米アップルが腕時計型端末やノートパソコンの量産をベトナムで始めるべく取引先のサプライヤーと交渉中だと、Nikkei Asia(日経アジア)や米CNBC8月17日に報じた。

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 米中貿易摩擦や中国の「ゼロコロナ」政策が電子機器メーカーの製造分野に暗い影を落としており、アップルは中国サプライチェーン(供給網)依存からの脱却を推し進めている。今回の計画が実現すれば、アップルはベトナムで初めて腕時計型端末「Apple Watch」とノートパソコンMacBook」を量産することになる。ベトナムにとっても恩恵がもたらされるという。

台湾・鴻海や中国・立訊などが製造受託

 日経アジアによると、電子機器受託製造サービス(EMS)の台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)と中国・立訊精密工業(ラックスシェア)が、ベトナム北部でApple Watchの試験生産を始めた。

 アップルは、これらサプライヤー企業に対し、ベトナムMacBookの試験生産ラインを設置するようにも要請している。ただし、MacBookベトナムでの量産計画は、進展が遅いと事情に詳しい関係者は話している。新型コロナ関連の混乱に加え、ノートパソコンの生産にはより大規模なサプライチェーンが必要だからだという。ノートパソコンのサプライチェーンネットワークは現在中国に集中しており、同国はコスト競争力も高い。一方で、現在のMacBookの部品は以前よりもモジュール化されており、中国以外での生産が比較的容易になっている。今後はいかにコスト競争力を持たせるかが課題だという。

 アップル製品のベトナムでの生産は2020年に始まった。まず、ワイヤレスヘッドフォンAirPods」から始まり、現在はタブレット端末「iPad」も一部製造している。アップルは今後、iPadベトナム生産を拡大していく意向だ。iPadは、まず、電気自動車(EV)大手の中国・比亜迪(BYD)が受託したが、関係者によると、今は鴻海も受託しており、さらなる量産に向けて生産体制を調整中。アップルは、スマートスピーカー「HomePod」の試験生産ライン設置に関してもサプライヤーと協議しているという。

iPhone以外軒並み減収、要因は部品調達の制約

 アップルは22年4~6月期の決算発表で、スマートフォン「iPhone」を除くハードウエアの売上高が軒並み減少したと報告した。パソコン「Mac」は前年同期比10.4%減、iPadは同2%減、ウエアラブル機器は同7.9%減だった。同社はその理由について、「中国のロックダウン都市封鎖)の影響で部品調達の制約を受けた」と説明した。

 こうした中、同社は製造分野の地理的な中国依存を低減するため、アジア諸国での生産増強に力を入れている。例えば台湾の鴻海や、緯創資通(ウィストロン)はすでにインド工場を持ち、主にインド国内向けのiPhoneを製造している。アップルは22年4月、現行モデル「iPhone 13」のインド生産を開始したと明らかにした。現在は、輸出向け製品の可能性も含めインドでの生産拡大について複数のサプライヤーと協議している。

ベトナムが注目される理由

 ただ、米ウォール・ストリート・ジャーナルは、インド政府と中国政府が冷え込んだ関係にあり、中国を拠点とするEMS企業がインドに工場を持つことが困難だと報じている。そのため、アップルと取引のある中国EMSは、ベトナムなど東南アジアの国々に注目している。

 台湾アイザイア・リサーチのアナリスト、エディー・ハン氏は「世界の重要な工場としての中国の役割は困難に直面している」と指摘する。米中貿易摩擦や、中国政府による電力使用制限やゼロコロナといった政策がその要因だという。「こうした状況で、ベトナムはサプライチェーンのエコシステムを徐々に拡大しており、多くの電子機器メーカーにとって理想の目的地になっている」(ハン氏)という。

 日経アジアの調査によると、ベトナム国内に製造拠点を持ち、アップルと取引のあるサプライヤー企業は18年時点で14社だったが、現在は22社以上に増えている。米グーグルや米デル・テクノロジーズ、米アマゾン・ドット・コムなどもベトナムに電子機器の生産施設を構えているという。

 (参考・関連記事)「アップル、iPhoneの製造で脱中国依存を模索 | JDIR

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(写真:ロイター/アフロ)