の症状があり、もの忘れが気になってきた人は、まずはかかりつけの内科クリニックに相談してみるといいでしょう。
「高齢者うつ」も認知症と間違えられやすい病気です。子どもから高齢者までどの年代でも、うつ病は発症する可能性がありますが、高齢者のうつ病は「一日中ボーッとしている」「なんとなく元気がない」など、認知症の初期に似た症状があるため、認知症と間違われやすく、知らないうちにうつや認知症の症状が進行してしまうことがあります。
うつ病と認知症は、どちらも日常生活に支障が出てくるという共通点がありますが、原因がちがいます。
認知症は「脳になんらかの障害が起こる」ことが原因で、記憶力や判断力などの認知機能が低下しますが、うつ病では、「抑うつ症状が長く続く」ことで日常生活がうまくいかなくなってきます。
認知症とうつ病は区別しにくいことに加え、合併することも珍しくなく、うつ病の人が高齢化すれば認知症になったり、逆に認知症の人がうつ病にかかることもあるため、認知症専門医の診断が必要です。診断が間違っていると、治療法まで間違った方向に進んでしまうからです。
また、胃を切除した人には、4年以上たってからビタミンB12欠乏症が、アルコール依存症の人では、ビタミンB1欠乏症が起こることがあり、もの忘れやからだのふらつきなど、認知症に似た症状があらわれることがあります。
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