性同一性障害特例法に基づき男性から性別変更した女性らが、凍結精子を用いて生まれた子2人の認知などを求めていた裁判の控訴審判決が8月19日、東京高裁であった。

東京高裁(木納敏和裁判長)は、女性らの訴えを退けた一審・東京家裁判決を覆し、子2人のうち性別変更前に出生した長女については、出生時に認知請求権を行使できる法的地位を取得していたとして、法的な親子関係を認める判決を言い渡した。

判決後に開かれた会見で、性別変更したAさん(40代)は、「正直驚いた。このような判決が出るとは考えてなかった。長女については嬉しいが、次女の認知が認められなかったのは残念」と話し、次女に関する請求部分については上告し、最高裁の判断を仰ぐ考えを示した。

●「性別変更した女性に対し、『父子関係』に基づく認知請求権を認める」

この裁判では、Aさんのパートナー・Bさん(30代)が2人の子どもを代理した原告として、Aさんを被告とする「認知の訴え」に関するもので、利害が完全に一致しているカップルが原告と被告になっていた。

一審・東京家裁は2022年2月、女性が父親として子を認知することはできないことと、母子関係は懐胎・分娩によって生じるので、懐胎・分娩していない者には親子関係が生じていないことなどを理由に、「親子関係は認めない」との結論を下した。

東京高裁は、認知請求権を定める民法787条にいう「子」は、「母と父との間の性交渉に由来して出生した、父との間に生物学的な父子関係を有する者」と解釈。もっとも、生殖補助医療により出産した場合にまで、「子の生物学的な父子関係を有する男性に対する認知請求権の行使を否定すべき理由はない」との判断を示した。

同条の「父」は、生殖機能を有する生物学的な意味での男性だとしたうえで、性同一性障害特例法による性別変更前後で民法の解釈は変更されないとし、Aさんが性別変更前に出生した長女については、「父」であるAさんに対する認知請求を認めた。

一方、性別変更後に出生した次女については、Aさんとの生物学的な父子関係は認められるものの、出生時にはAさんの法律上の性別が「女性」だったことから、同条の「父」とはいえず、認知請求は認められないと結論づけた。なお、「母」であるAさんに対する認知請求も否定している。

●長女の認知請求については「上告しない」

判決後に開かれた会見で、原告ら代理人を務める仲岡しゅん弁護士は、「想定していなかった判決でびっくりした」と率直な印象を語った。

「一審判決は2人の認知請求いずれも認めませんでしたので、今回、長女の認知請求が認められたという点についてはポジティブに考えています」

一方、次女の認知請求を認めなかったことについては「公平性に反するのでは」と語気を強める。

「性別変更前に生まれたら認知ができて、後に生まれたら認知ができないというのは、姉妹間の公平性に反するのでしょうか。

常識的に考えて、長女にはお父さんがいて、次女にはお父さんがいないという状態は、かなりいびつなのではないでしょうか。姉妹間の不平等は是正していかなければいけないと思います」

性自認も法的にも女性であるAさんを「父」として認知できるという判決だったが、Aさんとしては「認知が最優先」というスタンスだったと話す。

「たとえば、レズビアンの母親同士だったら、(子から見て)『2人の母』でおかしくないと思いますし、『2人の父』『2人の母』も今後は認められていくべきだと個人的には思います。

ただ、今回については、認知できることを第一に考えていましたし、私自身はたしかに生物学的には『父』ですので、(『母』として認知できるという形には)強いこだわりがあるわけではありません」

もっとも、認知が認められたのは長女のみで、次女については一審と変わらず認められなかった。Aさんは、高裁判決が出生が性別変更の前か後かで判断を分けた点について「おかしい」と話し、最高裁へ上告する意向を示した。

「性別変更の手続き(のタイミング)を変えれば、次女の認知も認められたということなのでしょうか。

長女の認知を認めたことというのは、子の福祉の観点から、子どものことを考えての判断なのではないでしょうか。その観点から考えれば、次女の認知も認めるべきだと思っています。

セクシュアルマイノリティの子だと色々言われたりするかもしれませんが、そういうことがないようにしてあげたい。『Aさんの子どもだから…』ということがないように、自分の子どもにできる限りのことをしてあげたいと思っています」

会見で、仲岡弁護士は、「長女については上告しない方針」であることを明かし、次女の認知をめぐる請求についてのみ上告すると話した。長女に関する請求部分は、このまま高裁判決で確定する見通しだ。

性別変更した女性、自身の凍結精子で生まれた子の認知訴訟 長女は父として認定、次女は認められず 東京高裁